chapter05
〈霧化〉の間は、こちらから攻撃を与える事は出来ない。
一方で、ヴァンパイア自身も攻撃する事は出来ないらしい。
しかし厄介なのは、〈眷族召喚〉によって召喚された眷属は攻撃してくるということ。
つまり、自身は安全圏にいながら眷属に敵を襲わせる事が出来るのだ。
卑怯極まりない。
だが、戦いとは往々にして無情な物。
卑怯や卑劣などという言葉は存在しない。
それに──
「今の僕には蝙蝠如き相手にならねーさ」
蝙蝠を叩き落としながら、〈霧化〉が解けるのを待った。
体感では〈霧化〉の持続時間は五分程度。
それほど長くは維持出来ない。
やがて霧が一箇所に収束し、ヴァンパイアの身体を形作る。
僕はその瞬間を待っていた。
〈霧化〉が解ける直後に起こる僅かな硬直。
本来なら、隙にもならないだろう僅かな空白だ。
だが、戦いを学んだ今の僕なら、その一瞬を抉れる。
僕は思い切り強く地面を踏みしだき、収斂させた拳を放った。
狙うは右胸。ヴァンパイアの弱点。あるいは核らしき物がある場所。
それが弱点であるという確証はない。
しかし、確信めいたものを感じていた。
あれを壊せれば、こいつを殺せる──と。
ヴァンパイアは不敵に笑う。
嘲るように嗤う。
嫌な予感がした。
僕は何かを間違えたのかも知れない。
──果たして、拳はヴァンパイアの右胸へと深々と突き刺さる。
真っ赤な鮮血が頬に跳ねた。
しかし、そこにあの赤い宝石のような物はない。
「な……んで……」
なんでないんだ?
場所を間違えたか?
いや、あっているはずだ。
確かにここにあるはずなのだ。
しかし現実そこにはなかった。
何もなかった。
ドスッと鈍い音がする。
滑らせた視線の先にあるのは、僕の胸から生えるように突き刺さる華奢な腕。
貫かれたのだと気付いた時にはもう遅い。
本来なら躱せたであろう一撃。
動揺が判断を見誤らせた。
謀られたのだろうか。
奴は初めからこれを狙っていたのだろうか。
引き抜かれた腕の手の中には、未だ脈打つ僕の心臓が握られていた。
ヴァンパイアは静かに笑い、ぐしゃりと心臓を握り潰す。
赤く染る視界は瞬く間に暗転した。
何度目かも分からない死の気配。
徐々に身体が冷たくなっていくのを感じる。
恐怖はない。
生き返ることが分かっているのに恐怖など感じるはずもなかった。
ただ不快で、ただ虚しい。
それでいて悔しかった。
クソ……。また倒せなかった。
倒せたと思ったのに。
死ぬのはもう、これきりにしよう。
そう思うのは、一体何度目か。
結局、何故アレがなかったのかは分からないまま。
その謎は次回に持ち越しとなった。
次だ。
次こそは奴を仕留める。




