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1話

スマホのアラームを止める。


まだ外は明るくなってきたばかりだ。川沿いをランニングしシャワーを浴びて朝食をすます。そして鏡に向き合う。面倒臭いルーティンを作ってしまったものだと我ながら思うがどれもこれも俺の夢のためである。


髭を剃りBBクリームを塗る。気になるところにコンシーラーを塗り目元に軽くメイクをする。そしていかついピアスをつけ乾かした髪にワックスをつけて毛先を遊ばせる。よし、イマドキだ。


ギターリュックの外側にあるポケットにパソコンと筆記用具を入れ俺は家を出る。


“今年こそ彼女を作るぞ!!”


今年から大学生になった俺は見事に大学デビューを果たした。高校生時代には話さなかったような人たちとも仲良くなれた。講義を受け、部室に向かう。


彼女いない歴=年齢。もちろん童貞な俺は鬱屈したコンプレックスを抱いていた。


本当はギターなんかやったことがなかったしロックも興味がない。しかし軽音部はモテそうという安直な考えで入部し、苦戦している。


「いいじゃんコード覚えてきたね〜!文化祭までには弾けるようになるんじゃない?」


金髪のチャラついた先輩にそう声をかけられる。俺は心の中でいつも金髪先輩と呼んでいる。今までは金髪なんて不良と思い込んでいたが金髪先輩は面倒見が良く、頭もいいので俺たち一年生に慕われている。


「じゃ、おつかれー!」


今日も女の子に話しかけられずに終わってしまった。俺はどうやら女性に対してのみコミュ障らしい。女の子に話しかけられないためギターだけがわずかながらに上達していく。これじゃあ本末転倒じゃないか…俺は自分の人生に失望しながら重いギターバッグを背負い帰路についた。


家に帰りメイクを落とし、シャワーを浴びた俺は眼鏡をかけて見慣れた自分に戻っていた。両親から送られてきた段ボールからおもむろにカップ麺を取り出し、ポットをセットする。その間にモニター画面をつけ、動画配信サイトを開く。俺の好きなアニメはギャルゲが原作で所謂泣きゲーと言われる神アニメだ。女の子が可愛いだけではない。優しくて主人公もその優しさに触れて成長していく心温まるストーリーだ。


今日も女性と話さなかったなと落ち込みながらもまあ、軽音部の女なんて全員アバズレだろ。俺が好きな女の子はピュアな子だし…と負け惜しみのようにぶつぶつ呟いてみる。

情けない声が一人きりの部屋に響いた。


カップ麺を注ぎもうすでに10回ほど観たアニメの再生ボタンを押し、本当に好きで観ているのか現実逃避なのかわからないまま観始める。


カップ麺を1人啜りながら1人が寂しくて泣いているのかアニメに感動して泣いてるのかよくわからない汚い涙を流す。


ふと窓の外から視線を感じ、何気なしに顔を横に向けてみる。


そこには赤髪をハーフツインテールにした女の子がいた。まるでアニメキャラのような容姿の彼女は胸元とお腹が出てるコスプレのような服を見に纏っていた。


一瞬目が合う。緊張が走る。


しかし瞬きをした途端彼女の姿はもうなかった。


まさか、女の子に飢えすぎて…幻覚?


はは、俺ちょっとやばいかも


翌日も俺はいつものルーティンをこなしていた。昨日の幻覚はかなり俺にとって痛かった。もっと魅力的な人間にならねば。いつものように大学に行き、いつものように男友達と食堂で飯を食い、いつものように部活でギターを練習し、そして、いつものように女の子と話せず帰宅した、情けない男である。


アパートの階段を上がり、家の鍵を開けると部屋に灯りがついていた。アニメキャラの声も聞こえてくる。


俺、モニターと電気消し忘れたか?


人間は案外数時間前の無意識の出来事など覚えていないものだ。朝は外の明かりがあるため電気をつけていないような気もするし昨夜電気をつけたまま寝てしまいそのまま気が付かず朝を過ごした気もしてくる。


靴を脱ぎ、忍足で部屋の前まで近づきドアをそっと開けてみる。そこには


昨日見た痴女がいた。


昨日は俺の見間違いかと思った。女の子に飢えすぎてエロゲみたいな女の幻覚を見てしまったんだと思った。しかし目の前には思いっきり痴女みたいな格好をしている。

その痴女は俺のモニターで昨日俺が観ていたアニメを観て瞳を揺らしていたのだ。


痴女は俺がいることに気づいたらしい。目が合う。俺は思わず悲鳴を上げた。


「はじめましてなのです!人間さん!我の名前はメリー・ド・ロレーヌなのです!」


なんだ、電波少女か。よくあるサブカルチャーに影響をうけた痛い厨二病だ。じゃなくて


「なんなんだ!お前は!!」


思わず声を荒げる


「大きな声嫌なのです!我はサキュバス界からやってきたものなのです!」


「嘘つくな痴女!出ていけ!」


「我はチジョ?じゃなくてメリーなのです!」


こいつ、頭がおかしい人間だ…話が通じる相手ではない。冷静になろう。俺は息を吸って


「わかった…メリー。どうやって君がここに入ってきたかは知らないが警察には連絡しないでおこう。だから、出ていってくれないか?」


なるべく落ち着いて優しく言ってみる。話の通じない人間にはこれが1番だ。


「メリー、実は家ないです!事情は言えないけど…なんつって…テヘ」


ふざけてるのかこいつは。こんな時にダジャレいいやがって。やはり話が通じない。おれはスマートフォンをポケットから取り出し、警察に連絡をしようとボタンを押す。


「メリーはあなたのこと好きです!」


俺の手が止まる。例え、目の前の人間が痴女で電波少女でも「好き」その言葉は俺にとってずっと求めていた言葉だ。


人生初めて女の子に告白されたのだ。


もしかしてメンヘラのストーカーか?そんなことをされるような覚えはないが、それでも構わない。変な喋り方をするやつだが顔が可愛い。こんな人生も悪くないかもしれない。ここから俺のリア充生活がスタートするのもなかなかロマンチックで刺激的ではないか。


たった今俺の非日常が始まった

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