小さな旅立ち
───翌日。
今日は、カーテンからもれる温かな光だけで目覚めることができた。
やっぱり心構えがちがうのかな?
しばらくして入ってきたリオも驚いていた。
てっきりまた、起こさなくてはいけないと思っていたらしい。
別にわたしだってやればできるんだから。
朝食の席。
今日は、家族全員がそろった。
それに伴いほとんどの使用人も集まっている。
そこまで広くもない食堂は、だいぶ密集している。
そんな、みんなで送ってくれなくても...
「メアリ、絶対に変なことに首をはさまないのよ。」
これは母。
「そうですよ。
自由になったからって、変なことしないでください。」
これはケイ。
「まあ、二人ともそのへんにしておけ。
メアリも忠告はしっかり守るんだぞ。
それから私との約束も心得ているはずだな?」
これは父。
そうだった。
お父様との約束もあったんだ。
「はい、承知しております。
城での生活、充実したものにしますわ。」
「そうね、メアリ。
だけど、まずはあなたが楽しんでくるのよ?」
「ありがとう、お母様。
楽しませていただきます。
お母様も家でゆっくりしてくださいね。」
そして最後に。
「ああ、メアリ様。
大きくなられて。立派に育ちなさった。
これからはレディらしく振る舞うのですよ。」
バーベナ。
瞳が少し潤んでいるような気がするのは気のせい?
でも・・・・・・ありがとう。
「はい。努めますわ、バーベナ。
ホントに今までありがとう。
娘さんの具合を何より心配しています。
どうかお元気で。」
つとめて明るくそういって少し下をむく。
みられたくなかったから。
・・・わたしだって寂しいんだから。
いつも威勢のいいバーベナがそんなんだったから余計にしんみりした。
そんな会話をして、朝を過ごしたあと、わたしは城へ出発した。
ここでもほぼ屋敷中の人が見送ってくれた。
もちろんバーベナもいて「どうかお元気で。」と手を握ってくれた。
いったいわたしは嫁にでもいくのか...
そんなふうに思うような見送りだったけどうれしかった。
コトコト、ガタ、コトコト......
馬車がゆったりと道を走る。
時々、揺れるのは石かなにかが道に落ちていたのだろう。
ここは、城下の表通り──────食品から雑貨、チェーン店から個人経営店まであって、この国最大のにぎやかで活気のある通り───から一本裏に入った通りだった。
しかし、裏通りといっても王都。
貴族や商人など上流階級の者の屋敷が立ち並び、道も舗装されている。
主にこの道は交通手段としてつかわれているのだ。
グランテーヌの屋敷は少し先の港町にあったが、それでも王城へは馬車で半時もかからないくらい。
ホントにいつでも帰られる距離なのに。
だから、あんなふうに見送ってくれなくても...
まだまださっきのことを引きずっているメアリだった。
そしてバーベナのこともあったからよけいに。
今頃、もう列車にでものっているのかな。
だが、さすがに王城が近くに見えてくると心が弾んだ。
舞踏会やお茶会などで頻繁に城には出入りしてるけど、やっぱり心持が違うと変わって見えるものね。
なんか、すごく新鮮。
服も身軽で楽だし。
(貴族の令嬢として行くわけではないので、使用人に近い簡素な服を着用中。)
やがて城の門をくぐって城内へ入る。
そしていつもは降りるロータリーでは止まらず、城の少し奥へ行く。
使用人のつかう施設はほとんどが城のなかほどに位置する。
だからそこまで送ってもらうことにした。
ほんとうは歩いて行きたかったんだけど時間がね。
みんなとお別れをしてたら時間が無くなってしまったのだ。
まあそんなこんなで城についた。
今日からはここで新しい生活が始まるんだ。
久しぶりです。
これからはもう少し頻繁になるかも。
どうでもいいけど馬車で半時ってどれくらい?