岩魔法と雷魔法
村にそのまま行くのかと思ったが、途中でまた1時間ほど薬草を探していた。
さっきゴブリンに襲われたのによくまだ探す気持ちでいられるなと思ったが口には出さなかった。
だって、父親の為だなんて言われたらなぁ、そりゃ手伝ってあげようって気持ちにもなる。特にマリーは娘と同じ年ってのもわかったからね。
でも、まあ見つかる気はしない。
がさがさとゴブリンが持っていた槍を使って草の根を分けながら確認する。
一応粗末な槍と粗末な剣は回収しておいた。
杖代わりには使えるだろうし、もしかしたら剣が売れるかもと思ったのだ。
ルードは村にだったら何かの素材にできるかもって言っていたしな。
薬草は真っ赤な色をしていて群生っていうのか1m位の場所に集まっているそうだ。
葉ではなく根っこが薬になるそうなので槍でがさがさ探している。
しかし辺り緑一面の草原にそのようなものは見えない。
「…どうして無いんだ!」
ルードが叫んでマリーがびくっと体を震わせる。
おろおろとあたりを見渡すマリーを見ていると、なんだか叱られた娘を見ているようでなんとも言えない気持ちになる。
「と、いってもな。真っ赤な薬草なんて、見ただけでないってわかるじゃないか。
他に薬草がある場所はないのか?」
「…代官が持ってる」
「じゃあ、その代官にもらえばいいじゃないか?
親父さんの為なんだろう?頼んでみたのか?」
「あいつは駄目だ!昨日頼んだ時に、マリーと母さんを渡せば薬を渡すって笑いながらいってたんだぞ!」
…なんかすごいテンプレだな。
そういえば親父さんの病気のことも聞いてないけど、まさかな。
「なあ、なんで親父さん病気になったんだ?」
「父さんは狩人で、森に狩りに入っていた時にマンドラゴラの声を聴いて病気になっちゃったんだ」
「マンドラゴラっていうと、抜けるときに声をだすっていうやつか」
「そうだよ、抜いたときに声がでるやつ。
…父さんはなんとか村まで戻ってきたんだけど、徐々に体が動かなくなっていって今じゃあずっと起き上がれないし、咳も止まらないんだ。」
「なんで親父さんマンドラゴラなんて抜いたのかね?薬になるとか?」
「わかんないよ…。」
ルードの声がそこで途切れると、俺としてもなんともほかのことを聞きづらい空気になってしまった。
実はその代官がマンドラゴラを仕組んだんじゃないかとか、魔法使いの事とか。
特に魔法使いの事を聞きたかったんだが。
「ね、ねえ。お兄ちゃん。もう帰ろう」
マリーがおどおどとルードに話しかける。
「なんでだよマリー!お前父さんが心配じゃないのか!」
「…う、うん。でももう暗くなっちゃうし」
辺りは確かに暗くなりかけていた。
時計はまだ4時過ぎといったところなんだが、季節が秋か冬なのかもしれない。
そう思ったらなんだか寒くなってきた。
「まあ、ほら。さっきも言った通り、俺もなんとかできるかもしれないし」
「…はあ。病気を治せるのは魔法使いだけだってスプーキーもしらないのかよ?」
子供らしく生意気な感じでいわれた。
「うん、知らないんんだな、これが」と言うと。ルードは大げさにため息を吐いて「もういいよ、村に戻ろう」と言って歩き出した。
マリーはルードの後ろをついていき俺もそれについていく。
流石にこんな何もない場所にずっといたいとは思わないからな。
少し草原を歩いたが、やっといかにも人が踏みしめ続けて作りましたという感じの街道に出た。
道中、少しルードから話を聞けたがどうやら魔法使いというのは魔術師と方術士について聞いてみた。
ルードはこちらを見て、「何も知らないんだな」呟いてひどい目で見てきたが教えてくれた、いい子やでほんま。
魔術師とは、5属性に応じた魔法を使える人。
方術士とは、教会に所属する癒しの魔法を使える人。
簡単に説明するとこうだった。
戦闘系だから師で、教会で仕事をする人だから士なのか、と理解したが魔法使いについては、「絵本にでてくる人だよ!突然現れたり、山を運んだりできる人の事」とキレられた。
でもタブレットにもそんな職業なかったな、隠し職業だろうか。
ついでにオークについて聞いたところ、端的にいうとデブということだった。
うん、わかってた。
なんて思いながら街道を歩いていると、あっという間に日が翳り暗くなっていく。
マリーの言うことを無視して薬草さがしていたらあっという間に周りが見えなくなるところだったな。
「あそこが、ジィマリッハ村だよ。」
どうやら完全に暗くなる前に、村にたどり着けたようだ。
村の入り口には、篝火というんだろうか無双ゲームでよく門の前に置いてあるような3本の棒を組んだ上に置いてあるボウルに火が灯っている。
その横に二人の男が立ってこちらを見ていた、一人はすでに腰から剣を抜いている、もう一人というと片手に弓を持ち、反対の手は振りかぶるように背中に手を伸ばしている。
あれはもしかして矢を取ろうとしてるのか?矢って腰に筒みたいなのを付けて入れておくんじゃないんだな、わざわざ背中に手を回すなんて取り辛そうだ。
なんてのんびり思っていたのだが、剣を持った男が叫ぶ。
「マリー!ルード!早くオークから離れるんだ!」
はい、状況把握。そういうことね。
マリーとルードは俺の方をみると「説明してくる!」と言って二人の方に向かった。
一応俺の方でも人間だと伝えておこうか。
「いや、俺はオークじゃないぞ、人間だ!」
できるだけでかい声で伝えておいた、俺がしゃべったのを聞いたからか、弓を持っている奴は慌てて矢を取り出し弓に矢を番えた。
おい、なんでだよしゃべれるんならオークじゃないんだろ?
