ちがうそうじゃない
妖精は自然が多く、霊力が濃いところでしか生まれることができない。その上、生まれる確率も中々低いので、かなり希少な種族なのである。
ある日、ある森で、一体の妖精が生まれた。
さらにこの妖精はユニーク個体で、自然の力が二つ使える。そんな個体を欲しがる人間は多い。.......捕まれば、残酷な未来が待っているだろう。
だがその未来は起こらなかった。一人の、薬屋を経営している少女がその妖精を保護...いや、助手にしたからだ。もちろん少女は善意で助けたわけではない。ユニーク個体であるその妖精の力が欲しかったからだ。
〜ある森の中〜
私は今とても驚いている。何故なら目の前に、妖精.....それもかなりレアな個体を見つけたからだ。私がその妖精を見てすぐに欲しいと思ったのは、研究でこの妖精は何かを見つける手掛かりになると思ったからだ。
「ねぇ、あなたはだぁれ?」
どうやら私に気づいたらしい。生まれたばかりなのか警戒もせず私に近づき、話しかけてきた。これは好都合だ。
「私はヴィーレ、薬屋を経営している。突然だが、私の助手になってくれないか?」
「え?」
生まれたばかりなら、きっとこの世界のことを何も知らないはずだ。
「恐らく、君は生まれたばかりでこの世界のことを知らない、違うか?」
「う、うん。私以外に話せる人はあなた以外見たことないよ。それにこの森から出たこともないの。」
ビンゴだ、これは良い。
「見つけたのが私でよかったな。他の人間なら捕まえられて、酷い扱いを受けていたぞ。」
「え?」
不安そうな表情をしながらこちらを見る。それもそうだろう。下手したら自分に危険が迫っていたと言われたのだ。それに自分の身を守ってくれる存在もいない。不安になって当然だ。
「そんな何も知らない君に私がこの世界について教えよう。」
私はお母様に教えてもらった"物語"を話した。目の前の妖精は話が進むに連れてぷるぷると震えだし、最終的には泣きそうになっていた。話が終わると妖精は震えた声で話しかけてきた。
「わ、わたしこれから、どうなるの?し、死んじゃうの?」
「最初に言った通り私の助手になって欲しい。少なくとも暴力は振るわないし、ちゃんとした生活をさせることも保証する。」
「ほ、ほんとうに?」
「ほんとうに。」
妖精はしばらく俯いていると、考えが纏まったのか、顔を上げ私の元に近づいてきた。
「なる。あなたの助手に....なる!」
「分かった。ならついて来な。案内する。」
正直素直すぎて逆に心配になったが、私は妖精を連れて自分の店に戻った後、首輪を取り出し妖精につけた。
「!」
「これって、隷属の.....。」
「安心しろ。それはレプリカだ。カモフラージュのために必要だからな。」
「亜人は皆、奴隷という認識が当たり前な世界だ。人間の家に住んでいるお前がそれをつけてないと、私も君も異端者として排除されるからな。」
「そう、なんだ。ありがとう!」
妖精はにっこりと笑いながらそう言った。
「よし、じゃあ改めて自己紹介しよう。私は薬屋兼研究者のヴィーレだ。」
「私はアルセル。火と風の力が使えるよ。」
まさか力が二つも使えるとは、本当にいい拾い物をしたな。
〜研究室〜
なんてこともあったなと水でフラスコや試験管を洗いながらぽつりと呟いた。ついさっき拾い物をしたからか、ふと思い出したのだ。あいつと出会った日を。
「最初は大人しそうな奴だと思ったんだがなぁ」
連れ帰って数日経ったら急に活発になったんだよな。どうしてああなったのやら。まぁ、嫌いではないが。
一方
「まぁそんな感じで正式な奴隷じゃないんだよね。この首輪も自由に外せるし。」
と、言って私は自分の首についているものを外してみせた。犬っこは相当驚いたのか目をまん丸に開いていた。
「......本当にご主人様と仲が良いんだね。」
羨ましそうな目でそう言ってきた。そうだろう!そうだろう!あるじと一番仲が良いのは私だからね!そりゃ羨ましくなるよね!
「多分、傷が治ったら君もレプリカのやつに変えてくれると思うよ。」
「どうしてそこまで......。」
どうやらこの犬っこはかなり自己肯定感が低いみたいだね。なら尚更あたしがサポートしてあげないとね!それに、あのあるじが連れてきたんだしね。
「まぁ、あるじのお眼鏡にかなったんじゃない?それによく人手が欲しいってあるじよく言ってるし。」
「それなら僕じゃなくても他にいるんじゃ。」
「あるじあんなだからここで働きたいって思う人いないんだよ。」
「そ、そうなんだ。」
あ、少し引いてる。失礼な、あるじはすごいんだぞ!
なんでこの人はご主人様に対してこんな物言いができるのか、と少し引いているニールであった。
天然なおなのこってかわいいね。