ハーフ・オブ・ヒューマノイド
「助けてくれ!大蜘蛛だ!」陽の光すら遮らる程の森の中で男が追われていた。男の後ろには真っ黒で毒々しい模様のある巨大な蜘蛛が迫っていた。
男は旅の行商人で近くの街まで取引に来ていたのだが、土地勘が無く誰も近付かない魔物の生息する森へと入ってしまった。
蜘蛛が奇声を上げながら男の直ぐ後ろにまで迫る。
「やめろ!止めてくれ!」男が迫る蜘蛛の顔に懇願した瞬間。バシュ!と音が鳴り響く。するとさっきまで勢いを増していた蜘蛛が止まり、次の瞬間真っ二つに割れ緑色の体液が噴水の様に噴き出した。
「うわぁぁぁ!何だよこれ!」男が体液塗れになりながら地ベタを這いずる。
「すまねえ、驚かせたよな?」突然声が聞こえた事で男がさらに怯えだす。
「相変わらずヨロは仕事が雑何だから、それにしても私蜘蛛嫌い何だよね特にあの複数の目が無理!」
声の方向を見ると二人の男女が歩いてくるのが見えた。
一人は黒尽くめの装いに頭からローブを被った男。
そして、もう一人は白を基調とした装いに赤いローブを被った女。
「アンタ達が助けてくれたのか?ありがとう!礼なら何でもする!何なら俺の護衛として働かないか?」
行商人が二人の前に駆け寄りながら言った。
「それは有難いけどこれを見ても同じ事が言えるか?」
黒尽くめの男がローブを取る。金色の髪を後ろで結び顔も中性的な少年が現れた。だがその耳は左右で形が違った。片方は普通の人間の福耳、そしてもう片方はエルフ特有の長く先端の尖った耳をしていた。
「お前異形人種か!?近付くなこの汚れた混血め!」男がさっきまでと打って変わり攻撃的な態度を取る。
「だから言っただろ?さぁさぁ帰りな、俺達はそこの蜘蛛に用があるからな」少年が手を振ってけしかける。
「噂は本当だったんだな、お前等出来損ないには丁度良い仕事だな!」男が侮蔑に満ちた表情で吐き捨てる。
「早く消えてくれ無いかな?私達仕事中なの」赤いローブの女が男に言った。
「偉そうに指図するんじゃねえぞ欠陥品が!お前等は俺達人間にもなれず、亜人にも魔族にもなれねえ紛い物だろう?そんなこの世のゴミがいい気になるなよ!」男の罵倒を受け女が殴りかかろうとする。
「止めておけララ、おい、さっさと行かねえと蜘蛛の巣穴に放り込むぞ?」少年の冷たい眼光を受け一目散に男が逃げる。
「助けて損したね」女がそう言いながら赤いローブを脱ぐ。美しい白銀の髪と獣の様な黄色い瞳、色白の肌にビスクドールの様に整った美しい顔立ちの少女が現れた。
「さっきは我慢してくれてありがとう、でもその分酷い気分にさせてしまったな」ヨロと呼ばれた少年が蜘蛛の死骸から牙を引抜きながら謝意の言葉を送る。
「私が殴ると殺しちゃうからね、逆にあの時止めてくれてありがとうね」ララと呼ばれた少女が握った手を見る。その手は灰色の獣毛に覆われた獣の腕だった。
「さあ、依頼の品は剥ぎ取ったし街に戻ろうぜ?」ヨロに呼ばれララも頷きながら歩いて行く。その時森の奥から再び悲鳴が上がる。
「さっきの奴だねどうする?」ララが隣で歩くヨロに聞く。
「だから俺は早く帰れって言ったんだ、忠告はしたし2度目は無いよ」ヨロが静かに言う。
「良かった、ヨロがお人好しじゃなくて」ララは微笑を浮かべながらヨロの手を握る。
「何だよ怖いのか?」
「ううん、ただ今はこうしていたいんだ」
二人はそのまま男の悲鳴を尻目に帰路に着いた。
「アルベリアの森の大蜘蛛討伐の証だ確認してくれ。」
街に着いた二人は交易所兼市庁舎へと来ていた。
「大蜘蛛の牙と緑色の体液確かに受け取った、これが今回の報酬だ」受付の男が皮の袋をカウンターに置く。
「金貨100枚のはずだろ?50枚しかねえよどうなってるんだ?」ヨロが中身を数えた後男に問う。
