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第二話-劇場に起こる激情

 無事郵便局にたどり着き、五時過ぎ。

「はぁ、さすがに運動してないとちょっと走るだけで辛い……」

 子供のころからアニメとかが好きで、小学生になったときには専ら家で遊んでいた。梨々奈はそんな俺を見ていつも外で遊ぶように誘ってきた。窓から侵入してきたり、家の前で待ち伏せされたり。

 そんな関係性は、今も昔と変わらない。

 変わらない日常。変わらないこの街。変わらない、二人の距離感。

 それでいい。それだから今が面白いんだ。

「そう、俺たちはそれでいいんだ……」

 空を見上げながら呟く。すると不意に何かを蹴った感覚がした。

「……ん? なんだこれ」

 蹴られてころころと転がっていくのはただの石……ではなかった。

 砂利の中でひと際異様な輝きを放つ、鮮やかな青の石。

 俺は近づいて、その青色の石をよく観察してみる。

「これって確か……アクアマリンって言うんだっけ」

 何月かの誕生石みたいなことをちょっと前にテレビでやってたから覚えている。でも、なんでこんなところに……?

「そういえば、梨々奈も今日ルビーのついたブレスレットはめてたな……」

 部活申請とかでグダグダだったから本人に言うのを忘れていたが、梨々奈はいつもつけていないブレスレットをつけていた。そのブレスレットにルビーがついてたことを思い出す。

「誰かが落としたのか?」

 別に何も自分に異常はなかった。

 無心で、何の気なしに、ただ拾おうとした。


 その瞬間――


「――――っ!?」


 何か、重いものを頭に感じた。そして、動悸が激しくなる。でも、重くは感じたが不思議と苦とは思わなかった。

 そして、その感覚と同時にある言葉が頭の中に入ってきた。


『――契約(コントラクト)


