chapter02
そして今現在の僕は、束の間の休息を得ていた。
モンスターを倒すと、次の敵が現れるまで少しだけ間が空く。
体感で三十分ほどだろうか。
もっとも、休憩などという言葉が似合う時間ではない。
死んだばかりだというのに、胃の奥がひっくり返りそうなほど空腹だった。
吐き気を伴う飢餓感が、じわじわと意識を蝕んでくる。
動いていれば多少は紛れるかもしれない。
そう思って空間そのものを壊そうと試みたが、結果は散々だった。
以前、ミノタウロスの巨大な斧が直撃しても、
この白い空間は揺らぎ一つ見せなかった。
僕の力でどうにか出来る代物じゃない。
やはり、ここから抜け出すには——
現れるモンスターを、片っ端から壊すしかないらしい。
「……さて」
そろそろだ。
次の敵が現れる。
現れるモンスターに規則性は見当たらない。
ただ一つ分かっているのは、完全に殺し切った相手は二度と現れないこと。
逆に言えば、倒しきれなかった相手は何度でもやって来る。
ミノタウロスなど、もう数え切れないほど僕を殺している。
どうやら、奴は僕のことが相当気に入っているらしい。
僕は全く嬉しくないが。
まだ一度しか姿を見せていないのは、ヴァンパイアくらいだろうか。
出来ることなら二度と会いたくない。
正直、今の僕でも勝てる気がしなかった。
そんなことを考えていると、
不意に視界が白に塗り潰された。
空間を満たすほどの光。
——群れだ。
しかも、かなりの数。
次の瞬間、地面を覆い尽くすほどのインプラットが現れた。
「……出たな、ネズミども」
こいつらには、随分と酷い目に遭わされた。
逃げ惑い、噛み付かれ、何も出来ずに死んだ。
だからだろうか。
胸の奥から、黒い感情が湧き上がってくる。
「殺してやるよ」
強く地を蹴る。
身体が、やけに軽かった。
痩せたから——それだけじゃない。
踏み込みの角度、重心の位置、腕の振り。
意識する前に、身体が勝手に最適な動きを選んでいる。
自分でも不思議だった。
「ハッ……!」
拳がネズミの頭を砕く。
間髪入れず、次の一匹。
次、また次。
「ハハ……ハハハハハッ!」
笑いが込み上げる。
止まらない。
生臭い匂いが鼻を突き、
白い空間が赤く染まっていく。
噛み付かれる。
確かに痛い。
だが——それでも動ける。
以前なら、この程度で足が竦んでいた。
恐怖が先に立ち、身体が言うことを聞かなかった。
今は違う。
痛みよりも先に、次の動きが出る。
「死ね……死ね……!」
殴る。
蹴る。
潰す。
気付けば、インプラットの動きが遅く見えていた。
——違う。
遅いんじゃない。
僕の目が、奴等の動きに順応してきているのだ。
一体どれほどの時間が経ったのか。
何匹殺したのか。
気が付けば、立っているのは僕一人だった。
無限に湧き出るかと思われたネズミ達は、
静かに黒い霞へと変わり、空間から消えていく。
血の匂いも、赤い染みも、
時間と共に白へと還っていった。
まるで、最初から何もなかったかのように。
そこに残されたのは、
荒く息を吐く僕だけだった。
——長い。
そう思った。
だが同時に、こうも思っていた。
前よりは、確実に進めている。
理由は分からない。
分からないが——今はそれでいい。
僕は拳を握り締め、次に現れるであろう敵を待った。
【8/36】
虚空に現れた数字がやたらと虚しく感じられた。




