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第14話 そっくりだった



『ちょっとママっ! 私のこと乱暴に扱いすぎ! こんなに可愛い娘がいるんだから私のことは大事な大事な宝物みたいに大切にしないとダメでしょ!』



 葵が朱里の家に入った瞬間、葵のスマホからほむらの叫び声が響いた。


 マナーモードにして、なおかつ音量もゼロにしていたはずなのに、いつの間にか最大設定にされてしまったらしい。


 あまりの爆音に葵と朱里が揃って顔をしかめるが、そんなことはほむらには関係なかった。



『ママっ! なにか私に言うことがあるでしょ! 悪いことした時はちゃんと謝らないとダメなんだからね!』


「はいはい、ごめんって」


『うわっ! 全然気持ちが入ってない言い方!』



 棒読みで謝罪する葵に、ほむらのドン引きした声が返ってくる。



『もっと気持ちを込めてないとダメだよ! 愛する娘にごめんねって気持ちがちゃんと伝わるように、言葉のひとつひとつに愛を込めて言い直して!』


「なにが愛だよ、そんなもんあるか」 


『やっぱり全然反省してない!』



 そもそも悪いと思ってない葵からすれば、ほむらの怒りなど知ったことではなかった。


 なにげなくスマホを見れば、そこには頭に怒りマークを付けたほむらが映っている。


 無駄に芸が細かい。内心でそう思いながら、葵が仕方ないと親指でスマホに映るほむらの頭を撫でる。


 そうすると先程までの怒りはどこに行ったのやら、一瞬でほむらの表情が緩んでいた。



『えへへ〜、急に撫でるのは反則だよ〜』


「さっきは悪かった。またあとで頭撫でてやるから、今はちょっとだけ静かにしてくれ」


『仕方ないなぁ〜、今回だけだよ? こんなに可愛い娘が許してあげるんだから、ママも私に言うことあるよね?』



 ほむらの望む言葉を言わなければ、またうるさくなる。


 まだ短い付き合いだが、葵も彼女の欲しい言葉は察せる。


 子供が許してあげたと言っているのだから、ここは感謝の言葉を伝えるのが正解だろう。



「……ありがとう。これで良いか?」


『もうちょっと優しく言ってくれたら満点だったけど、とりあえず合格点をあげましょう!』



 葵の返事に満足したのか、ほむらが嬉しそうに頷いた途端、急にスマホの画面が暗くなった。


 それは葵との約束通り、今から静かにしてますという彼女なりの意思表示なのだろう。


 そう判断すると、葵は早々とスマホをジーパンのポケットに捩じ込んだ。



「……なんだよ、その顔」



 うるさかったほむらを無事黙らせた葵が安堵していると、なぜか朱里が神妙な顔をしていた。


 先程のやり取りに妙なことでもあったのだろうか。


 そう思った葵が怪訝に眉をひそめると、朱里が深いため息を漏らした。



「いや、なんというか……あの子の扱いが手慣れてる気がして」


「昨日からずっと相手してたら嫌でも慣れるって」



 まだ昨日から1日しか経ってないが、ほむらの扱い方は葵も少しは慣れていた。


 昨日の深夜、そして今日の朝から彼女の相手をしていれば、嫌でも慣れる。


 ハッキリと言ってしまえば、ほむらの言動は子供そのものだ。


 それがわかっていれば、なんとなくでも彼女の扱い方は察せた。



「……それにしてもチョロくない?」


「おい、余計なこと言うなよ」



 朱里の素直な感想に、葵が慌てて口に人差し指を添える。


 下手なことを言って、またほむらを怒らせると面倒なことになる。


 その仕草に、朱里が苦笑しながら口に手を添えると、心なしか落ち込んだ表情を浮かべていた。



「……なんか、ちょっとショックかも」


「急になんだよ?」



 唐突に落ち込んだ朱里に、葵が意味がわからないと首を傾げる。


 そんな彼に、朱里がわざとらしく肩をすくめた。



「ここまで扱いやすいと……もしかして私も同じなのかなって思っちゃって」



 それは一体、どういう意味だろうか?


 怪訝に思う葵だったが、その言葉の意味はすぐに察せた。



「あぁ、そうか。確かほむらって高垣の配信を学習してるんだっけ?」


「そう。だからあの子を見てると、なんとも言えない気持ちになっちゃう」



 今までの配信を学習して自我を持ったほむらが、あまりにも子供過ぎる。


 それは言ってしまえば、配信をしている朱里も同じと言っているようなものだった。



「その気持ちはなんとなくわかる気がするけど……でもお前って配信する時は素じゃないんだろ?」



 昨日の話を思い出して、葵がそう訊き返す。


 朱里の所属しているVtuberの事務所には、少し変わった制約があった。



「理想の自分を演じる、だったか?」


「うん。私を含めた配信者は、それをしないとダメって言われてる」



 朱里が配信をする上で、必ず守らなければならないルール。


 それは配信では決して素を出さず、Vtuberのキャラ設定を遵守することだ。



「普通に配信したらダメなんだよな?」


「それだと私のコピーしか作れないからダメ。お父さん達が作りたいのは新しい自我を持ったAIだから、学習させるのは私個人じゃなくて私が演じてるキャラクターじゃないと意味がないみたい」



 それは葵も聞いた話だった。


 朱里の父親が作りたいAIは、新しい自我を持ったAIあり、単なる誰かのコピーではない。


 Vtuberのキャラ設定を朱里が演じる。それをAIが学習して生まれる自我でなければ意味がない。


 そのために、わざわざ朱里の働いている会社はVtuber事務所を作ったのだ。



「それなら高垣が落ち込むことないだろ? 単にお前が演じたキャラってだけだし?」


「そうだけど、私が演じてるキャラの設定って私の理想の姿ってことだから……ある意味、私ってことにならない?」



 言葉の意味的には、そういう見方もできる。


 朱里の理想がほむらであるなら、それは朱里自身に他ならないと。



「ちなみに、その理想ってどんな設定だよ?」


「私の場合は、そこまで難しい設定にしてないよ。昔から私が理想にしてる姿にしてるの。すっごく可愛くて、元気いっぱいで、誰とでも仲良くできる子。そんな子になりたいって思ってたから」


「いや、それ今のお前じゃん」



 その理想の姿は、どう聞いても今の朱里でしかない。


 そう思った葵の言葉を聞いた瞬間、なぜか朱里がキョトンと呆けた表情を浮かべていた。



「え? 全然違うでしょ?」


「逆にその理想と今の高垣がどう違うのか聞きたいくらいなんだけど」



 葵も朱里の反応が理解できないと、思わず顔をしかめてしまう。


 そんな彼に朱里が首を傾げるが、その言葉の意味を察した途端、ほんのりと頬が赤くなった。



「え……じ、じゃあ大宮君って私のこと、そういう風に見てくれてたってこと?」


「俺っていうか、大体の奴がそう思ってるだろ」



 それは遠回しに、可愛いと言っているようなものだった。


 その言葉に、また更に頬を赤くした朱里が熱くなった顔を両手で隠してしまう。



「……なにしてんの?」


「急に褒めるの、ズルい。そういうのは反則だよ」



 顔を隠した手の隙間から、朱里の口元がニヤけているのが見える。


 だが葵はそんなことに気づくわけもなく、別のことを考えていた。


 今の反応は、不思議とほむらとそっくりだった。


 やはり、ほむらと朱里は一緒なのだと思わされる。


 恥ずかしがっている彼女に、葵はそんなことを思っていた。

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