「え……?」

 その後には何も聞こえなかった。

 誰かがしゃべったのかと周りを見渡す。しかし気配は何も感じない。それなのに。

「ちょっと失礼」

 一人の男が俺に話しかけてきた。近くにいるのに、足音も気配も気づかなかった。

「……何か?」

 なんとなく、嫌な予感がした。このままだと大変なことに巻き込まれると本能が警鐘を鳴らしている。

 男は、それを実現させたいのかと思うくらいの言葉を投げかけてきた。

「悪いが、その石はこちらに渡して貰おうか」

 黒づくめのコートに、灰色のよく分からない紋章が付いているものを着ており、黄緑色の髪のオールバック、更にその男の後ろには数人同じ服を着た奴が立っていた。

 俺の怪訝な目を男は見て、微笑を漏らす。

「私たちは決して怪しい者ではない」

 いや、どこからどう見ても怪しい者です。

 そんな気の抜けることを思っているのも束の間、男は語調を強めて俺に要求を重ねる。

「そのアクアマリンを渡して貰えばそれでいいのだよ」

「アクアマリン?」

「その石のことだ。渡してくれないかね?」

 俺が左手に持っているアクアマリンを指さす。

「なんで?」

 この応答は実際余計なものだとは分かってる。もしかしたら、本当にこの男が持ち主なのかもしれないし、どっちにせよこれは他人のもの。俺がどうこうする必要はない。

 そのはずなのに。

「私たちにとって、とても大切なものだからだよ」

「その証拠とかは?」

 早く渡せばいい。このままだと何か危険なことが起こる。

 そう心の中では思っているのに、ただ何となく。何となくだが、これを他の人に手渡してはいけないような気がした。

「ふん、しつこいな。さては、人間界の精霊保観部(ほかんぶ)か?」

「は? 保観部?」

「……まあいい。そうでなくとも、渡さないのならば強引にでも奪うまでだ」

 そう言って、左手の人差し指で俺を指す。そして……

「やれ」

 冷たく言い放つ。すると、後ろにいた奴らが俺に向かって飛んできた。それも、人間とは思えない速さで。

「ぐっ……」

 られると確信した俺は目を瞑り、アクアマリンを守るように受け身の態勢を取った。もう奴らが目の前にまで来た、その瞬間――

「そんなことはさせないよ!」

 向こうからする聞き慣れた声が耳を貫く。そして、炎の壁のようなものが生成され、襲ってきた奴らははね返される。

「梨々奈!? それに、火野……?」

 そこには、制服姿の梨々奈と、魔法少女のコスプレのような服を着ている火野がいた。

「睦月、大丈夫だった?」

 梨々奈が俺に駆け寄り、火野も遅れて近くに来る。幸いなことに、俺は全くの無傷。

「俺は大丈夫だが……二人とも、それは……?」

 梨々奈と火野の足元には、半径五メートルくらいの魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。

「とにかく、そういった説明は後で! 今はその石だけは、大事に持ってて」

 いつもは見ないような真剣な顔をして梨々奈が言う。俺は「分かった」と答えるしかなかった。

「ほう、私とる気かね……」

 梨々奈たちは俺の前に立ち、あの男たちと対峙する。

「お前たち二人、最近この辺りを取り締まっている保観部だな?」

 さっきもそんなこと言っていたな。精霊保観部とか何とか……

「……それがどうしたの?」

「お前らには早々に消えてもらいたかったから……な!」

 そう言うとさっきの俺と同じように指さし、後ろの奴たちを動かす。

 奴らの動き、さっき俺を襲おうとしてた時とは段違いじゃないか!?

「梨々奈、火野!!」

 俺が叫ぶと、梨々奈は少し笑みを浮かべた。

 今までの梨々奈からは見れるとは思えない、ちょっと不敵な笑みだ。

「瑠衣!!」

「はいよ!!」

 息のあった返事をしたと同時に、梨々奈がつけているブレスレットのルビーと魔法陣が光りだす。

「<放物炎(ライティング・ファイア)>!!」

 梨々奈が叫ぶと、火野の掌から炎が出され、輪の形になって黒服の奴らを縛りあげる。

「「<捕爆(キャプチャ)>!!」」

 縛りあげた炎の輪が激しく燃え上がり、炎に奴らは飲み込まれていき、やがて動かなくなった。

「……ほう?」

 何だかよく分からなかったが、とりあえず梨々奈たちが勝ったのか……?

「やってくれるじゃないか……ルビーの宝石精霊(フェリシア)とその所持者(パートナー)。しかし、これくらいでこいつらがくたばると思ってもらっては困るがな」

 男はそう言い、指をパチンと鳴らす。

「「「―――!?」」」

 禍々しいオーラを放ちながら立ちあがっていくその姿は、どこかトラウマを植えつけるようなものだった。

「な……」

 梨々奈と火野は唖然とする。俺は立ち上がれもしない。

「私はその石が欲しいのだ。余計な邪魔はいらん。大人しく渡すという選択肢はないのかね?」

 再び俺が持っているアクアマリンを指さし、男は歪な笑みを浮かべる。今度は蔑みの目だ。俺もまた、反射的に石を後ろに隠す。

「人間と、その人間如きに従う精霊に、私たちが負けるはずないことを覚えておいてもらおうか」

 俺へ照準を向けて何かをしようとする。俺も何とか避けようと身構える。

「……ふん」

 そして、俺へ超速度で突っ込んでくる! 頭ではそれを理解したが、体がそれに追いつかない。

「っ! させない!」

 火野は即座に反応し、俺を庇おうと飛び出す。

「邪魔は……しないでもらおうか!」

 そう言うと同時に、男の影から剣の形が作られ、火野を斬りにかかる。

「くっ、瑠衣! 止めるよ!」

「うん!」

「<圧縮爆撃(ジップスロージョン)>――」

 瞬間、剣は方向転換。更に形状をこん棒に変え、梨々奈へ向けて襲いにかかる。

「小賢しい」

「きゃ……!」

「梨々っ……()っ!」

 梨々奈の右腕に影が当たり、その瞬間に火野も右腕に痛みを感じているように見えた。火野は何もされていないはずなのに、どうなってるんだ……?

 だが、そんなことを考える暇ももうない。

 男はまた俺の目の前にまでやってくる。

 その上から俺を見る目。俺を格下だと見る態度。哀れだと思う態度。

「ぁ……ぃ……」

 恐怖からなのか、声が枯れたかのように出てこない。

 なんで、こんなことになった?

