第4話 心の準備が必要です。
「————魔女だ」
白髪赤目の赤子が産まれ落ちた時、その場の誰もがそう思ったことだろう。
「おまえ、なんてモノを産んだんだ。こんなの、俺の子じゃない」
父親は全てを投げ出し、行方をくらませた。
「あんたのせいで私の人生はめちゃくちゃよ————!!」
母親は数年のうちに心を病んで、まともではなくなった。
物心ついた頃には、ひとりだった。
「災厄の魔女、かぁ……」
何気なくかざした手のひらに魔力が集まり、燃え盛る火の玉となる。
聡い少女は、自分というイキモノの人生をいち早く理解した。
「ああ、私は幸せになれないんだ」
白髪赤目は、呪われている。
◇◆◇
今朝はあまりにもよく眠っていたステラが自然と目を覚ますのを待ってからネットカフェを出た。
いの一番に探したのは換金屋。
しかし持ち込んだ金銀財宝を店主に見せると、これを換金できるだけの金が店にないと突っぱねられた。挙げ句の果てにはこんなモノを何処で手に入れたんだと怪しまれる始末。
結局はべつの店に駆け込んで、小さな宝石ひとつだけを買い取ってもらった。
それだけでもかなり驚くべきお金になったのだが、まだ日本の金銭感覚のないステラはポケっとした寝惚け眼。
とりあえず他の金銀財宝はステラの魔力で作る異空間の保管庫とやらに投げ込むことに。いや、そんなものがあるなら最初からやってくれ。クソ重かったじゃんと100回は文句を言ったら、ステラは少し不機嫌になっていた。純粋に忘れていたらしい。
金の調達ができた後は、俺でも知ってるアパレルチェーンへ。
実は異世界感バリバリの冒険者風衣装の俺と、魔法使い衣装のステラはかなり目立っていて、恥ずかしかったのだ。まぁ現代日本ならコスプレかな?で済ませられちゃうんだけど。それでも警察に目をつけられないとも限らない。
ステラは色んな服に目移りして珍しくも女の子らしさを見せていたが、時間がないので適当に選ばせてもらった。さらに不機嫌になった。
そうこうしていたらもう昼過ぎで、俺たちはようやく駅へと向かう。
「しん・かん・せん!」
ホームに到着した新幹線を見たステラは赤目をキラキラと輝かせる。
その両手には複数の駅弁の袋が握られていた。あらかじめエサでご機嫌をとったつもりだったが、思わぬ誤算である。
「アスタ! アスタアスタアスタ! なんですかこの鉄の塊は! 外のクルマというのも凄いですが、これはもっとおっきくて長いです! これが走るんですか!? 魔法ではなく!? 一体何をどうすればこんなクソデカブツが動きやがるのでしょう!?」
新幹線に大変感激の天才ステラちゃん。
まるで小さな娘ができたみたいな気分だ。
ここでウンチクでも披露できればいいのだが、小学生で異世界転移した俺にそんな知識があるはずもなく……。
てか、俺だって新幹線初めてなんですけど!? すっげぇよこれなんなんこれすっげぇ!!
「こ、こここ言葉使いがはしたなくなっておりますわよステラさん」
なんて言いながら大人な俺は平静を取り繕うのであった。
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新幹線の旅は2時間ほど。それからいくつか電車を乗り継いで、最寄りの駅へ。
駅から15分ほど歩くと、懐かしい我が家を見つけた。
「変わってないな……」
なぜだかすごく安心して、力が抜ける。
「ここがアスタの家。そしてこれからは私の根城となるわけですか。なかなかの豪邸で私様は満足ですよ」
ごく普通の一軒家だが異世界人目線ではそうらしい。
しかして、どうしてここに住むこと前提で考えているんでしょうか……?まぁ、今はどうでもいい。
「よ、よし……行くぞっ」
今度は謎の緊張に襲われながらも俺は家の敷地へ入ろうと一歩踏み出そうとした、そのときだった。
「————あすくん……?」
ふいに横からかけられたその鈴の鳴るような声が、俺の足を止める。
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