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第5話「玉手箱の代償」

スイムトラベラー

第5話「玉手箱の代償」

振動は次第に強くなり、竜宮城全体が微かに揺れ始めた。

東浦、石浜、亀崎の三人は客室を飛び出し、通路を駆け出す。兵士たちが慌ただしく行き交い、警報のような貝の音が響き渡る。「何が起きてるんだ!」東浦が叫ぶと、亀崎が歯を食いしばった。「強硬派だ。乙姫様を無視して、勝手に動いた!」三人は玉座の間へ急いだ。そこにはすでに乙姫が立ち、側近たちに指示を出していた。彼女の顔は青ざめている。「東浦さん……ごめんなさい。私が、止められなかった」「今からでも遅くない! 一緒に止めましょう!」乙姫は一瞬迷ったが、強く頷いた。「ええ……行きましょう」四人は亀崎の案内する小型の潜水艇に乗り、宮殿を飛び出した。

海底の暗闇を突き進む。遠くに、無数の光が蠢いている。強硬派の軍勢だ。魚鱗の鎧を着た兵士たち、巨大な貝殻の戦車、槍のように鋭いサンゴの武器。圧倒的な数で、地上へ向かう水流の道を進んでいる。「このままじゃ、地上が……!」石浜が声を震わせる。東浦は拳を握りしめた。「絶対に止める!」潜水艇は軍勢の側面に回り込み、強硬派の拠点である巨大な海溝の砦へ突入した。

戦闘はすぐに始まった。亀崎が先頭に立ち、水中世界の技で敵を翻弄する。石浜は地上の人間とは思えない機敏さで攻撃をかわし、東浦は必死に援護した。しかし、敵は強かった。

水中での動きは水中世界の民が圧倒的に有利。次々と味方の兵士(乙姫派)が倒れ、三人も追い詰められていく。「くそっ……このままじゃ!」東浦の体に槍が浅く掠め、血が海に広がる。石浜が叫び、亀崎が庇うように立ち塞がる。その時、海底が大きく揺れた。光が差し込み、巨大な影が現れた。

乙姫だ。一人で、巨大な亀を引き連れて現れた。彼女の手には、古びた箱――玉手箱が握られている。「乙姫様!」亀崎が叫ぶ。乙姫は静かに微笑んだ。「みんな……ありがとう。ここから先は、私に任せて」「何を言ってるんですか! そんなもの使ったら――」東浦の言葉を、乙姫は優しく遮った。「知ってるわ。この箱は、特定の記憶を消す最終兵器。でも、使う者の命も一緒に……」「やめてください! 他に方法があるはずだ!」東浦が叫ぶが、乙姫は首を振った。「これしか……ないの。あなたたちの世界を守るために。私が、選んだ道だから」強硬派のリーダーが嘲笑う。「甘い姫よ! お前がいなくなれば、我々の時代だ!」乙姫は静かに箱に手をかけ、蓋を開けた。眩い光が海底を包んだ。

白い煙が爆発的に広がり、強硬派の兵士たちを次々と飲み込んでいく。彼らの目から野心の光が消え、侵略の記憶が失われていく。「これは……何だ……?」「俺たちは……何を……?」軍勢は混乱し、進軍が止まった。

侵略の意志は、完全に消滅した。しかし、煙は味方にも及んだ。

東浦は必死に乙姫に近づこうとするが、体が動かない。視界が白く染まり、記憶が薄れていく。「乙姫さん……!」最後に見たのは、煙の中で微笑む乙姫の姿だった。

彼女の体が、光の粒子となって消えていく。「ありがとう……東浦さん。あなたのおかげで、平和が……」声が遠ざかり、東浦の意識は闇に落ちた。海底は静寂を取り戻した。

強硬派は記憶を失い、ただの民に戻った。乙姫の犠牲は、水中世界と地上世界の戦争を防いだ。だが、煙を浴びた東浦の記憶も――すべてが、消え去っていた。

(第5話 終わり)

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