 普通に、平凡に、何事もなく暮らしていたはずなのに。

 嬉しいこともあって、悲しいこともあって、怒ることもあって、些細なことで人と仲違いもして。普通の暮らしをしていた。

 日常(いま)がいいと思っていた。

 なのに、何故――?


 ああ、そうだ。あの日か。

 あの時の償いなのかもしれない。

 自分のために、他人を使った。

 俺が生きるために、梨々奈を使った。

 奇跡でまた、この日常は彩られた。

 奇跡は、ずっと続くことはない。

 梨々奈は多分、まだこの世界にいることが許されたんだろう。

 それなら、俺はどうなんだろうか?

 梨々奈といること自体、許されることなんだろうか――


「……き! 睦月! しっかりして!」

「はっ!?」

 梨々奈が俺の名前を叫び、ようやく俺は虚ろになっていた気を戻した。火野と梨々奈は影を防いでいた。しかし、それも長く続きそうにはない


 またか。またなのか。


 また同じ人に助けられ、傷をつける。

 俺は、昔から変わらないみたいだ。

「(本当に、それでいいのですか?)」

「……え?」

 どこからか、声が聞こえてくる。辺りを見渡してみるが、俺の前で戦っている三人しか見当たらない。その三人の声とは違う声だ。

「誰だ?」

「(私のこと、今はいいです。それより、あなたはこの石を自分で守りたいのでしょう?)」

 頭に直接訴えかけられているような感じ。頭の中に響く感覚がなぜか心地いい。

 そして、見透かされている。

「なんとなく、そう思っただけだ」

「(……そうですか。では、今はあなたに託しましょう)」

「何を?」

 それから一拍置いて。

「(力を、です)」

 俺には何のことだかさっぱり分からなかった。考える余裕もない。

 まだ不可思議は終わらない。

 アクアマリンから煌々と輝き、強い光を放つ。

「っ! なんだ!?」

 他の三人も光に気づき、こちらを向く。すると、光の中から水の槍が出現した。

 そして、影を貫いた。男は三歩ほど後ろに下がる。

「なんだと……!?」

「睦月! 何が起こったの!? もしかして……」

 その間に梨々奈が心配してこちらに来る。男はただ茫然としていた。

「いや、急に光が……」

 何か声が聞こえてくると思ったら、その後すぐに石から光が放たれた。

 正直どう説明すればいいのか整理できない。

「そうか……お前もそうだったのか……」

 男が不吉に笑う。これも、少なからず見下している。

「あなたは何なの? 瑠衣たちと同じじゃないの?」

 蔑みの目に対して、梨々奈は少しぶっきらぼうに返す。

「こんな下等生物に服するような貧弱な奴とは違うさ」

「何ですって!?」

「落ち着いて!」

 火野が炎を体にまとわせながら一歩踏み込む。それを梨々奈はすぐに抑える。

「今回は一度引き返すとしよう……今度会ったときに、捻り潰してやる。こちらも今以上に準備をする。覚悟しておくことだな……」

 そう言うと、仲間を引き連れてどこかへ消えていった。

「っはぁ~~~……」

 奴らが消えた後、梨々奈は大きくため息を吐き、地面にへたりこんだ。

 石の光も、いつの間にか消えていた。




――「睦月、とか言っていたか。あいつも『そう』だったようだな」

 男は、呟きながら大部屋に入る。そこには、少女が一人。

「あら、オニキス。アクアマリンはどうしたの?」

「は。それが、所持者(パートナー)が見つかってしまったようで……」

「それはもしかして、露葉睦月?」

「名字までは確認できませんでしたが、睦月と言われていたので恐らくそうかと。人間とお知り合いなのですか?」

「いえ、一方的に私が知っているだけよ。『あの子』伝いにね」

「それが、あのアクアマリンの……」

「そう。アクアマリンの中に眠る、とっても可愛い――私の無垢な妹からね」


一か月ぶりになります、未来です。

ボウリングで爪が割れました。爪切り大事。


休みでネタもないので早めに謝辞を……

ここまで読んでいただきありがとうございました!

感想・レビュー・ブックマークなど励みになります。なにとぞよろしくお願いします。


第三話もなるべく早くに更新しようと思っています。またのアクセスお待ちしております!


9月8日 来海未来

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