chapter02
帰宅することにしたのはいいが、帰り道が分からなかった。
どこから来たのかも、どこへ行けばいいのかも分からない。
そのせいで、随分とダンジョン内を徘徊する羽目になった。
人に遭遇しなかったのが不幸中の幸いだろう。
もしも出会っていたら、通報されていたかも知れない。
いや、絶対にされていただろう。
ここが不人気のダンジョンであったのが幸いした。
今の僕は、はたから見たら半裸の不審者なのだから。
僕は何故マップも買わずに、ダンジョンへ突撃するなどという愚行に走ったのだろうか。
記憶を失った今となっては分からないが、数時間前の僕を恨まずにはいられない。
無謀にも程がある。
ともあれ、ダンジョンからの帰還を果たした僕であるが、このままでは家に帰れない。
繰り返しになるが、今の僕は半裸の不審者なのだ。
「ショップが併設されてて助かった」
最低ランクのダンジョンであっても、併設されているショップの品揃えは悪くない。
僕は陳列されている商品の中から一番安いジャージを購入し、ダンジョンを後にした。
決して安くはない買い物だ。
ただでさえ今月の食費も心許無いのに……。
しかし驚いたのは、明らかに身長まで伸びていたこと。
僕の身長は中学二年で止まったままになっていた。
それが、おそらくは十センチ以上伸びている。
それに気付いたのは、いつもと同じサイズのジャージを試着した時だった。
今までは、太り過ぎていたが為に低身長にも関わらず、大きなサイズの服を買わなければならなかった。
そうなると、ズボンの丈が合わず裾上をしてもらう必要があったのだが、今はピッタリジャストフィットとしている。
これまでのようにキツくて苦しいということもない。
急に痩せたり身長が伸びたり、本当に何事なのだろうか。
流石は未だ解明されていないことの多い不思議空間。
何が起こるか分からない。
果たしてそれで納得してしまっていいのだろうかとも思わなくはないが、僕としては願ったり叶ったりなので文句はない。
何より、考えるのが怖いのだ。
ダンジョンを出ると、外は真っ暗になっていた。
時刻は既に零時を回っている。
どうやら僕は、随分と長い時間ダンジョンの中にいたらしい。
人の気配がないのも当然だろう。
高校生である僕が一人で彷徨いていたら、確実に補導される時間だ。
警察に見付からないように慎重に帰らなければ。
真面目に生活してきた僕が、こんな時間に外を出歩くことはない。
正直、かなり緊張する。
学園は優秀な人間に対しては非常に寛容だが、僕のような出来損ないの扱いは酷くぞんざいだ。
最底辺である僕が深夜徘徊で補導──なんてことになれば、最低でも謹慎、最悪退学もありえるだろう。
そんな事態だけは避けなければならなかった。
感覚が機敏になっている。
いつもより、周囲の音がよく聞こえた。
景色も、妙に鮮明だ。
そのせいだろうか。
普段なら気にも留めなかったであろう小さな声が、耳に届いた。
「──てっ!」
ハッキリとは分からない。
だが、ただごとには思えない女性の声。
僕なんかが行っても何も出来ないかも知れない。
しかし、僕の足は自然と声のする方へと向かっていた。




