ESP捜査課2
暇潰しに書いた作品です。読んでいただければ幸いです
「こいつはひでぇ……焼死……それも真っ黒焦げとはな」
今日の事件現場は雑居ビルの闇金融だった。肉が焦げる、鼻の曲がるような臭いが辺りにたちこめており、現場の者達は総じて鼻をつまみながら捜査にあたっていた。
「それにしては周囲の損壊はなし。ただの焼死体とは違いますぜ。こいつは相当器用な発火能力者か……」
「課長、電化製品がまとめてぶっ壊れてますぜ。パソコンの顧客情報とか見れば何かわかると思ったんすが、ウンともスンともいいやしねえ。発電能力者って線もあるんじゃないすか?」
強力な電気が発生すれば共に発生する電磁波によって電化製品は故障する。雷が落ちたときにパソコンが壊れる現象などと原理は同じだ。
「どっちにしろ、こいつはただの一課の担当じゃなさそうですぜ」
「あいつらの出番……か」
現場指揮を担当していた課長は携帯電話を耳に当てると通話を始める。
「こちら西村雑居ビル殺人事件現場の青山だ。ESP捜査課を頼む」
『ESP捜査課2』
「まったく仕事がキツイ割にちょっと情報とか少ないんじゃないですか?」
呉トキコはグチグチと文句を言いながら、西村雑居ビルの闇金融事務所を訪れていた。
「ま、俺らはそういう事件を担当するために生まれた課ですから」
加藤テツヒロはテープをまたぎながらそれに答える。
日野タカシは現場に残された焼けたタイルを調べながら結論を出す。
「こいつは俺と同業じゃないな。発火能力者ならこんなに上手く焼けねえ。それにほぼ同時刻にこの辺で停電があったことを考える発電能力者の仕業と見て間違えないっすね」
タカシは値踏みするように顎髭をなぞりながら答える。
「問題はこの能力者のレベルです。人を消し炭にするするほどの電流を生み出せるとなると、相当の使い手のはずです」
「あーあ、課長が時間逆行とか出来たら楽勝で犯人とかわかるんすけどね」
「レベル五にも限界はあります。あくまで私の能力は時間圧縮。時間を自在に操る能力ではありません」
「あーあー、可愛い予言者の子とか来ねーかな。っていうか三人じゃ無理ありすぎっすよ」
ぽん、と思い出したかのようにトキコが手を叩く。
「ええ、そういえばそんな話がありましたね。予言者のESP能力者をうちに一人よこしてくれるとかって話でしたっけ」
それを聞いてタカシは鼻息を荒くして食いつく。
「え、マジっすか!? うひょー、どんな子が来るんだろう!」
「まだ女と決まったわけではあるまい」
テツヒロは冷静にタバコをくわえてタカシの方に向き直る。
「火」
「ッ! だから俺はマッチじゃねえええぇぇぇ!」
「あ、あ、あの! 予言者の柊カエデと申します! 以前は一課で前線に出てました! その、よろしくお願いします!」
長い栗毛の少女が頭を下げる。彼女のための席はすでに用意されている。タカシは彼女のために椅子を引いてやり、席へと誘導する。
「どんなことができるのですか? レベルは? 実戦経験は?」
トキコは相変わらず課長席にふんぞり返ったまま彼女に尋ねる。
カエデはどぎまぎしながら遠慮しがちに答える。
「えっと……レベルは二で……」
「二ぃ?」
トキコは意外を通り越して、驚きの表情でそう尋ねかえす。
「あんの犬めぇ……確かに人材をよこせとは言いましたが、そんな低レベルをよこすなんて! 何時間後の未来を予測できるんです!? 一課と言ってましたが仕事は!?」
「えっと……三秒後までだったらほぼ確実に予測できます」
「三秒!? たったの三秒!? これでは事件を未然に防ぐことすらできないではないですか。なんたる無能!」
トキコは机に思い切りかかと落としを決める。置いてあった空のコーヒーカップが音を立てて倒れた。
「あ、でも! 実戦では結構使えるんです!武道の心得も少しはありますし!」
「へぇ……じゃあ少し試してみましょうか」
――瞬間、時間が停止する。
カエデの周囲をボールペンやシャーペンが取り囲むように飛来する。彼女なりの配慮のつもりだった。
――そして時は動き出す。
空中で停止していた文房具は一斉に彼女の方へと襲いかかる。
「はっ!」
だが、次の瞬間彼女の姿はそこにはなかった。
それどころか、時を止めたトキコが移動する先を予測して一歩踏み出し、彼女の手をひねり上げる。
「いたたたた! ッつぅ……少しはやるようですね」
――再び時が止まる。
トキコは難なく彼女の拘束から逃れ、先ほどとは違い、圧倒的密度をもってペンを配置する。
寸分の隙間もなく、絶対回避不可能なレベルの濃密さ。
今度こそは絶対に回避することはできないだろう。そう彼女は思って指を鳴らした。
――そして時は動き出す。
「ッ!」
その展開を予想していたのか、彼女の手にはすでに分厚いファイルが手にあった。それを盾にするように一回転し、全てのペンを弾き落とす。
「へえ、なかなかやりますね」
トキコは満足そうな笑みを浮かべると腕を組んでカエデの元へと歩み寄る。
