福丸氏と愛人
福丸氏は名前のとおりお腹の肉がフクフクした男性だ。
傍目からでもうっきうきなようす。
隣にはすごく嫌そうに福丸氏と手を繋いでいる女性。
綺麗なアッシュ系の長い茶髪、透け素材のゆるふわトップス。
とても整った美貌で少し冷たそうな印象だ。
年齢がよくわからないがおそらく20代前半ぐらいだろうか。
「愛人っていうよりパパ活っぽいですね。あんな仏頂面で許されるんなら私でも出来そうです」
『やめなさいー!自分を安売りしちゃだめよ!』
「それにしてもあんなんで本当にホテル行くんですかね?そこまで割り切れるものなんですか?彼女さんずっと眉間に皺よってますよ」
『男女の仲と金銭感覚は人それぞれだからねー★』
私達は小声で会話しつつ適度に距離をとり福丸氏の後をつけている。
彼らはまずアトラクションに乗るらしく園内マップとフリーパスを片手にほとんど順番待ちの列がないミラーハウスに入って行った。
「ミラーハウスでイチャイチャしますかね?」
『どうかしら…どっちみちミラーハウスじゃ写真を撮るのは無理そうよねー』
「たしかに、こちらの姿も写真に写りこんじゃって微妙ですよね」
そんなことを話ながら入っていったミラーハウスをぼんやりと眺める。
そういえばミラーハウスって鏡張りの迷路みたいなものだって知識はあるが、入ったことないなと思った。
「蜂鳥さん、写真は撮らないとしてちょっと入ってみませんか?」
『そうね、出てくるの待ってるのも暇だしね』
いつ建てられたのかわからないが昭和感あふれるミラーハウスだ。
遊園地に入る際買っておいたフリーパス券を持ち入口にむかう。
入口スタッフの人に蜂鳥さんが「大人2名です」と伝えた。
伝えた。
伝えたらしい。
その間私は蜂鳥さんの両手によって耳をふさがれていたので予想でしかないが。
スタッフの人はすごく怪訝な表情をしつつ「こちらでーす」と言った感じで入口のドアを開けてくれた。
「変なやつらだと思われましたよね」
『大丈夫よ!さっちゃんが変なのは事実だもの!』
そう幼女の声でのたまう成人男性のツッコミはスルーしつつ私達はミラーハウスに足を踏み入れた。
「へーこういう感じなんですね」
観覧車とかジェットコースターに乗ったことは何度もあるが、ミラーハウスってちょっと珍しい気がする。
古い施設だから端々に老朽化が見られるし少しチープな感じもするがそれもまた味だ。
鏡に映る少し歪んだ沢山の自分と蜂鳥氏。
『足元を見るとなんとなく道がわかるみたいね』
ダイヤ柄の床を見ながらそろりそろりと足を進める。
ごちっ
べしっ
おでこと肩と膝が痛い。
何度も言うようで申し訳ないが、私は成績は結構いいのだが運動神経が壊滅的だ。
目の前にある鏡と自分の体と進む先の距離感がいまいち掴めない。
さっきから鈍い衝突音が響く。
『さっちゃん…』
蜂鳥さんが憐れむような目で見てくる。
「大丈夫です。壁の耐久性を調べていただけです」
我ながら可愛げのない女だ。こういう時に「やん!いたいーい私ドヂィ」とか言える人間に来世ではなろうと心に決める。
ゴスっ
ベンっ
結構道のりが長い。
安易な気持ちで入るんじゃなかった。
しかも全然福丸氏達に追い付かない。ただ福丸氏らしき声だけは聞こえてくる。
「リセちゃんすごいね!全然迷わないんだね!僕っハアハア付いていくのに精一杯でハアハア」
どうやらお相手の女性はリセちゃんと言うらしい。
「も もうちょっとゆっくり歩いてくれないかなリセちゃんハアハア、あ ごめんね嘘です僕が早く歩きますハアハア」
リセちゃんの声は全然聞こえないがどうやら福丸氏は睨まれたらしい。
「なんかあんまり仲良い感じじゃないんですね」
小声で蜂鳥さんに囁くと本体がうんうんと肯定している。
そうか、向こうの声が聞こえるということはこちらの声も普通に話したら聞こえてしまう。
それで幼女の声を出しにくくなったのか。
「地声で喋っていいですよ?」
一応言ってみる。
こんな場所で地声で喋られて前後不覚におちいったら、鏡に激突して大惨事になるかもしれないが。
「・・・・・」
蜂鳥さんに胡乱な目で見られた。




