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愛情とは、を考える  作者: 七三公正
第一章
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1.ハルト

母は、僕が八歳の時に病気で他界している。

その後、二年間は父と兄の達也と三人で暮らしていた。


兄は、父の最初の結婚相手の子供である。

僕の母が死んだ時、父はただただ悲しんでいたが、

高校三年生だった兄はまだ小学二年生の僕を抱きしめて、ずっと傍にいてくれた。


そして、僕が小学五年生になったばかりの頃のことだった。

突然、母の最初の結婚相手であった男が、僕たちの家を訪ねてきた。

母も、父とは再婚だったのである。


ルーカス・ロックハートと名乗ったその男は、

日本語を流暢に話したが、

背が高く金髪で、その名前の通り外国人の見た目をしていた。


男は、「千春の子供である遙人を引き取りたい。」と言った。

千春というのは母の名前で、遙人は僕の名前だ。


つまり、僕を連れて帰って、

自分の手で育てたいというのが男の用件だった。


父も兄も、男のことをよく知っている様子で話をしていた。

僕も、薄っすらとだが記憶にあった。


男が、かつて家を訪ねてきたことがあったかどうかは分からない。

だけど、生前の母は何度も男と電話で話をしていた。

たぶん、母と買い物に行った帰り道に、男と会ったこともあったと思う。

普段はおっとりして優しい母だったが、

前夫であるルーカス・ロックハートと話している時の母は、

いつも怒っていた。


ルーカスの営業マンのような押しの強さに、

上手く返す言葉が見つからないのか、

どっちつかずの返答をする父に対して、

兄の達也はルーカスの話を一切取り合わず、

昔の母みたいに終始怒りっぱなしだった。


終いには怒鳴り声を上げ、

男の腕を取って強引に家から追い出してしまった。


「二度と来るな!」


そう言うと、達也はバタンと玄関のドアを閉めた。

やれやれ……と言いたげな顔をする男の表情が、

最後にドアの隙間から見えた。

達也は僕を振り返ると、言った。


「もし、あいつが遙人の前に現れても、

絶対に付いて行くんじゃないぞ! 

遙ちゃんと、あいつは親子でもなんでもないんだし、

遙ちゃんはずっとこの家に居ていいんだからな。

俺たちは、血の繋がった家族なんだから。」


達也は、それ以降も心配して、

数日に一回は僕に聞いてきていたが、

男が僕の前に現れることはなかった。

そんなことよりも、我が家ではこの数ヶ月の間に、

別の問題が起こっていた。


父には、母の前に結婚していた女性が二人いる。

その二人の女性との間には、

それぞれ三人ずつ子供がいたのだが、

その子供たち全員の面倒を見なければ

ならなくなりそうな事態になっていた。


達也の母親でもある父の最初の結婚相手、

翔子さんとの離婚の時は、

達也の弟二人はまだ二歳と三歳で幼かったため、

五歳の達也だけ父と一緒に暮らすことになった。


その離婚後、すぐに父は別の女性、香奈さんと結婚した。

その時、すでに香奈さんには二歳になる子供と、

生まれたばかりの赤ん坊がいた。

二人とも、父との間にできた子供らしい。


つまり、翔子さんとの結婚時に、父は浮気をしていて、

その浮気相手との間に、子供まで作っていたということになる。

そのことが発覚したのが、離婚の原因だった。


香奈さんと結婚後、三人目の子供ができたが、

結婚生活は三年も続かず、

一番下の子が二歳の時に、香奈さんは別の男を作って、

子供たち三人を連れて出て行った。

香奈さんの再婚相手は資産家で、

子供たち三人の面倒を見てもいいと言ってくれたらしい。


そこから一年くらいは、父と達也の二人暮らしだったみたいだが、

翌年には母と結婚して、僕が生まれた。

そのため、父と達也の二人暮らしは、

達也が八歳の時の短い期間だけであった。


その後に、父が翔子さんや香奈さんと連絡を

取っていたのかどうかについては、僕は知らない。


しかし、一ヶ月くらい前のことである。

父のところに、香奈さんから連絡が入った。

一体、何があったのかは分からないが、

香奈さんは子供たち三人を預かって欲しいとお願いしてきた。


これまで父は、香奈さんの再婚相手の資産家に気を使っていたのか、

三人の子供たちにはほとんど会っていなかったという。


そうしたこともあり、また急な話だったこともあり、

初め父は渋っていたらしいが、

香奈さんがどうしてもと言うので、

何か事情があるのだろうと思い、

一応「わかった。」と返事をしたようだった。


ところが、それと時を同じくして、

今度は翔子さんから連絡があり――。

子供たち二人の面倒を見てあげて欲しいと、

父は翔子さんから頼まれた。


翔子さんは、これまでシングルマザーで三歳と二歳の子供を、

十八歳、十七歳になるまで育ててきた。

父も多少の養育費は出していたとはいえ、

子育てに協力していたわけではないので、

一人で仕事をしながら子供を育ててきた苦労話をされて強く出られると、

その頼みを断ることもできず、父は了承した。


ただ、急に面倒を見なければならない子供たちが五人も増えるのは、

やはり想像するだけで大変なことだ。

父は、稼ぎが少ないわけではないが、

子育て経験が豊富にあるわけではない。

その数日間は、今にも「困った。」と言い出しそうな顔をしていた。

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