「悪いなヒューマノイドには半額で払う様に言われてるんだ、代わりと言っちゃあ何だがこれをやるよ」男が高額な案件が描かれた依頼書を数枚渡す。
「分かったよじゃあな」ヨロは依頼書と報酬を受け取ると外に出る。
「どうだった?」ララが直ぐに駆け寄ってくる。
「ヒューマノイドには報酬を半額しか払わねえだってよ、ほらこれがララの分だ。」ヨロが金貨25枚入った袋を渡す。
「私は今回は要らないよ全部ヨロがやってくれたし」
ララが首を横に振りながら言った。
「駄目だ最初に決めただろ?報酬はキッチリ五分で分けるって、これは絶対に受け取って貰う。」ヨロに言われララが申し訳無さそうに受け取る。
この世界には3つの種族が存在する、一つ目は人間この世界の総人口の多数を占める、二つ目が亜人、細かく分けるならエルフ、獣人、魚人、鳥人など人間意外で意思疎通や文明を持つ者達を総称して呼ぶ。そして最後が魔族これは人間と亜人双方にとって脅威になる生物を指す。
今回の大蜘蛛もそれに当てはまるが他にも人語を話す種族も居るがそれらは明確に亜人と人間に対して敵意を持っている。
そして最後が存在自体を否定された第4の種族、それが俺達異形人種と呼ばれる亜人と人間、もしくは魔族の混血児達だ。俺達はぱっと見は普通のどちらかの種族と見分けが付かない。だが身体の何処かに普通の人間には無い特徴が現れる。人間にある筈の無い魚人族と同じエラと鱗が発現したり、俺の様に左右の耳の形が違っていたりと混ざった種族毎に特徴が現れる。
俺達ヒューマノイドはどちらの種族にも属さ無い出来損ないとして扱われて来た、そんな俺達は理不尽な差別を受け続けてきた。現在俺とララは生計を立てる為危険で非合法な仕事である魔族討伐を行なっていた。
「今日も疲れたね、宿でも借りて休みたいね」ララが疲れた様子で言う。
「無理だろうなどこもヒューマノイドお断りの張り紙ばっかりだ、全く金はあるのに休む事さえ許されねえなんてな、俺達が何したって言うんだよ」ヨロも歩きながら呟く。
「それじゃあ何時もの所に行こうよ」
「そうだな、あそこなら飯と暖かいベッドもあるしな」
二人は大通りを外れてスラム街の方へと向かった。
「いらっしゃい、あら二人共帰って来たのね」
二人が裏路地にある酒場に入ると、美しいエルフの女性が出迎えてくれた。
「ただいま、今日も疲れたよ〜」
「ネルフィさんこれ今月の分です」
ヨロがカウンターに金貨1枚を置く。
「何度も言ってるでしょ?私にとって貴方達は家族も同然なの、だからお金は払わなくても良いのよ?」ネルフィがカウンターの金貨を突き返す。
「ならこの店に居る人全員にビールでも出してよ、支払いはこれでお願い」ヨロが再び金貨を突き返すとネルフィが金貨を受け取る。
「貴方の機転のきくところ姉さんに似てるわね、本当に気を使わなくて良いから困ったことがあったら何時でも言ってね」ネルフィはそう言うと二人に食事と飲み物を出してくれた。
「ネルフィさん優しい人だよね」ララが料理を食べながら話す。
「ああ、このクソったれな街の中で唯一の女神だよ」ヨロがビールを飲みながら返す。
「ヨロ!御馳走さん!」
「何時もありがとうね愛してるわ!」
後ろの席に座る常連達が酒の入ったジョッキを掲げながら礼を言う。それに反応しヨロが後手に手を振る。
「おい、この酒お前の奢りらしいな?」突然横から声を掛けられ顔を向けると二人の酔っ払いが立っていた。
一人は人間の男、そしてもう一人はエルフの女だった。
「ああ、好きなだけ飲んでくれよ」ヨロが二人に言った瞬間、男が持っていたジョッキの中身をヨロの頭にぶち撒ける。
