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第4話「裏の思惑」

スイムトラベラー

第4話「裏の思惑」

竜宮城での滞在が二日目を迎えた。東浦たちは豪華な客室を与えられ、自由に宮殿内を歩くことを許されていた。石浜は珍しい貝殻の装飾や、泳ぎ回る熱帯魚のような従者に目を輝かせ、亀崎は時折兵士たちと言葉を交わして情報を集めている。東浦は一人、庭園のようなサンゴの回廊を歩いていた。

透明なドーム越しに見える海底の風景は美しく、遠くに光る魚の群れが幻想的だ。「ここなら、ずっと暮らしてもいいかもな……」ふとそんなことを考えてしまい、すぐに首を振った。

いや、違う。元の世界に戻らなければ。その時、後ろから柔らかな声がした。「東浦さん」振り返ると、乙姫――乙川が立っていた。

普段の優雅なドレスではなく、簡素だが美しい水色の衣装。まるで地上のワンピース水着のような、動きやすい格好だ。長い銀髪が水の流れに沿って揺れている。「少し、話せますか?」二人は小さな貝殻のベンチに腰を下ろした。

しばらく沈黙が続いた後、乙姫が口を開いた。「あなたに……本当のことを話さなければいけない」東浦は身を乗り出した。「本当のこと?」乙姫は目を伏せ、静かに語り始めた。「世界を水浸しにしたのは、私の勘違いだけではないんです」彼女の言葉に、東浦は息を飲んだ。「実は、水中世界には強硬派と呼ばれる一派がいます。彼らは地上を侵略し、我々の世界を広げたいと考えている。水没した世界では、我々水中世界の民が圧倒的に有利になる。だから……」「だから、あなたの願いを、わざと曲解した?」乙姫は小さく頷いた。「彼らの圧力は強かった。私は争いを望まない。でも、拒否すれば内乱になる。私は……従わざるを得なかったんです」東浦は言葉を失った。

自分の冗談が、こんな大きな陰謀に利用されていたなんて。「でも、私は本気で平和を望んでいます。地上と水中世界が戦うなんて、絶対に嫌……」乙姫の声が震える。

初めて見る彼女の弱さに、東浦は胸が締めつけられた。「だから、お願いです。あなたに力を貸してほしい。侵略を止めて、両方の世界を救ってください」東浦は黙って頷いた。「わかりました。俺も、争いは嫌です」乙姫はほっとしたように微笑んだ。

その笑顔は、どこか儚げだった。一方その頃、竜宮城の奥深く、暗い部屋で会議が行われていた。「地上の人間が来ているそうだな」「ええ。あの東浦とかいう少年です」「乙姫様は彼に心を許したようだ」強硬派のリーダー格の男が、冷たく笑った。鱗に覆われた体は威圧的で、目には野心が宿っている。「もう待つ必要はない。進軍の準備は整った」「しかし、乙姫様が……」「彼女は甘すぎる。地上を征服すれば、我々は新しい時代を築ける」部屋にいた数名の幹部たちが頷く。

地図のような水晶板には、地上への進軍ルートが描かれていた。

水面下で、軍勢が静かに動き始めている。「今夜、決行だ」リーダーの言葉に、誰も異議を唱えなかった。東浦たちはそれを知らないまま、夕食の席に着いていた。

豪華な料理が並び、石浜は楽しそうに乙姫と話している。「乙姫さんって、本当にきれい! 地上に来たら人気者ですよ!」「ありがとう。でも、私はここを離れられないの……」乙姫は笑ったが、その目は遠くを見ていた。食事が終わり、客室に戻る途中、亀崎が東浦を呼び止めた。「東浦、ちょっと来てくれ」二人は人気のない通路で立ち止まる。「何か変だ。兵士たちの動きがおかしい」「どういうこと?」「一部の部隊が、宮殿から離れている。まるで……出撃の準備みたいだ」東浦は背筋が冷たくなった。「まさか……強硬派が?」亀崎は頷いた。「乙姫様は知らないかもしれない。でも、時間がない」その時、遠くから微かな振動が伝わってきた。

海底が、わずかに揺れている。「始まった……」亀崎の声が低く響いた。東浦は歯を食いしばった。(俺のせいで始まったことだ。絶対に、止めなきゃ)夜の海底に、静かな緊張が広がっていく。

地上世界の危機が、すぐそこまで迫っていた。

(第4話 終わり)

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