俺はオークじゃない。
「お兄ちゃん!起きて、お兄ちゃん!」
マリーが僕を呼ぶ声が聞こえる…。
俯せに寝ていた僕の背中を小さな手が揺さぶっている。
なんだ朝か、と起き上がろうとするが口の中にじゃりじゃりしたものが入っているのに気付いて顔を上げると僕は口から何かを吐き出した。
「ぺっぺっ…、なんで口の中に土が入ってるんだよ」
ぼんやりとした頭のままあたりを見回す、そこには濃い緑色ゴブリンの死体が転がっていた。
僕の頭はすっと覚め、真横で跪く妹のマリーの手を引き立ち上がった。
「マリー!ここは駄目だ!なんでこんなにゴブリンがいるんだ…!
そ、そうだマリー!怪我をしていないかい!」
思い出した、そうだ僕はお父さんの病気を治すために薬草を探しに来たんだ。
外にでた僕を見つけたマリーが追いかけてきて、それで薬草がよく生えているって聞いた場所に来たんだけど、ゴブリンに襲われて…、そうだゴブリンとは逆の方から草が擦れる音がしたからそちらを見たんだ。
そして銀髪の豚頭亜人と目が有って…、後ろからゴブリンに襲われたんだ。
僕は自分の後頭部を触ると血が乾燥して血が剥がれおちる。
指の感触で髪の毛が固まっている範囲がわかるが、かなりの血が流れていたんじゃないだろうか。
妹がしきりに大丈夫か確認をしてくるので、「大丈夫だよ、うるさいな」とつい言ってしまった。
妹はシュンとしたが「あっちに、助けてくれた人がいる」と言って僕を引っ張る。
手を引かれ歩くと多数のゴブリンの死体が目に入る。
いくら強くないとはいえ、これだけの数を倒せるのだ村人ではなくて冒険者だろうと思ってついていくと、そこには銀髪の豚頭亜人が座っていた。
「さっきのオークじゃないか!」
僕はそう、叫んでしまった、はっとして口を抑えるがオークは呻きながら目を開いた。
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「…!」
…やばい、寝てた。
誰かの声が聞こえて目が覚める、以前にゲームにはまっていたころ遅くまで起きていたせいで仕事中にうとうとしたことはあったが、またこんなことになるとはと思いつつ俺はぼんやり目を開けた。
椅子に座ってデスクのキーボードをたたいている"フリ"をしてしまう。
しかし、指がわきわきと動いてもキータッチしたときの音が出ない。
それどころか草原にいた。
「…さっきのは、夢じゃなかったのか」
そう呟くと目の前に槍を突き出される。
「動くな!」
その声は若く、さっきの少年のように聞こえた。
動くなと言われたが声の方に顔を向けてしまった、そこにいたのはやはり金髪の少年だ。
非常に険しい顔をしているが、どうやら傷は癒えたらしい、よかったよかった。
「…動くなと言っている!なぜオークが人間を助けた!」
横には妹さんも無事なようでこちらは困った顔で俺を見ていた。
しかし、オークってアレか。「くっ、殺せ」か…流石ゴブリンがいるだけある。
でもまあ、オークに間違われてるのかー、それともオークになってるのか?
ああ、太ってるからか。
と一人納得をしていると「おい」と上から声をかけられる。
「何?できれば槍をどけてくれるとたすかるんだけど」
少年はこちらが返事をしたことに驚いたのか「オークじゃないのか?」と尋ねてくる。
もしかしてオークは言葉を喋らないのだろうか?
「うん、人間だよ」
「…も、もしかして貴族の御方。です、か」
槍を引きながら、怯えた声が聞こえてくる。
「違う違う、貴族に見えるの?」
「…は、はい。その恰幅もいいですし、服装も高そうですから」
「服装?」
俺は大きなサイズの専門店で買ったスーツを着ている、このスーツは確かにいい値段したな、と思ったが少年の服装が滅茶苦茶貧相だったのでそういう意味かと納得した。
しかし服装でわかるなら槍を向けなくてもいいような気がするけどな。
「まあ、それでも違うけど頭の傷は大丈夫かい?」
「もしかして治してくれ「お兄ちゃんを治してくれてありがとう!」」
兄の言葉に被るように妹がお礼を言ってくる、俺はなんだかとても微笑ましくて「いいよいいよ、無事ならよかった」といいながら立ち上がった。
兄は妹に少し遅れたが確りと頭を下げてくれたので、槍を向けたことも不問にしてやろう。
兄の名前はルード、妹の名前はマリーというらしい。
両方とも愛称かと思ったらどうやら名前はそれだけしかないようだ、俺は自分をスプーキーという名前だと兄妹に教えた。
「…それでこんなところで何をしていたんだ?」
俺が訪ねるとルードが、病気の父を治すために薬草を探しに来たと教えてくれた。
今の時期に生える薬草だと聞いてきたのだがどこにも生えていなくて困っていらしい。
「ねえ、お兄ちゃん。スプーキー様なら治せるんじゃない?
だって、お兄ちゃんの怪我も治せたんだよ!」
「バカ!病気を治すのは魔法使いにしかできないだろ!」
「で、でも。」
「病気を治せるような魔法使いは絵本にしかいないんだよ!」
しかし、魔法使いは絵本にしかいない?タブレットには方術士と魔術師と表示されていたが、魔法使いはまた別物なんだろうか。
俺がルードの言ったことを反芻している間にもマリーはルードに怒られていたため、今はシュンとして下を向いている。
この年頃の兄妹だとこういうもんだよなあと、幼馴染の兄妹を思い出してほっこりしていたが、俺は少しでもこの兄妹の役に立てればと思い。
「治せるか判らないが、見てみようじゃないか。」
と、いって二人の住む村についていったのだ。