第17話 思い当たる原因
葵が一緒に居なければ配信できないと言っても、流石に配信中は例外だった。
女性Vtuberのファン層は、主に男性が多いと言われている。
ガチ恋勢と呼ばれる本気で好きだと推している人間もいれば、可愛いからとライトに推している人間など好きの度合いは千差万別だが……推している人物に異性関係があったとなれば簡単に炎上してしまうのが今の世の中だ。
紅月ほむらのチャンネル登録者は約1万人。その中にガチ恋勢がどれだけいるかわからないが、朱里のVtuber活動にとって異性関係の炎上は避けるべきだろう。
一度でも炎上してしまえば、一気に彼女のファンが離れるかもしれない。
たとえ真偽は違っても、その手の炎上で離れたファンは簡単に戻ることはない。
そこまでVtuberに関して詳しくない葵でも、その予想は簡単にできた。
もし彼女の配信に同席して、なにかのキッカケで自分の声が配信に入り込む可能性だってあり得る。
そう思えば、炎上を回避するために彼女の配信に同席しないと選択するのは正しい判断だろう。
朱里も、その意見に頷いていた。その手の炎上は、彼女も避けたいはず。
だから間違いなく、自分は正しい選択をしている。
そう思いながら、葵はやっとの思いで朱里家のリビングに辿り着いていた。
「つ、疲れたぁ……」
そう呟いた葵が、疲れ果てた顔でリビングのソファに腰を下ろす。
「……アイツ、マジで言うこと聞かねぇのな」
先程までのやり取りを思い出すだけで、自然とため息が出そうになる。
自分が同席すると炎上するかもしれないからと葵が朱里の部屋から出ようとしたら、当然のようにほむらが泣き喚いたのだ。
『ママが一緒に居ないと嫌ぁぁぁぁぁぁ‼』
そんなことを喚き散らして、意地でも葵を配信に同席させようとするほむらに、朱里と葵が色々と言い聞かせて今に至る。
肉体労働をしたわけでもないのに、とてつもない疲労感が葵を襲う。
しかし軽い頭痛を感じながらも、葵は渋々とスマホを取り出した。
「はぁ……なんで配信見ないといけないんだか」
本当は見る気も起きないが、ほむらの条件として提示された以上は見るしかない。
こうして葵が朱里の部屋から出れたのは、ほむらから条件を提示されたからだった。
ひとつは、葵が朱里の家から出ないこと。
そしてふたつめは、スマホを肌身離さず持ったまま、朱里の配信を見ること。
そのふたつを守らなければ、配信中でも葵のスマホに戻ると言って聞かなかった。
どうやら、ほむらは離れた場所でも葵のスマホの位置を把握できるらしく、また操作履歴も確認できるらしい。
だから葵が自分を置いていかないようにと、配信中は葵の動向を把握しようとしている。
そこまでのことができる時点で、本当にほむらは新手のウイルスなのではと思いたくなる葵だったが、自我を持った最新のAIなら簡単にできてしまうのだろう。
そう自分を納得させた葵がスマホでYouTubeを開いた途端、思わず眉をひそめた。
「……なんでいつの間に、ほむらのチャンネル登録されてんだよ」
なぜか葵のYouTubeのアカウントに、紅月ほむらのチャンネルが登録されていた。
葵がチャンネル登録をした覚えはない。ほむらにしてと懇願されたが、適当にあしらっていたはずだ。
それなのに、どうして?
「アイツだな、こんなことしたの」
思い当たる原因は、ひとつしかなかった。
おそらく、ほむらが勝手に登録したのだろう。
スマホの音量の調整やメッセージの送信など、勝手に色々なことをしていたほむらなら登録してもおかしくない。
いつの間にチャンネル登録をしていたのかまったく不明だが、思わず葵が呆れたとため息を漏らしてしまった。
「解除は……しない方が良さそうだな。面倒なことになりそうだし」
チャンネル登録を解除すれば、またほむらが怒るかもしれない。
また泣き喚かれたら堪ったものではない。そう判断して、葵はそのまま紅月ほむらのチャンネルに画面を進めた。
そうすると、紅月ほむらのチャンネルに配信中と書かれたサムネイルが表示されていた。
どうやら、葵が部屋を出てからすぐに配信を始めたらしい。
とりあえずは、彼女の配信を見なければ――
そう思うと、すぐに葵は彼女の配信を開くことにした。




