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来週から課長です。

「…さん!…さん!」


自分の仕事に没頭していた俺は、パートさんが呼ぶ声に気付いていなかったらしい。

肩を揺らされ振り向くと、パートさんが困った顔で俺を見ていた。

イヤホンを外し作成途中の議事録を保存する。


「どうしたの?」

「これ、頼まれていた書類です。問題ないか確認してください。」


クリアファイルに分けられた書類を渡してくる、途中「別に私は秘書じゃないんですよ?」と、言われてしまった。


「ああ、ごめんね。確認するよ、作ってくれてありがとう」

「いいですけど、他にもあるんですか?」

「うん、もう大丈夫。また何かあったら頼むからさ、今度お菓子買ってくるよ」

「わかりました、でもまたホームパイは嫌ですよ」

「なんでよホームパイうまいじゃん」


等と仕事と関係ない雑談を交わしていると課長が席に戻ってくる。

パートさんはそそくさと(これでいいのかわからないが)自分の席に戻って行った。


「おい、ちょっといいか」


いつも通り期限がいいのか悪いのか判りづらい仕事モードの課長に呼び出される。

このパターンは屋上か、PCに接続していた社員証を外すと課長の後ろをついていく。

自分の課は会社の本社ビル2階にあり、屋上に行くには3階・4階と階段を上らなくてはならない。


「…はぁ、はぁ。なんで、エレベーター使っちゃいけないんですかね」


と、いつものようにエレベーター使用禁止のことについて愚痴りながら会談を上がる。


「そりゃ、お前みたいな太ってるやつのダイエット目的だろ」

「いや、そりゃないでしょ。電気代でしょ電気代。地震から使わなくなりましたけど…。なんで未だに使わせてもらえないんすかね」


自分は体重130㎏身長185cmの巨漢だ。

この本社ビルの中で一番太っているだろう。

いや、近場の駅にいっても中々俺と同じくらいでかいやつはいないらしい、以前部長が「相撲取りを見たけどお前より小さいやつが大勢いたわ」なんて言っていた。

あまりピンとはこないが、多分俺は珍しいくらいでかいんだろう。


「膝、痛まないのか?」

「いや、膝とか腰はいいんすけど…、息切れが…」

「デブだな」

「そっすね」


なんて、どうでもいいことを言いながら屋上につく。

屋上は喫煙者でいっぱいだ。

本社ビル内部には喫煙所がない、屋上の開けた場所でなら喫煙可能だから喫煙者はタバコを吸うために1日何往復するのだろうか。


「…そういや、そこのベンチ撤去されるらしいっすね」

「ああ、喫煙所なのにベンチに座って携帯ゲームやっている奴が多いから、っていう理由らしいがな。

 何でやったら悪いのか判んねーんで聞いたら喫煙所は休憩所じゃないんだと。『だったら喫煙時間は休憩時間じゃないんだな』って言ったら総務の連中『喫煙時間は休憩ではありません』とか言ってたな」

「それってひでえ話っすよね、俺みたいなタバコ吸わないやつからすると」

「お前は、ぼけっとしてる時間がながいからトントンだろ」


と、言うと課長は懐からタバコを取り出す。

銘柄はよくわからん、青いパッケージだ。

火を付け煙を吐き、空を仰ぐ。

俺は特にやることもないんで、同じように空を見ていた。


「ああ、お前。来週から課長だから」


課長がいう、ぼけっとしている時間だったのだが突然その時間は無くなった。


「…え?まじっすか?」

「おう、少しは嬉しそうにしたらどうだよ」

「いや、まあ。なんつーか。まだまだ課長って仕事はできてねえなあって」

「お前も30なんだから頑張れよ、家族もいんだし。」

「そっすね」


…課長か。

なんだろう、その話を聞いてから胸が痛い。


「課長、ちっとベンチにすわりますわ」

「あん?ゲームすんなよ」

「いや、ちっと胸が痛くて」

「デブのせいだな」

「デブのせいじゃないっす、初めてですこんな胸の痛み…。恋ですかね」

「いやいや、病気だろ」


そう、こんな会話だった。

こんな会話を交わして、屋上のベンチに座り、胸を押さえて。

気が付いたら、草原にいた。



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