第6話 異世界からお持ち帰りした美少女。
5年ぶりの母はひどくやつれていて、胸が痛んだ。
玄関の俺に気づくとまるでオバケか幻でも見たみたいに瞳を震わせ首を振り、膝から崩れ落ちてしまう。それから床を擦り寄ってきて俺の脚に縋りつき、母は号泣した。俺とステラに何を憚ることもなく、ただ泣いていた。
あまりの出来事に俺はまたしても言葉を失ってしまうが、なんとか平凡な一言を搾り出す。
「ただいま、母さん」
俺の瞳からも自然と涙が溢れてしまうのだった。
その後、母はすぐさま仕事中の父へ電話をかけた。するとほんの30分後には定時前に早退した父が帰ってきて、再会を果たした。
俺とステラは横に並んでテーブルの席につき、両親と向かい合う。
「まさか……まさか、な…………」
父はワナワナと震えながら拳を握り締めると、次の瞬間に感情を爆発させる。
「まさかッ、あのクソ陰キャすぎて小学校4年生の時にはエッチなラノベを読み漁っていた、あの明日太がッ、明日太がッ、こんな美少女のお嫁さんを連れて帰ってくるなんてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
俺の読んでたラノベの中身を何故知っている。いや、今はそれどころじゃない誤解が発生していた。
「嫁なわけねぇだろクソ親父」
「——はい、お嫁さんです♪」
はぁ……!?
俺の否定をかき消すかのようにステラはノリノリで答える。
「うぉぉぉやっぱりぃぃ!! 明日太おまえおっきくなったなぁ男になったなぁぁぁ!!」
「お母さんも嬉しいわぁ。ほら、あんまりにも嬉しくてお肌がこんなにツヤツヤに……う、うぅ…………っ」
バカ騒ぎして勝手にビールを開け始める父と、さめざめと涙を流す母。……もう収拾つかないぞこれ。
「おいステラ、悪ふざけも大概にしろよ……!?」
「悪ふざけなんてとんでもない。私はこのお2人を味方につけるのが私にとって最も有益であると判断したまでです」
元凶の魔女は涼しい顔で事態を見守っている。
「こんなウソ、すぐにバレるぞ」
「ウソじゃなくすればいいのでは?」
「は?」
ステラはあっけらかんと言う。
「私はべつに困りませんよ?」
「……っ………………うぜぇ」
一瞬だけ、本当に一瞬だけだがトキメキそうになった自分がキモい。失恋直後の心は非常にナイーブなのだ。
そんな俺の様子を見てステラはフッと吐息を漏らして笑みを浮かべる。
「まぁまぁ。今はそういうことにしておきましょうよ。お2人とも本当に嬉しそうです」
「それはまぁ、そうなんだよなぁ」
騙しているようで若干罪悪感はある。だけど母さんなんて露骨に若返っているし……。
「色々と落ち着いた後で、アスタが別の道を進むというのなら、私からお2人に説明します」
両親の喜びようを見ていると今更話をひっくり返すこともできず、俺は渋々現状を受け入れた。
“災厄の魔女の再来”ステラは明日太の恋人にクラスチェンジした!
「アスタは良いですねぇ幸運ですねぇ。フラれた傍から私みたいな美少女の恋人ができて」
「…………………」
「……なんですか?」
「……べつに」
隣にいる少女はたしかに美少女だ。ちょっと痩せこけていることを除けば非の打ち所がない。しかし不思議と、不埒な気持ちは湧かないのであった。
「まぁ、妹ってとこか……」
ステラに聞こえないよう、俺は小さく呟いた。