パームアイテムクリエイト
お昼の休憩となり、冒険者の店と併設された食堂で一人の少女が食事をしていた。
周りに冒険者の姿も多少見られるがそのすべてが彼女に話しかけることはない。
今日もまた黙々と食事をとっていた。
そんな静かな空気だったが、一人のおっさんが少女に話しかける。
「よっ!ビビ元気か」
ビビと呼ばれた少女はおっさんを見て、食事をやめる。
「はい、元気ですよ。ギルドマスター、どうしたんですかこんなところに」
「こんなところって、自分の住んでる村に対して酷ぇなお前。
あ、儂はワインで頼む」
ついでにワインを頼むギルドマスターに冷たい瞳で返すビビ。
「わざわざソバニアからワインを飲みに来たわけではありませんよね」
「おうおう、ビビも冗談を言えるようになったか、儂はうれしいぞ」
「………」
ビビは押し黙っているが、ギルドマスターが態々この村に来た事に心当たりがあった。
それは、昨日夕方の冒険者のミスについて、だろう、とミミは考えている。
「ま、お前さんの考えている通りさ。ミスした冒険者への処罰の為に来たわけだ。
ミスって怪我をさせて、その上教会の神父さんに回復魔法まで使わせちまった。
安くない額をはらわねばならんのでね、一応確認に来たというわけさ」
ギルドマスターが喋っている間に、従業員がワインと付け合わせを持ってくる。
その付け合わせを見てギルドマスターは「わかっているじゃねえか」というと従業員にチップを渡す。
「そうですか」
「そうですか、じゃねえよ。早馬で駆けてきたのに怪我させた旅人がいるって処に挨拶にいったら宿屋に泊ってるっていいやがるし、宿屋に行ったらすでにチェックアウト済みと来たもんだ」
ぶつぶつ言いながらワインをあおりながら、掲示板を見るとビビに言う。
「ま、新しい守人を探すのはいいことだが、あそこにはるのはやめろよ。
冒険者本人の都合で辞めるんじゃなくて、クビ扱いだからな、あれを見た冒険者がどう思うか位考えてやれ」
「そうですね」
「…まったく、誰一人お前に近づいてないと思ったら相変わらずその性格なのか」
ギルドマスターは手を広げて、やれやれと大仰に落胆した様子を表してくる。
「で、よさそうなやつはいたのか」
「いません。この村の冒険者の大半はすでに一度守人を経験した人達ばかりですから。
問題があって辞めた方はあまりいませんが、今の待遇が嫌で守人を辞めた人が大半ですから。」
ギルドマスターは手酌でワインを盃に注ぎ、呟く。
「つっても、新人位来るだろ」
「ええ、今日一人来ました。」
「おお!そうか、で。どうだ!」
喜色にあふれた声で答えるギルドマスター。
「はい、昨日、冒険者に怪我を負わされた人でした。」
「………」
絶句したギルドマスターの手から盃が床に転がり落ちて、ワインが床に広がる。
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「(もっと、イベントが起きてもいいのにな)」
俺はそう考えながらぼんやり歩いていた。
正直なところこの世界に来た一番のイベント"魔法を使う"はすでに終わっているんだが、冒険者の店で先輩冒険者に絡まれるというイベントがなかったな。
今俺は通ってきた道とは違う道を通ってみたいと意味もなく思い、別の道を歩いているが、本屋に寄ってみたかったんだったなと思いだす。
まあまたの機会があるだろうと、とりあえず歩いていく。
スラム街というのがあるほど大きな場所ではないようだ。
元の世界では別に危険が好き、というわけではなかった多分危機感がマヒしているんだろう。
「はあ…。」
働きたくねえ。
なんで異世界に来てまで働かにゃならんのだ、養う妻子もおらず、できる仕事がゴブリンの討伐だなんて。
しかも安い、銅貨1枚って。
さっきちらっと併設されてる食堂のメニューを見たら、ランチセットらしきものが5混板貨だった。
この世界では、コイン状の混貨・銅貨と板状の混板貨・銅板貨があるようで混板貨10枚で銅貨だそうだ。
1匹倒したら2食と考えると考えれば高いのか、安いのか。
俺は今スマホを片手に道を見ながら歩いている。
なんというか、異世界といったら洋風のすごいのを期待していた気持ちがあるが、なんだろう、山奥の田舎に来た程度しか今は思えない。
時折すれ違う異世界人を見て、最初は「おおっ」と思っていたが、嫌そうな顔で見られてからはなるべく反応しないようにしている。
そりゃそうだ、なんというか俺は秋葉原に来た外人みたいな感覚でいたのだ。
そう思うと、すっと醒めてしまった。
スマホを確認するとタブレットと同じデータが入っている。
[Different World]、スマホに入っていた辞書ソフトで検索してみると、異なる世界、異世界となった。
「そりゃわかるよ」
俺はぼそりと呟いた。
魔法が使えるなんて異世界以外の何物でもないだろう、ため息をつきながらスマホをいじると、30000Cの表記が目に入った。
そういえばタブレットにも30000Cとあったが何だ?
と、思うと手のひらに3枚の銅色をした金属の板が現れて、スマホの画面が0Cとなる。
「おお!おサイフスマホか…しかもリアルに干渉するなんて。で、どうやってもどすんだ。」
銅板貨をスマホに押し付けても戻らない。
「一方通行?マジか、…まあ、いいか」
アイテムボックスを起動してそこにお金を入れる。
3銅板貨で何ができるかわからないが、ないよりあったほうがいい。
これで宿屋に何日か宿泊することができる。と、歩いていると村の端までついたようだ、やっぱりこの村はあまり広くない。
昨日とは違うが守人が立っていたので、門から出るための許可証を渡すと、指にインクのようなものを付けさせられて守人の持つ紙と俺が出した許可証両方にくるくると転がすように指示される。
戻ってきたときにまた、同じ事を行って指紋で確認するようだが、面倒だなこれなら3銅貨払った方がいいような気がする。
そして、外に出たがゴブリンのいる場所が判らねえ。
すぐに守人に相談すると、簡単な地図をもらった、そこに行けばゴブリンと遭遇することもあるだろう、ということだ。
場所は歩いて1時間程らしい、大きな石が目印ということだが1時間も歩く気はなかった。
少し村から離れた人気のない場所で意識を集中させる、パームアイテムクリエイトで車を呼び出す、呼び出そうと思ったのはキャンピングカーだ。
しかし出ない。
「む?」
もう一度やってみるが、出ない。
あちらで乗っていた車は、出る。
「どういうことだ?」
自分の乗っていた車は出せる、友人の乗っていた車も出せた、だが見たことのあるだけの車は出せない。
パーム、手か。
手で触れたことがあるものだけを取り出すことができる能力、か。
金塊なんかはとったことが無いので、出せないが。
ミニ四駆とかの金メッキパーツなら出せる。
「微妙に使えない、かな?」
俺は友人のランクルを呼び出し乗り込み車のエンジンをかける。
マックのコーラとポテトと照り焼きバーガーを取り出し、バーガーを咥えて車を発進させた。




