二話 終わらない地獄chapter01
「──んっ……」
気が付くと、僕は白い空間にいた。
ただ呆然と突っ立っていた。
何が起きた?
僕は確かに、死んだはずだ。
夢でも見ていたのだろうか。
──いや、それはない。
身を引き裂かれる熾烈な痛みが、鮮明に記憶に残っているのだから。
「うぷっ……おええええ」
呼び起こされる記憶に吐き気を催し、胃の中のものを全て吐き出した。
身体の震えが止まらない。
どうなってるんだ?
分からない。
分からない──が、こうして生きているのだからそれでいい。
大きく深呼吸して、冷静さを取り戻す。
きっと、やたらとリアルな悪い夢でも見ていたのだ。
忘れよう。
今あったことは、全て。
そして、死ぬのもやめだ。
死を甘くみていた。
命を軽んじていた。
嘗めていた。
あんな恐ろしい思いは二度としたくない。
だが、脱出方法は依然として分からないまま。
相も変わらず鳥居は行方不明だ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、不意に、視界が弾けた。
何かが強烈に輝いたのだ。
「こ、今度はなんだよ!?」
手で庇を作り狼狽する僕を他所に、輝きはより強くなっていく。
空間全体が輝き、思わずたたらを踏んだ。
目を開けることさえ出来ない。
しかし、終わりは唐突に訪れる。
輝きが一瞬の内に終息したのだ。
ゆっくりと瞼を開き、まだぼんやりしたままの視界で周囲を見渡す。
そこにいたのは──。
「なっ……!?」
夥しい数の鼠。
全身が黒く、目は赤い。
大きさは小型犬程で、鋭い牙を生やしていた。
そいつの名前は──【インプラット】
最弱のモンスターとして有名な存在だ。
ここまでの道中でも、何度も出会っている。
曰く、かなり打たれ弱いのだとか。
性格も大人しく、駆け出しの探索者でさえ負けることはない。
しかし、警戒心が非常に強い為、倒すのはおろか戦いに持ち込むことも難しいと言われている。
だが、このインプラットは違った。
異様なまでに殺気立ち、僕を取り囲んでいる。
明らかに臨戦態勢。
逃げようという気配は微塵もない。
──ヤバい。
明らかに、普通じゃない。
脳が激しく警鐘を鳴らす。
逃げなければ。
しかし、逃げ場なんてどこにもなかった。
見渡す限り、地面を埋め尽くす鼠の群れ。
「──ヂュウッ!」
呆然とする僕を他所に、一匹の鼠が吠えた。
それを皮切りに、周囲の鼠達も次々と声を上げる。
頭がおかしくなりそうな程の雑音。
思わず耳を塞いだその時、何かが頬を掠めた。
「痛っ!」
頬を触れた手は赤く染まっている。
──血だ。
大人しいはずのインプラットが、僕の頬を切ったのだ。




