ジュースつみ
おそらく3年くらい前に「ある晩」実際に語り聴かせた話の再話です。
話の流れ自体は変えていませんが、何せ昔のものなので、ディティールはとっても違います、たぶん(正解は誰も知らないのでよし)。
あるばん、三日月のゴンドラがするするとベランダにおりてきました。
「こんばんは、ジュースつみに行きませんか?」
ぽぽちゃんは、その声に、もちろん「いく!」と元気よく答えて、白くまのぬいぐるみのフラウと一緒にベランダからゴンドラに乗り込みました。
船頭のねずみが、長い櫂でゴンドラをこいでいます。
「さあさあ、おふたりとも装備を整えておいて下さいよ。長靴をはいて!網を持って!」
見ると、銀色の長靴が、2足そろえておいてあり、そのそばにこれまた2つ金色の網がおいてあります。ぽぽちゃんとフラウは、はいて!持って!とぽんぽん言われる声に背中を押されるように、長靴をはき、網を持ちました。
「ようござんす、天の川に着きましたよ!ほら、たくさん泳いでますから!」
「へ?」
「なにが?」
「なにがって、いやですよ、ジュースつみにいらしたんじゃないですか!ほうら、掬って!そこ!」
船頭ねずみの指さす先に目を凝らすと、星をつないで出来たグラスがぴょんっと跳ねました。
「ていっ!」
そこをフラウの網がサッとねらいます。
が、グラスはポチャンと川に落ちて、また泳いでゆきました。
「あー、おしい」
泳いで行くグラスのまわりに、同じようなグラスがいくつも集まってきました。
「よーし!」
ぽぽちゃんが、その真ん中へ金色の網をズボっと入れて引き上げると、グラスが1つ獲れました。
「やった!」
網でかき回したので、またぴょんっと跳ね上がったグラスがいて、フラウは今度こそ、とサッと網を振り、見事にそれを捕まえました。
ふねの上でつかまえたグラスはぴょんぴょん跳ね回っています。
「こんなに跳ねたら、せっかく捕まえたのに、ふねの外に落ちちゃうよ」
「ご心配にはおよびません。これはね、こうするんですよ」
船頭ねずみはぴょんぴょん跳ねるグラスをがしっとつかんで、キュッと口をひねりました。すると、グラスは栓をされた瓶のようなかたちになって、しゅるしゅるっと光を放ち始めました。ぽぽちゃんのは緑、フラウの捕まえたのはピンクです。ふたつとも、そうして口を閉じられるとすっかり静かになり、ふねの上でころんと転がっています。
「さあさあ、どんどん獲りましょう!掬って、掬って!」
船頭ねずみが勢いよく、そこです!はいそこ!とかけ声のように声をかけてくれるので、ぽぽちゃんもフラウもタイミングをつかむことができ、たくさんのグラスを捕まえました。
ふねの上でぴょんぴょん跳ねるグラスを、船頭ねずみは慣れた手つきで次々キュッキュッとひねってゆき、ジュースのびんが、ごろごろと転がって色とりどりの光を放ちました。
「はー、つかれたあ」
「いっぱい獲ったねえ」
「おや、もうよろしいですか?では、おみやげのジュースをひとつずつお選びください」
「ひとつずつなの?」
「こんなに獲ったのに?」
「残りは天の川になるんですよ。グラスは泳いでいる間はグラスのまんまなんでね、つかまえて瓶にしてやる必要があるんです。そうして初めて中に光が生まれるって寸法でね」
「はあー、そういえばさっきもそうだったもんねえ」
「月の大広間まで持って登ればジュースになりますが、このままここで流してやれば星の赤ちゃんとして育ちますから。こうしてやんなきゃ、天の川が枯れちまいますよ。骨の折れる仕事なんでね、時折こうしてレクリエーションとして楽しんでいただいておりますが、お持ち帰りはひとつまででお願いいたしますよ」
「なるほど」
ぽぽちゃんとフラウは、天の川なくなったら困るもんね、ね、とうなずきあって、わかりましたー、と船頭ねずみに答えました。
「フラウ、これにする」
「ぽぽちゃんは、これ」
ふたりとも、さいしょにつかまえたのとおなじ、ピンクと緑をえらびました。
「よござんす。では、お月さまに着くまでの間、よければ放流にもお付き合いいただけますか」
「放流って?」
「これ流すの?」
「そうです」
船頭ねずみは、ぐいっと櫂をこいで進んでから、キュッキュッと瓶の口を開いていきました。
「グラスはまた泳ぎ始めますから、それごと投げて大丈夫。さあ、どんどんどうぞ。」
ぽぽちゃんとフラウは、グラスが跳ねて中身がこぼれないうちに、ぽうんと天の川に放り込みました。
中の光は川の中へさあっと溶けて、グラスはまた、元気に泳いでゆきました。
ぽんぽんグラスを放り投げながら、あっという間にゴンドラは、お月さまの大広間に着きました。
大きなテーブルに、もう何人かジュースのびんを持った子どもが集まっていました。ぽぽちゃんのようにぬいぐるみを連れている子もいて、そういう子は、ちゃんとぬいぐるみも自分の分を持っています。
「みなさま、今夜は大変ご苦労様でした。この大広間に入ったグラスは、もう跳ねることはありません。どうぞごゆっくりお楽しみください。」
テーブルのまん中には、満月ケーキや三日月クッキー、雨粒ドロップや綿雲メレンゲなど、大きなお皿にたくさんのお菓子が盛りつけられていました。
パーティのはじまりの合図、とでも言うように、みんなのジュースのびんのくちが、同時にぽんっと開きました。そうして、すうっと空中に浮かび上がると、いつのまにかひとりぶんずつ用意されていた、瓶とそっくりの星でふち取られたゴブレットに、トクトクと注がれてゆきます。
大広間に、いろんないい匂いが広がりました。
「かんぱいしよう!」
だれかが言って、みんなが、そうしよう、とゴブレットを持ち上げました。
「かんぱい!」
ゴブレット同士を合わせると、シャラン、シャララーン、とキレイな音がしました。
音楽会でこんなふうな楽器の音を聴いたなあ、と頭のすみっこで考えながらぽぽちゃんがジュースを飲むと、それは、今まで飲んだ中で一番おいしいメロンジュースのあじがしました。
「メロンだ!」
「フラウのはいちご!」
「ももだ!」
「みかん!」
「りんご!」
めいめい、大好きな味が口の中に広がっているのが分かる笑顔で、みんなが言いました。
みんなでお菓子をたべ、ジュースを飲み、ときどきジュースを分け合ったりもしながら、たくさんのグラスをすくい上げたことや、逃げられてたいへんだったこと、流すのに放り投げるのが面白かったことなど、たくさんおしゃべりをしました。
すっかり満足すると、連れてきてくれた船頭ねずみが「お帰りはこちらです」とまたゴンドラに乗せてくれて、ぽぽちゃんは、フラウといっしょにおうちに帰りました。
私の寝かしつけの話はタイトル勝負でそこから考える、みたいなことも多いので「ジュースつみ」と言っておいて全然「摘んでない」んです。こういうことはよくあります。白くまのぬいぐるみのフラウが常に出張ってくるのは、聴かせられる対象がまだまだ(お話の中でも)一人では冒険に出られないから。そうして、最後は「おうちに帰った」ことを語らないと安心出来ないタイプのため、私の話は必ず蛇足めいておうちに帰る描写がついてきます。そして、(大体眠れない子に語っているので)寝落ちはめったにしません。




