4度目の気絶。
その巨大な蟷螂を目にした俺は、固まっていた。先ほどまで戦っていたゴブリンなんかとはわけが違う。
蟷螂がもつ二つの巨大な鎌で木を切ったのだろう、だが、本来蟷螂は鎌をあんな使い方しないだろ?あれはだって、捕獲用の。とうだうだ考えていると、蟷螂がすさまじい速度で鎌を振るう、鎌は鈍色から銀色へと変化していた。
それを少女は避けた。右の鎌のよけ方はすごかった。左手に持つ小さなナイフを使って蟷螂の鎌を滑らせ、ほんの少し動いただけで回避した、薄暗い森の中を横薙ぎに銀閃が走る。
しかし左の鎌は避けられなかった。
「ぐっ、えっ…!」
少女の嗚咽が聞こえた。
その一撃は、こちらから見ても重い一撃だった。
腹を裂き、臓腑も切られただろう。
右の鎌をリンボーダンスのように避けたところに、ほぼ真上から鎌は振り下ろされた。彼女はよろけ、こちらを振り向くと口を動かした。
「に、げ、て」と。
言葉にならない声を出す、知人でもない俺に向かって女性(もう少女などとは呼べない)が言ってきたのだ。
俺は、それをみて、逃げられなかった。
逃げたかった、彼女はもう無理だと思っている。
だけど、俺は異世界に来たんだ。
無茶をしなければならない。
俺は異世界に、"来たかった"んだ。最低で最悪な大人だ。何もかも、自分の持ち物をすてて、新しい場所が見たかった隣の青い芝生を―蟷螂は彼女を捕らえた。
両手の鎌で、彼女の肩を掴むと(そうだ、その使い方は正しい)彼女の首筋に蟷螂の顔が近づく。
「岩の魔術射出型!!」
俺はそう叫ぶと、蟷螂に向かって走り出した。
手から生み出された弾丸は一つ、それは蟷螂の頭に命中する。
その一撃で死ぬとは思わなかったが、思いもよらず蟷螂の右目に命中した。
右目がつぶれ、蟷螂は彼女を手放すと、彼女は地面に倒れこむ。
「パームアイテムクリエイト!!!」
叫ぶ必要などないのに、叫んでしまう。
俺の眼前にジェットバルーンを複数創りだす。
以前にプロ野球観戦した時に使った風船だ。すでに膨らんでいる風船は蟷螂に向かって「ピュー」という間抜けな音を鳴らしながら飛んでいく。
蟷螂は飛んでくるジェット風船に向かって、鎌を振るう。
俺は地面に倒れこむ彼女を拾い、蟷螂がバルーンを刻んでいるところに大き目の風船を生み出しぷかぷかと浮かべ、俺自身は彼女を抱えたまま近くの草叢へと潜りこんだ。それでも10m以上離れられない。バルーンが消えてしまう。
蟷螂は生きたエサしか食わないとどこかで見たことがある、家で飼うときはパンなどを紐につけて目の前で垂らして食べるということも。
草叢で彼女の顔を覗き込む、彼女はやはりというべきか、美しかった。この異世界には美人しかいないのか。
その綺麗な彼女の瞳が俺をじっと見ていた。俺は彼女に癒しの方術を使う、一度では全快しない2度使うと、彼女の瞳に力が宿る。
「もう、大丈夫。です」
彼女が動こうとするが、それを抑え込み、小声で彼女に叫ぶ。
「駄目だ!動いてはいけない!蟷螂は動くものを狙うんだ!」
「はい、ですので、私が囮になるので神官様はお逃げください」
「な、何を言ってるんだ?一緒に逃げるぞ!」
「…いいえ、逃げません。それより神官様、あの浮かんでいるものでクアリング・マンティスを倒せますか?」
「あ、いや、あれでは倒せない」
「…そうですか、倒せないのならば、それではだめです。」
そういうと彼女は、蟷螂から見えないようにか木を背にして立ち上がる。
なんだ?なぜ、俺を助けようとする?もしかして奴隷なのか?
俺は、俺の持つ異世界の知識を生かそうとしていた。
主人が殺された奴隷を見つけた主人公が、その奴隷の持ち主になる話が、あったはずだ。そのせいで、彼女は俺を助けようというのか?
それとも、チョロインなのか?
俺がほんの少し考えている隙に彼女は木々の隙間を縫って、反対側まで移動してしまっていた。
「本当に!なんなんだ!」
俺はそう叫ぶとまた蟷螂の方へと吶喊する、もちろんジェット風船は出しながら。
蟷螂の振られる鎌は、やはり見える。
戦士Lv10の恩恵だろうか、魔術師Lv3であの威力だ、俺自身の感覚が変わっていてもおかしくない。
ゴブリンや、守人と戦った時の感覚だ、知らないはずなのに、知っている。
そういうデジャブのような感覚で俺は避けて、木刀で蟷螂を打ち付ける。
すると、打ち付けたところにはなぜか石が貼り付けられており、木刀が折れてしまう。
「なんだっ、て!」
上から鎌が振り下ろされる間隔があり、先に動いて回避する。
もちろん次の刃もと思ったが、次の刃を避けようとしたところで足がもつれて切られてしまう。
「ぐうっ!」
彼女と同じようなパターンやられてしまった、最初は横薙ぎ、今のは縦切りからスタートというのに違いがあるが、それでも似たような動きを避けれなかった。
肩から切り裂かれる。それでも次の体当たりは躱した。
「岩の魔術射出型!!」
先ほど右目をつぶした、岩の魔術を使用するが、石が飛んでくるのを見るや、蟷螂の全身から石が鎧のように現れ、俺の作った岩の魔術を弾く。
それを見たのか、女性が俺に向かって声を放つ。
「クアリング・マンティスは岩を使う魔術師でもあります、岩の魔術系統は効果があまりありません!」
先ほど目に命中して抉ったのは本当に運が良かっただけのようだ。
俺は折れた木刀を消して、再度木刀を創りだす。今一度叩くが、先ほどと同じ結果に終わり、木刀は砕けていった。
最初の右目を飛ばした一撃で、この蟷螂もほとんど体力をなくしていたのだろう。
先ほどよりも緩慢な動きで、鎌を振るう。
この硬い表皮に守られた蟷螂にどう、対処すればいいのか。
彼女は無事なのか、と思うと彼女は剣を構えたまま動かないでいた。
俺がどうなるかわからないから動けないでいるのだろう、彼女の持っていた剣を見て、俺は魔法を再度使用する。
「炎の魔術至近距離持続型!」
俺の手のひらに、炎の短刀が生まれる。
蟷螂が鎌を再度振ってきたところに、蟷螂の内側にもぐりこむと、腹部に炎の魔術至近距離持続型突き刺す。
「内部から燃え尽きろ!炎の魔術放出型!!」
俺は思った、力を入れすぎた、と。
魔元素は蟷螂の内側を伝わり、真っ白な炎を生み出す。
燃え上がる蟷螂、がっつり減るMP、そして俺はやっぱり気絶した。




