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最底辺の這い上がり  作者: 白黒めんま


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chapter05

そこにいたのは一人の若い男であった。

若いといっても僕よりも歳上だ。

成人したばかり、といった所だろう。


オーバーサイズのジャージに金のネックレス。

少し癖のある髪は、顔の半分を覆っていた。


一目見て、趣味の悪い男だと思った。



「身長百八十センチ程の痩せ型の男。そしてジャージに顔の半分を覆った癖のある髪……」



少女は男を睨め付けるように呟き、そして──



「まさかあなたが……っ!?」



──声を荒らげた。


その声につられるようにして男はこちらへと視線を向けると、「げっ」と呟いて顔を青くする。



「木島 翼……。なんでお前がここにいんだよ……」

「私を知っているのね。ならばやはり、あなたが連中の……」

「クソッ!」



男は大きく舌を打って焦ったように逃げ出した。


……なるほど。

彼女は、僕とあの男を取り違えていたのか。


服装や髪型など類似している部分は確かにある。

あるいは、痩せて身長が伸びた今ならば背格好も近いかも知れない。


ただ、あの趣味の悪い男と間違われるのは不服だ。不愉快極まりない。


ともあれ、これで誤解は解けたはず。

と、思ったのだが。



「ならあなたは何? 影武者?」

「いや、ただの部外者だから」



彼女の視線は、まだ僕を値踏みするようだった。


彼女は短く溜め息を就くと。



「……分かったわ。ひとまずはあなたの言葉を信じましょう」



だから、と継いで。



「離してもらえるかしら。私はあれを捕まえなければならないから」



少女は落ち着いた様子で告げる。

男との距離は既に随分と離れているが、逃がすつもりは微塵もないらしい。


ここから追い付くつもりなのか。



「僕に向かってこないと約束するなら……」

「約束するわ。少なくとも……今は、ね」



今は、という言葉に不安を覚えつつも仕方なしに僕は彼女から手を離した。

関係ない僕でも、どちらに正義があるかは分かるから。


どう見ても、悪いのは男達の方だ。


瞬間、駆け出す少女。


これだけ離れていて追いつけるのか? という疑念はすぐに晴れた。



「は、速い……」



少女の足は凄まじく速かったのだ。

疾風の如く駆ける少女は徐々に男との距離を詰めると、背後から跳び付き羽交い締めにした。


鮮やかな手際。

慣れている人間の動きだ。



「木島 翼……か……」



只者でないのは確かだけれど、それにしても一体何者なのだろう。

どこかで聞いたことがあるような……。


気にはなるものの、いつまでも呆けているわけにはいかない。

これ以上面倒事になる前にズラかろう。


今なら逃げるのは容易い。


僕は静かにその場を後にする。


──スクールバッグを失くしたことに気付いたのは、家に帰ってからのことであった。


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