1日のはじまり
「メアリ様、おはようございます。朝ですよ。」
「う~~ん、おはよう。」
「今日は、お嬢様のお好きなフレンチトーストですよ。」
「そう、うれしい。着替えたらすぐに行くわ。」
そんな会話がされ、いつもと同じ朝をむかえた。
まだ少し寝ぼけたままのメアリは、窓からさしこむ光に目をほそめる。
これが、メアリの一日のはじまりだった。
メアリはセントポーリア王国の三大名家とも呼ばれる、グランテーヌ家の長女だ。
公爵の称号をもち、王に仕える父とその妻である母、そして3歳下の弟の4人家族だ。
しかし、他の名家に比べ、使用人の数は格段に少なかった。
自分のことは自分ですると小さいころから育てられたメアリには、侍女は一人しかいなかった。
両親や弟においてもそれは、同様だった。
そんな屋敷であっても、屋敷内には、活気があふれていた。
父や母は、使用人たちにも気をつかって、些細な会話を楽しんだりしたし、なるべく自由にした。
それが自然なグランテーヌ家では、使用人どうし、また主人たちともに仲が良かった。
そんなわけで、おちついた調度品の並ぶこの屋敷は、朝からにぎやかであった。
メアリは眠たい目をこすりベットから出ると、洗面台へ向かった。
そこで顔を洗うと、リオが用意してくれていたタオルで顔をふく。
やっと、少し目が覚めると、先ほどリオが言っていた事を思い出して、自然と顔がほころぶ。
着替えをすまし、髪にくしをとおしてから食堂へ向かう。
3日に一度は、家族全員でとることにしているが今日はその日ではない。
起床した時間が同じくらいであれば、いっしょになることもあるが。
今日はどうやら一人らしい。
もうみんな朝食はすませたのだろうか。
席について「いただきます」と手をあわせて好物のフレンチトーストから手をつけ、ひと段落すると、
横に立っているリオに今日の予定を聞く。
数回、いっしょに食べようとさそったことがあったがきっぱり断られたので今はあきらめている。
「ええと、今日は城のローズガーデンのお茶会に誘われていますが。」
「ねぇ、それってお断りするかとはできないのかしら?」
「う~ん、難しいかと思いますが。」
「そっか~、また何か口実をみつけて...
メアリは最後まで言い切ることができなかった。
新たに食堂に入ってきた人物がさえぎったのだ。
「ダメですよ、姉さん。またそんなことを言ってさぼったら。」
「あら、おはようケイ。今日はいつもよりおそいのね。」
弟の忠告をあっさり聞き流して、何事もなかったかのようにあいさつするメアリ。
ケイの侍女がゆっくりと扉をしめる。
ケイはテーブルへと足を進めた。
ケイは、メアリの弟であり、一応グランテーヌ家の次期当主である。
ケイは基本的に真面目な性格で、手を抜くことを許さない。
まあ、そんなこともありメアリは、そんな堅物だとモテないわよとよく言うのだが。
これも普段と変わらない姉弟の会話だった。
そんな会話を傍でみている侍女の二人は、今日もまた少し遠慮がちに微笑んでいる。
言い合いが落ち着いたところでまた、リオが声をかける。
「今日はお茶会の他に城のものが寮を案内してくれるそうですが。」
「ええ、いくと伝えてほしいわ。」
そういえば明日からそうなのだった。
すっかり忘れていたメアリだった。
‘寮’と聞いてなぜ?と思う方も多いと思うので説明しないとね。
わたしは明日から、王城で王子様と王女様の教師として学問を教えることになった。
なんでも人がいないのだとか。
基本、身分の高い家のものがそんなことをするのは、ほとんどない。
でも、お茶会やら舞踏会やらで時間をつぶし生活するのがイヤでしかたなかったわたしは、父様にこの話を聞いたとたんとびついた。
まあ、くわしいことはそのうち。
それで、どうして‘寮’になるのかというと、城内ではたらくものには一部屋ずつ部屋が与えられるから。
階級などによって、部屋の広さは変わるけれど。
わたしは、身分の高い家だからといって、続き部屋を用意してもらっていたけれど、わざわざ侍女たちと同じ部屋に変えてもらった。
そんな大きな部屋、わたしに必要じゃないもの。
それにいつでも実家に帰ることができるんだから。
「王女様、王子様への正式なあいさつは明日だそうです。
明日から、もう教師として教えてほしいのだそうです。」
よっぽど、人がいないのだろうか? 明日からだなんて。
まあ、いいけど。
あるていどの知識はもっているつもりだし。
貴族の子は、小さいころから学問や乗馬、音楽などをたしなんでいるため、あるていどの教養はみにつけている。
しかし、そんな中でもメアリの学問の知識は相当なものだったのだが、本人はまったく気付かないようだった。
「姉さん。僕も今日、王宮へ行くのですが一緒にいきますか?」
そういえば、ケイも王宮へいくのだったと思ったが、
「いいわ、わたしちょっと寄らないといけないとこがあるの。先に行っていて。」
用事があったのでことわる。
ケイは、何となく予想がついてしまったのだが、それ以上は何も言わないケイをみて、わたしはにっこりわらった。
「どうせまた、何かやらかすんだろ...」
目の前でケイがそんなことを呟いたことには、まったく気づかずに。
すごくつたない文ですね。
ホント読んでくれて感謝です。
3/6 誤字をなおしました。