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第6話「繰り返す朝」

スイムトラベラー

第6話「繰り返す朝」

東浦はゆっくりと目を開けた。

カーテンの隙間から差し込む光が、青く揺れている。いつもの朝だ。窓の外を見ると、街は水に沈んでいた。

道路は深い水路に変わり、人々は水着姿で舟を漕いで移動している。女子高生たちがビキニや競泳水着で笑いながら通り過ぎていく。「……またか」東浦は小さく呟いた。

体が重い。頭の奥に、ぼんやりとした痛みが残っている。夢を見ていたような気がする。誰かが泣いていた。誰かが、消えていく光の中に微笑んでいた。クローゼットを開けると、水着しかなかった。

黒の学校指定の水着を着て、外へ出る。水しぶきを上げて舟を漕ぎ、学校を目指す。道中、知らない人々が普通に挨拶してくる。「おはよう、東浦くん」「あ、おはよう……」学校に着くと、教室はプールサイドのよう。

クラスメイトたちは当然のように水着姿で席に着いている。「おー、東浦! 遅いぞ!」石浜が手を振ってきた。

紺色のビキニが眩しい。健康的な肌、濡れた髪、笑顔。すべてがいつも通りだ。「石浜……」東浦は一瞬、言葉を失った。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるような感覚。なぜか、涙が出そうになった。「どうしたの? 顔色悪いよ」石浜が心配そうに近づいてくる。東浦は首を振った。「いや……なんでもない。ちょっと寝不足かな」授業が始まる。

担任の先生がライフジャケットを羽織って登場し、防水ホワイトボードに今日の予定を書く。休み時間になると、みんなで中庭のプールで水しぶきを上げて遊ぶ。東浦は笑顔を作って参加した。

水着姿の女子たちを眺めながら、心のどこかで喜びを感じている。

これは自分の好きな世界だ。冗談で言った願いが叶ったような、楽園。それなのに。なぜか、胸が痛い。昼休み、東浦は一人で屋上――今は水上デッキ――に上がった。

遠くの水面を見つめながら、ぼんやりと考えている。(何か……忘れてる気がする)頭の中に、断片的な映像が浮かぶ。

海底の宮殿。銀髪の女性。光と煙。そして、誰かの最後の微笑み。「誰だ……?」指先が震える。

悲しみが、理由もなく胸に広がる。放課後、石浜と一緒に舟で帰ることにした。「ねえ、東浦。最近なんか変だよ。ぼーっとしてるし」石浜が櫂を漕ぎながら言った。「変なのは……この世界の方じゃないか?」東浦はぽつりと呟いた。「え? どういうこと?」「いや……なんでもない」石浜は首を傾げたが、それ以上追及しなかった。家に帰り、部屋で横になる。

目を閉じると、またあの夢のような記憶がよみがえる。誰かが、自分のために命を賭した。

誰かが、世界を守るために消えた。(俺は……何を忘れたんだ?)涙が頬を伝った。

理由のない悲しみが、東浦を包む。その夜、東浦は決めた。この世界がおかしい理由を、ちゃんと知らなきゃいけない。翌朝、また同じ朝が来た。

水着姿の人々が舟で通り交う街。学校で石浜が笑顔で迎える。東浦は内心で喜びながらも、胸の奥に残る悲しみを抱えたまま、この水浸しの世界を生きていく。何かが終わった気がする。

でも、何かがまだ始まっていない気がする。東浦はまだ知らなかった。

この悲しみが、失われた記憶の欠片であることを。

そして、再び訪れる運命の出会いを。水面に映る自分の顔が、どこか寂しげに揺れていた。

(第6話 終わり)

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