chapter03
それは薄暗い路地裏で行われていた。
一人の少女を、複数のガラの悪い男が取り囲んでいる。
剣呑な雰囲気が、路地裏に淀んでいた。
男達は、少女を無理矢理どこかへ連れて行こうとしているようだった。
あまりに想像通り過ぎる光景に、僕は思わず苦笑いを浮かべる。
こういうのって、本当にあるんだな……。
定番ではあるけれど、起こりそうで起こらないことだと思うのだが。
それにしても、意外なほど自分は冷静だった。
今までの僕なら、見て見ぬふりをしていただろうに。
触らぬ神に祟りなし。
平穏無事を願うなら、トラブルには関わらないに越したことはない。
そんな人間であったはずなのに、今は自ら首を突っ込もうとしている。
それも、何故だか──僕なら解決出来る気がしていた。
一体、僕はいつからこんなにも自信家になってしまったのだろう。
少し前までの、それこそ記憶が失くなる以前の僕は自他共に認めるチキンだったのに、今ならどうにか出来る気がするのだ。
「──おい」
僕がそう声を掛けた瞬間だった。
一人の男が豪快に吹き飛ぶ。
「──え……」
他の男達と共に、呆然とする僕。
少女の脚が弧を描き、次の瞬間、凄まじい回し蹴りが炸裂した。
男の吹き飛んだ距離からして、威力も相当だろう。
すぐに我に返った男達は、しかし何が起きたのか分からなかったらしく「何しやがった!?」などと声を荒らげている。
「軽く蹴飛ばしただけよ。大人しくしていれば痛い思いをせずに済んだと言うのに……。つくづく馬鹿ね……」
澄んだソプラノ声。しかし、その言葉は冷ややかだった。
関係のない僕でさえ、肌がピリつくほどのプレッシャーを感じる。
かなり強い。
直感的にそう思った。
少女は構えを取るや否や、華奢な細腕で男達を薙ぎ倒していく。
逃げ惑う男も、捕らえて投げ飛ばしている。
「つ、強過ぎる……」
いや、確かに強いとは思ったけど、まさかここまでとは……。
僕の心配なんて烏滸がましいくらいだ。
一体、どこにそんな力があるのだろうか。
ともあれ危機は去った。
そう思い、その場を立ち去ろうとするのだが。
「──っ!」
背後から迫る強烈な気配。
振り返ると、そこには拳が肉薄していた。
「うおっ!」
僕は咄嗟に拳を躱して、後方へ跳ぶ。
「ちょっ、いきなり何するんだよ!?」
そして彼女に問い掛けた。
「何をする? あなたこそ、さっきからコソコソ何をしているの? 声を掛けようとしていたみたいだし、あの連中の仲間なのでしょうけれど」
いや、全然違うけど!?
あそこでノビてる連中なんて、僕には一切関係ない。
「僕はただあんたを助けようと──」
「問答無用」
弁明を図る僕を、彼女はピシャリと遮断する。
話くらい聞いてくれたっていいだろうに。
苛立ちが、胸の奥で燻った。