「気取ってんじゃねえぞ出来損ないのヒューマノイドが!俺達を下に見てんのか?誰がてめぇの酒なんざ飲むかよ!」突然の事にさっきまで和気あいあいとしていた酒場の活気が静まる。
「そうよ!アンタ達見たいな出来損ないが居るだけで空気が悪くなるのよ!早く出ていけよ!」エルフの女が便乗する。
「ちょっと!あなた達何をするのよ!」ネルフィが激昂しながら向かって来る、だがヨロが手を出して制止する。
「気分を害したならすまないな、決して悪意があってやった訳じゃねえんだ。」ヨロが頭を下げながら謝罪する。それを見て二人組が笑い出す。
「分かりゃ良いんだよゴミが!いいか?今度からは自分が以下に下等な生物か自覚して生きろよ!」
「本当に薄汚い連中よねどうせ隣に居る小娘も同じ出来損ないでしょ?」エルフの女が怒りに震えるララを罵倒した瞬間ヨロが顔をあげる。
「今のは聞き捨てならねえな、俺の相棒が出来損ないだって?」ヨロが立ち上がり二人の前に立つ。
「何だよ、本当の事だろう?お前もその小娘もどうせ他の種族に身体を売って生計を立ててるような売女の腹から生まれ堕ちた出来損ないだろう?なら俺達純血の人間様や亜人様の靴でも舐めてろよ!」
「アハハハ!確かにそうよね!ひざまづいて靴の裏まで舐めろよゴミが!」二人のさらなる罵倒を受けネルフィが掴み掛かろうとした瞬間、他の静観していた常連達が立ち上がる。
「何だよ、お前等?」
「何でこっちを見てるのよ!何かあるなら言いなさいよ!」常連達は無言で二人を取り囲む。
「売女の腹から生まれ堕ちた出来損ないか、お前中々センスあるじゃねえかよ」常連の一人が口を開く。
「そうだろ?おもしれえだろ!笑えよ!」男が恐怖が交じった声で必死に叫ぶ。
「それじゃあこれを見ても笑えよ?」常連はそう言うと自らの腕を見せる、そこには爬虫類特有の鱗に覆われていた。すると他の常連達も服の一部をはだけさせる。
ある者は身体の半分が茨に覆われている、ある者は首に魚の様なエラがある、そしてある者はコウモリの様な羽根が生えていた。
酔っ払い達は自らの置かれている状況を察して黙り込む。
「この店の名前知ってるか?ハーフ・オブ・ヒューマノイド、つまりこの場所では俺達ヒューマノイドも純血種も等しく平等に扱われるんだよ、皆それを理解したうえでお互い敬意を払ってくるんだよ」
常連が言うと酔っ払い達が土下座する。
「すまねえ、知らなかったんだ!許してくれ!」
「ごめんなさい!私達この街に今日初めて来たの!だから何も知らなくて!」二人の弁明を静かに聴きながら常連達がヨロに視線を送る。
「物を知らないってのは残酷だよな?皆後は好きにしてくれよ」ヨロが言うと常連達が酔っ払いを掴み外に連れて行く。
「何処に連れて行くんだよ!止せ止めろよ!頼むから!」
「お願いします!許して下さい!嫌、嫌だ!」
そして二人の叫ぶ声を後にして店には誰もいなくなった。
「ララ、ネルフィさんごめん、二人も嫌な物を見せたね」ヨロが二人に謝罪する。
「ヨロ、謝らないでよ貴方は何も悪く無いでしょ?」
「そうよ、それに気にしないで何があっても私はヨロとララ、二人の味方よ」ネルフィが二人を抱きしめる。
「二人共ありがとう、何だか辛気臭くなったし3人で飲み直そうぜ?」ヨロがカウンターに座り直しながら言う。
「そうだね他のお客さんも皆帰っちゃったし、ネルフィさんも飲もうよ!」ララもカウンターに座る。
「それじゃあ今日は特別に私の秘蔵の林檎酒でも出そうかな」ネルフィが棚から酒瓶を取り出しグラスに注ぐ。
「それじゃあ出来損ないに」
「紛い者達に」
「理不尽な世界に」
「「「乾杯!」」」
3人のグラスを当てる音が高らかに店に響く、純血種もヒューマノイドも等しく平等で扱われる日を祈って。
完