「くっ、言葉を理解するオークだと!オークメイジかオークリーダーか!」
ああ、そういうのもいるのか。
やべえどうしよう。
「まって!この人はオークじゃないよ!」
ルードが弓の男に叫んでいる声が聞こえた。
「駄目だ!オークなんて村に入れたら女にとっては地獄でしかないんだぞ!子供にはわからんと思うが、入れるわけにはいかない!」
…くっ、殺せ。があるのか心が震えるな。いやふざけている場合じゃないのはわかるんだが、うーん、どうしたらいいんだこれは。
「えーと、本当に人間なんだが何をしたらわかってもらえるんだ?」
「………」
すさまじい勢いで睨まれた。
これが殺気か、こりゃあかん、まじでやばい。
と、思っていると弓の方が俺に矢を放ってくる。
それと同時に剣の男が突っ込んでくる。
「ちょ、ま!」
さっきゴブリンと戦った時と同じ違和感、それがあった。
なんだか動きが緩慢になるというか、俺には矢の軌道が見えていた。
そう、俺は棍棒を避けたときと同じように矢を避けれたのだ。
「うおお!す」
「うおお!」の後に続けて、すげえ!と叫びたかったが剣を持った男が俺に切りかかってくる、しかしその動きも見えていた。
昔、剣道をやっていたんですよ、実は初段なんですなんて会社でドヤ顔で言った事はあったがここまでハッキリ攻撃がみえていたことなんてない。
1回目の大きく振りかぶった攻撃を躱すと男は驚いた顔をしていたが俺もビックリしている。
下がった剣を上げる形で刃が迫ってくる、その反す刃を避けようと思ったが、思うように体が動かず少し腹を切られた。
「うおっ…!」
血がちょろっと出た、マジで痛い。本で指切った時より痛い。
ここまでやるか!太っている事がそこまでの罪なのか!
いったん距離をとって、ゴブリンが持っていた粗末な剣を握り構える。
槍は邪魔だから、その辺に放る。転がった槍に足を取られても嫌だし。
「まってくれよ、俺は本当に」
「構えたな!やはり襲うつもりか」
「oh…」
oh…なんていってる場合じゃない、矢も飛んでくる。
矢が飛んできたと思ったら剣の男は右から回り込んで俺の退路を断ってきた。
何してんだ、意味あるのかと思ってみてしまった、注意をそらした背中に痛みが来る、矢が刺さっていた。
「ぐ…岩魔法!」
と岩魔法を何度も叫ぶと俺は弓師と自分の間に巨大な岩を屹立させる。
その間にも剣の男は襲い掛かってくるが、気にしている余裕はない。
ひーひー言いながらよけ続け、岩壁を完成させる。
結構なMPがなくなった気配がして頭が痛い、しかしお蔭で矢を注意する必要はなくなった。
「オークメイジだったか!」
剣の男が右から回り込んだと思ったら、なぜかすでに左にいた。
避けようと思ったが背中が攣って痛すぎる、情けないが背を向けて逃げようとすると矢が飛んできて右腕の二の腕に刺さる。
痛みと同時に納得した。
そうか、岩から出すためにさらにまわりこんで、それを見越して弓師はこっちに矢を撃ったのか。
これ以上は死にかねない。
相手の剣に向かって、ゴブリンの剣を叩きつける。
なんとなくわかるが、力の限り叩きつけすぎた、俺が叩きつけたのになぜか折れたのは俺の剣だった。
「バカめ!」
剣の男は「獲った!」とばかりに振りかぶってきたが、俺も死にたくない。
「雷魔法!!」
叫んで雷魔法を叩きこんだ、水魔法はゴブリンを殺すほどの威力があったので水魔法で直接攻撃するのは躊躇われて、雷魔法を使ったのだ。
剣の男は俺に襲い被さる形でそのまま倒れこんできたのでゴブリンの剣を放して支えてやる。
倒れ方が後頭部をやられたルーグと同じで、雷魔法をあてた瞬間白目を向いたのが見えたのでよけなかった。
これ以上、矢を撃たれても困るし、この男が死なれても困る。
俺は弓師からみて岩陰になるほうに男を引きずって隠れると、腕に刺さった矢を力任せに引き抜く。
痛すぎて涙がでるし、矢じりに肉がついていた。
癒し魔法を使って自分の傷を癒す、よかった肉が盛り上がって血が止まった。
背中の矢には手が届かないのでそんままにしておくしかない。
雷魔法をあてた男にも念のため癒し魔法をかけておく、岩のむこうでルードとマリーの声が聞こえてくるが俺はまたしても気絶してしまった。