不穏な影
ざわざわ、ざわ。
騒ぎの中心に近づいていくにつれ、周りの声が大きくなっていく。
ヒロトは少し前から斜め後ろに下がっている。
騒ぎは数人が集まってできていた。
兵士や侍女、どこかの令嬢のような人もいる。
どうしたんだろ?
「あの、何かあったのでしょうか?」
考えていても仕方ない。
いちばん近くにいた兵士に聞いてみる。
「い、いえ。俺、私もいま来たばかりで。
でも、多分・・・ 「誰かに襲われた?」 あ、はい。多分そうだと思います。」
「またか・・・」
うしろでヒロトが呟く。
そして、しとろもどろにしゃべる兵士をさえぎったのはメアリのよく知る声だった。
「うわっ、アルト。
そんな急に出てこないでよ。びっくりするじゃない。」
ボソッとつぶやくとアルトは素知らぬ顔をして続ける。
「お嬢様、何か言われましたか?」
「いえ、別に。 それより誰かに襲われたというのは?
それにまた、とはどういうことでしょう?」
くそっ、アルト。
絶対聞こえてたんじゃない。
令嬢らしく、おとなしくしてろってことね。
いいわ、令嬢らしくちゃんとやるわよ!!
そう心の中で叫んでアルトをみると、アルトは“よくできました”というように頷いていた。
「最近、外部の何者かに城の者が襲われるということが多くあるので。
だいたい、少し高価そうな髪飾りや首飾りが盗られます。」
ヒロトもさっきとは、口調を改めて説明する。
「まあ、それは大変ですね。」
「ええ、ですのであなたもお気をつけ下さい。」
これでいいんでしょ、アルト?
なんとなくだが、事情がわかったのでとりあえずもう少し中心に近づいてみる。
いろいろと話している間に少し人がひいたらしく中心の人物を知ることができた。
侍女にほとんど体をあずけ、今にも崩れそうに立っている。
気のせいか瞳がキラキラとひかっている。
何より、その人は今日のお茶会で一緒だったユラ様だった。