まだ春雨は雨の名だと思っていた頃の話
こんにちは。
タイトルを見て分かる通り、シリーズの表題作です。
今回は絵本の様ではなく、ちょっと柔らかい、普通の口調になります。
それではどうぞ。
少女はぼうっと、窓に当たって流れる雨を眺めていた。
少女の名前は優子といい、名前の通りとても優しい、ちょっとわがままな女の子。
季節は春、どんよりと曇った空はたくさんの雨を降らせていた。
雨は木々の隙間を流れ、時に桜と一緒に、いつまでも降り続いてる。
「あーあ。雨、やまないかな。つまんない。お外に遊びにいけないよ」
優子がそんな事を言っていると、どこからか声が聞こえて来た。
部屋を見回しても、声を出すようなものは何も見当たらない。
首をかしげて窓に戻ると、どうやら声の主は雨のようだ。
さっきまで窓に当たっては砕けていただけのしずくが、窓に張り付いて形を作り、喋っている。
それは手のひら大の、ジンジャーマンの形をしていた。
「喋っているのはあなたね」
ガラス越しに喋りかけると、張り付いていたジンジャーマンはうなずき、踊りだした。
立体的でない、平面な動き。それはまるでアニメを見ているようで、優子を楽しませた。
「もっと、もっと」
優子がはやし立てると、お調子者のジンジャーマンは、さらに陽気に踊る。
しばらく眺めていると、ジンジャーマンは突然はじけ、しずくになって消えていった。
代わりに窓に文字が浮かび上がる。
『まどをあけて』
「いいけど、雨が入ってしまうわ。濡れるのはいやよ」
『ちょっとだけ あけてくれれば だいじょうぶだよ』
平べったい文字が窓に並べられ、それが面白くてもっとやりたいと思いながら、三センチほど窓をあけた。
すると平らのジンジャーマンが滑り込み、お辞儀をする。
「雨の日だって、面白いんだからな。今日はきみを楽しませて上げるよ」
そう言うとまたはじけ飛び、空中にふわふわとしぶきが浮かんだ。
窓からはさらにたくさんのしずく達が入ってきて、一緒にぐるぐると空中を回る。
一点に集まり、立体的なくまやうさぎの形を作った。
「わあ、すごい。ねえ、今度はもっと凄いのを作って」
そう言うとしずくは少し考えたようにぐるぐると回り、やがて集まった。
今度はとても細かい船の形を作り、船員までいる。
大砲でたまを発射したりしながら、優子の周りを、まるで本当の海を航海してるようにまわった。
「本当に楽しいのね。楽しくて、時間を忘れてしまったわ」
気が付くと時間は過ぎ、夕方になっていた。
雨は小降りになり、陽が差してきている。もう間もなく止むだろう。
寂しそうな目で元に戻ったジンジャーマンを見つめると、ジンジャーマンはいたずらっぽく笑った。
「また会おう、雨の日に」
そう言うと同時に、雨が止んだようだ。
窓の外に消えたジンジャーマンとしずく達は、細かなしずくとなり、最後の雨を降らせる。
優子の部屋には暖かなオレンジ色の陽が差し、空には虹が架かっていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
いやあ、見事に春雨が関係ない(笑)
けどこういうタイトルって嫌いじゃ無いんですよね。
関連が無いけどほんの少しだけ関連あるようなタイトル。
余談ですが、春雨が雨の名前だと思っていたのは雷稀自身の事実。
恥ずかしい……けど、皆さんもきっとそうですよね?(そうであってほしい)
ちなみに春雨とところてん・マロニーちゃんの区別がつかなかったです。
とりあえず半透明でぷるぷるした長細いものは間違えまくってて。
「え?これ何?春雨?ところてん?これがマロニーなの!」
みたいな。あの頃は幼かった(笑)
まあ、ちょっとお気に入りの作品でございます。
文章が固くなったような気がするのは気のせいだと思いたい。
感想・アドバイス等ありましたら、よろしくお願いします。