第11話 アニメならダイジェスト。
日本各地の名所や歴史、食を巡る、2か月間の家族旅行。
楽しい時間は短く感じるとよく言うが、本当にあっという間に時は流れていった。
歴史を感じる古い街並みを家族で散歩していると、星奈は屋台の前でふらっと足を止める。風に乗ってきた香ばしい匂いにつられたのだろう。自然と家族全員が立ち止まった。
「みたらし団子か」
「みだらしだぞ、明日太」
暖簾を見て呟くと父がふんすと鼻を鳴らし、人さし指を立てながら得意気に口を挟んできた。
「……みだらし?」
「そう、みだらし。この地域特有の訛りでな。みたらし団子ではなく、みだらし団子と言うんだ」
「ふーん」
「ちゃ、ちゃ〜んと味にも違いがあってだな? みだらし団子は甘くない醤油だれで焼くんだ。ほ、ほ〜ら、醤油の焦げる香ばしい匂いが食欲をそそるだろう〜?」
無関心気味な息子の気を引くためか、父はさらなる蘊蓄を披露する。
みたらし団子と言えば砂糖醤油の葛餡を思い浮かべるが、どうやらこの屋台で焼かれている団子は一味違うらしい。
昼飯を食べたばかりだが、ちょっぴり腹が減ってきた。
と、星奈が屋台の方へとてとてと駆け寄る。
「みたらし4本、く〜ださ〜いな」
その手にはちゃっかり母の財布からゲットしたお札が握られていた。
店主のおじさんは愛想よく返事すると、今まさに焼き終えた団子を包んで渡してくれる。
「はいどうぞ、お嬢ちゃん」
「ありがとうございます。……あれ? 1本多いですよ?」
「そりゃオマケだよ。お嬢ちゃんが可愛いから、思わず手が滑っちまった」
おじさんはそう言って、パチリとウィンクした。やだ、惚れちゃう。
俺は生まれてこの方オマケなんてしてもらえたことないけど。
星奈からみだらし団子を1本もらって早速口に運ぶ。
醤油の芳ばしい味と、餅の素朴な甘さが口内に広がった。甘味があまり得意でない俺にとっては、かなり好みの味だ。ナイスみだらし。
「……しかしよく食うなぁ」
「オマケを貰ってしまいましたからね。まったく、可愛い自分が憎いです。〜〜っ、うま〜」
すっかりおじさんに絆された星奈は両手に串を持ってわんぱく食べしている。
さらにもう1本追加で買っていた。どう考えても食いすぎである。
「まぁ、分からんでもないけど」
俺ももう1本食べちゃおうかなぁ。
異世界帰りの一般男子と異世界出身の魔女は現代日本の飯の美味さの何もかもにくびったけなのである。
もう異世界ライフには戻れませんわ。
というわけでもう1本、いただきます。
その後はまだ日が高いうちに車で移動を開始して宿泊予定の温泉旅館へ向かった。
そこが旅の終着地点。
最後は温泉でゆったり、というわけだ。
「わー、わー、タタミ〜。ごろごろ〜」
部屋に通されると、畳に感激した星奈が幼女様と化してはしゃぎ回る。
なんでこんなに元気なのだろうこの幼女様。俺はもう疲れたよ早く温泉入りたい。
しかし、それにはまだ早い。
俺たちには最後の一大イベントが控えているのだから。
「よし。始めよう」
家族4人がテーブルを囲んで座り込む。
「そうですね。ではまず、アスタから」
ドゥルルルルルルルルル、デン!
星奈のワザとらしい効果音と共にそれは告げられた。
「アスタプロデュース、日本全国ご当地ラーメン巡り————70点」