chapter06
そもそも、不死身にも思えたあのヴァンパイアが、何故あそこまで露骨に弱点をさらけ出しているだろうか。
あれでは、殺してくれと言わんばかりだ。
それに、いくらなんでも今まで気付かなかったのは流石におかしい。
〈霧化〉は何度も見ていたのだから。
あの赤い宝石に気付く機会はいくらでもあった。
ならば何故気付かなかったのか。
生き返った僕はそんな事を考える。
だが、ヴァンパイアは考える間など与えてはくれない。
輝いた虚空からまたしても彼女は姿を現した。
艶やかに、そして蔑むように笑みを浮かべる。
かかって来いと言わんばかりの表情だ。
今までの僕なら無鉄砲に突っ込んでいただろう。
現にこれまでがそうだった。
だが僕は大きく息を吸い込み、彼女を見詰める。
じっくりと観察し、今度こそ奴の弱点を捉える為に。
とはいえ、前回の推測も間違いであると確定したわけではない。
何せ、未だあの赤い宝石に触れる事は出来ていないのだから。
であれば、考えるべきはやはり何故あの場所になかったのかという事だろう。
あるべきはずの場所に、あるべきはずの物がない。
この異変とも呼ぶべき事態を見過ごすのはあまりに愚かだ。
というより、他に攻略の糸口を見い出せない。
であれば、僕がすべきは〈霧化〉を誘発させること。
誘発させ、観察すること。
ならばやることは単純だ。
何も難しいことはない。
何せ奴は追い込まれると〈霧化〉を使う傾向にあるから。
壊すのは、今や得意分野だ。
そこから僕は一方的に彼女を攻め立てた。
ヴァンパイアとの戦いも慣れたものだ。
初めこそ人にしか見えない彼女を傷付けることに抵抗があったが、今は微塵も躊躇いを感じない。
それでも勝てないわけだが……。
致命傷を与えること数度。
漸く彼女は〈霧化〉を使った。
爪先から霧散するヴァンパイアの身体。
さて、どうなる?
「──……は?」
どういうことだ? なんで右胸じゃなく、左膝に赤い宝石があるんだよ。
……いや、考えるまでもない。
答えは単純明快。
移動しているのだ。
あの赤い宝石は。
「チッ!」
僕は大きく舌を打った。
全く予想していなかったわけじゃない。
しかし、予想していた中では最悪のパターンだ。
移動されては、どこを攻撃すればいいのか分からない。
どうする? 一か八か、無闇矢鱈に攻撃した所で当たるとは思えない。
こちらが無駄に消耗させられるばかりだろう。
狙うならどこだ?
──頭を過ぎるのは、〈霧化〉への過程。
赤い宝石が露出したあの瞬間なら、確実に狙うことが出来る。
だが、僕に出来るのか?
霧散する瞬間を狙うのは、収束後を狙うよりも遥かに難しい。
一秒でも遅れたら、確実に失敗するだろう。
最悪、隙をつかれてまた殺される。
「──フッ……」
思考を巡らせて、思わず笑みが零れた。
馬鹿なのか、僕は。
今更何に臆する必要があるのだ。
死んだってまたやり直せばいい。
何度でも何度でも。
奴を殺すまでやり直せばいい。
全部をぶっ壊すと誓ったじゃないか。
出来るのか? なんて愚問だった。
出来なくてもやる。
出来るまでやる。
ただそれだけの話だ。
──そして、その時は唐突に訪れる。
地面を蹴るタイミングは完璧だった。
高速で移動しつつ、どこかにある赤い宝石を探す。
どこだ? 今回はどこにある?
「──……あった」
右肩!!
「喰らえぇぇぇッ!!」
ありったけの力を込めた拳が、赤い宝石へと吸い込まれていく。
衝突までは一瞬。
その僅かな時間がやたらと長く感じられた。
ことここに至っては、最早僕に出来ることはない。
ただ漠然と希うのみ。
どうか、この一撃が届きますように──と。
祈りじゃない。
祈る相手が僕にはもういないから。
神様なんてクソ喰らえだ。
──やがて、辺りに硝子が砕けるような音が響き渡った。




