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第3話 異世界よりファンタジーしてた日本。

 しばらく空中散歩を続けると、大きめの街にたどり着いた。どうやら関東近郊の都市らしい。

 夜も遅いのに関わらず人通りが多くて、ステラはとても驚いていた。地方出身の俺にとってもそれは変わらないのだが、それ以上にマスク姿の人々が目についたりした。


「どうします? アスタの故郷はここじゃないのでしょう? このまま飛んでいきますか?」


「いや……今日はもうどこかに泊まろう」


 俺は少し考えてから答える。

 魔法も悪くないが、郷に入っては郷に従えとも言う。ここからは現代人らしく行動しよう。


 そうと決まればまずは宿探しである。

 俺はポケットに忍ばせた一枚の紙幣の存在を確認するように握りしめる。それが異世界転移時の俺の全財産である。ちなみに財布は他の衣類などと同様、異空間に消えた。

 まぁ、当時小学生にしては大金を持っていたと言えるレベルだろう。

 

 持ち込んだ金銀財宝を換金しようにも店がやっていないだろうし今日のところはこれで凌ぐしかない。


 諭吉に、感謝。


「いらっしゃーせー」


 ということで俺たちがやってきたのは、駅前のネットカフェ。


「ここが、ねっとかふぇー」


 何も理解してなさそうなステラ。

 何もかもが彼女にとっては初見なのだから当然だ。しかしポカンと口を開けたその顔は非常にマヌケで年相応に幼なげで微笑ましい。

 なんだか今だけは天才に勝った気分である。


「カップルシートでよろしかったですかー?」

「あ、いえ2部屋でお願いします」


 開口一番、何なんだこの店員。どこがカップルやねん。


「2部屋? アスタとは別の部屋なのですか?」

「そういうことになるな」


 ステラが俺の顔を覗き込んでくる。

 あっちの世界でも宿屋での会話は同じようなモノだから、ようやく話を理解し始めたらしい。


「む、アスタと一緒がいいです」

「はぁ? なに、ステラちゃんたら1人でおねんねできないの?」

「まぁ、ちょっぴり不安なので」


 ステラは俺の服の袖を控えめに引っ張る。

 見たことも聞いたこともない土地を歩いて、らしくもなく弱っているらしかった。


「…………すみません、やっぱりカップルシートでお願い、します……」


 数秒の葛藤を経て、俺は奥歯を噛み締めながらそう口にした。めちゃくちゃに恥ずかしい……!!

 日本初心者の赤ちゃんに対する、たった一度切りの出血大サービスである。


「わーい。アスタと一緒わーい」

「幼女化しておられる……」

「アスタアスタ」

「なんだよ幼女様」

「変な気おこしちゃ、ダメですよ」

「おこすかアホ」


 そもそも、もう何日も同じ洞窟内で寝ていたのだから。今更何がどうということもない。


 部屋を借りた後はすぐにシャワーを浴びて、適当に食事を取った。


「はぁ〜、ビザ美味しかったですね〜」

「ピザな。最高に不健康な味がしたな」


 しかしそれでいい。それがいいのだ。

 異世界のクソ硬いパンに虐められ続けた俺の胃が復活の産声を上げている。


「シャワーというのも、なんとも不思議です。あれが魔法ではないだなんて」


 ステラは初体験の数々を振り返りながら、リラックスしたようすで布団に寝転がった。

 シャワーで温まったからか、はたまた興奮からか、頬は桜色に染まっている。


「……私に悪意や恐怖、憎悪を向けてくる人も、いないんですね」


「むしろ感激してる奴らがいたな」


「ふふん。美少女ですからね。当然です」


 白髪赤目の美少女なんて、オタクにとっては夢の産物なのだろう。

 ステラもまた、周囲のその反応を嫌がっていないのは明らかで、むしろ満足そうだった。承認欲求あり余ってそうですもんね。


「ふぁ……」


 しばらくそんなくだらない話をしていたが、やがてステラは眠たそうに欠伸を噛み殺す。


「アスタはまだ寝ないのですかー?」

「もうちょいネットサーフィンしたら寝る」


 いや、やべえよ、やべえんだよ。俺がいない間になんか世界的にパンデミック巻き起こってるんだが?

 俺がいた異世界よりもよっぽどファンタジーで終末的なんだが?


 ここ5年の歴史が濃厚すぎて、脳が追いつかないくらいだった。


「私は寝ます。なんだか、今日はよく眠れそうな気がするんです」


「おう、ゆっくりおやすみ」


「はい……おやすみなさい、アスタ。また、明日」


 数秒後にはステラの寝息が聞こえてくる。その顔は緩み切っていて、安心に満ちていた。


 は? 今の一万円札ってもう諭吉じゃないの? マジ?


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