「まあ合格、といったところでしょうね」
「やったぁ! ありがとうございます!」
カエデはぺこりと頭を下げる。
「ま、そういうわけで俺にはいつでも頼っていいぜ」
「ほどほどに期待している。せいぜい頑張ってくれ」
タカシとテツヒロも激励の言葉をかける。彼女は笑って満足そうに頷いた。
「で、問題は闇金融事件ですね」
テツヒロはパソコン二台を同時に扱いながら警視庁に収められたデータを検索する。
「ESPデータベースに引っ掛かった発電能力者は十二名。そのうち東京に在住する発電能力者はレベル三の高井カナタと、レベル五の三坂ミコトの二名です。ただし三坂にはアリバイがあります」
テツヒロはパソコンからようやく視線をあげてトキコに報告する。
「と、なると高井が怪しいことになりますね」
「データベースによると、多額の借金を抱えていたようです。闇金融で金を借りて返せなくなったところで殺害した、って線が怪しそうですね」
「今高井はどうしているんですか?」
「以前は工場勤務をしていたようですが、会社の金の横領がバレて退職、その後は無職のようです」
「ますます怪しいじゃないですか。で、高井の現住所は?」
「ひ、ひひひ、これだけ金があれば……」
高井カナタ万札の束が詰められたスーツケースに頬刷りしながら空港に向かっていた。
まだ期限の切れていないパスポートが彼の手元にはあった。これを使えば海外逃亡するという選択肢もある。
「あとは捕まりさえしなければ……ッ」
「おっと、そういうわけにはいかないんだな」
高井の乗っていた乗用車の後部座席にテツヒロが飛ぶ。
「な、貴様は……!?」
「こういうもんでね。殺人、及び強盗の容疑で逮捕状が出てる」
テツヒロはぴらぴらと逮捕状と警察手帳をちらつかせる。
「クソッ!」
高井は無理やりスピンをかけながら車を急停止させると手を掲げる。
「貴様も消し炭にしてやる……!」
高井の手に光が集まる。それは徐々に電圧を上げていき、より輝きを増していく。
「そうは問屋が下し大根すっすよ!」
車のフロントが爆発を起こして炎上する。
それに気を取られて高井はばっと振り返る。だが、その一瞬が命取りだった。
テツヒロは手にはめたゴム手袋越しに高井の手を掴む。
「ッ!」
しかし、今度は反対側の手から電撃を放つ。テツヒロは舌打ちを打って車の外にテレポートする。そこを電撃が通り抜ける。
「あなたは完全に包囲されています。おとなしく投降するならそれもよし、戦うというのなら容赦はしませんが、どうしますか」
トキコは拡声機を使って呼び掛ける。
だが、その答えだとばかりに電撃が噴き出す。
「そう、あくまでも戦いを選ぶというのですね」
トキコは拡声機を下すと、びしりと指を突き出す。
「新入り、あなたの実力、見せてもらいましょう。あの高井を捕えなさい」
「わ、わかりました!」
カエデは一人飛び出す。そして車から出てきた高井を見据える。
「い、いきます!」
高井は両手を掲げ、電撃を放つ。
だが、三秒後を読める彼女には電撃の通る道筋が見える。
ならば、電撃の通らない位置を走りぬければよいだけのこと。
カエデは身を屈んで電撃をやり過ごすと、足を払った後に腕を後ろに組ませる。
「いつつつつッ!」
そして、後ろ手に手錠をかける。見事な手腕だった。
「クソったれ! こんなところで終われるか!」
高井は全身から電撃を放つ。手を封じられているためか、方向を定めるなどという器用な真似ではない。あと一歩、というところでカエデは身を引いた。
「こっからは俺の仕事っすよ」
タカシの手に炎が集まる。それは圧倒的熱量を伴って凝縮されていく。
「そらよっと!」
ゆらゆらと揺れながら浮遊する火の玉は高井の目前で大爆発を起こす。
「容疑者のレアステーキの出来上がりっす」
高井は爆風に煽られてしたたか背を壁に打ちつける。そしてその場で崩れ落ちる。
「任務完了っす」
「ESP捜査課って結構暇なんですね……」
カエデは少し遠慮しがちにお茶をすすりながら、一心不乱にパソコンに向かうテツヒロに話し掛ける。
「主な仕事はESP能力者の管理、及びESPを使用した犯罪の処理だからな。そう頻繁に起きるものでもない」
かたかたとパソコンに何かを入力しながらテツヒロが答える。
「よーぉカエデちゃーん! 一緒にお茶でもいかがー! つってもインスタントコーヒーとティーパックのお茶しかないっすけど」
「あ、私は自分の分があるので遠慮しておきます……」
ちょっと残念そうにタカシは着席する。
「女を口説く余裕があるなら手伝え。ESP能力者は徐々に増えつつある。情報の整理、レベルの分別、その他雑務でこっちは手一杯なんだが」
「そーいうの、テツヒロの仕事っしょ。俺はどうせマッチだから」
タカシはタバコをふかしながらふーっと紫煙を振りまく。
「課長はどのタバコがいいっすか?」
「私は未成年です。必要ありません」
「そう堅いこと言わないで、ほれほれ一本どうすか?」
次の瞬間、ナイフが彼の額の手前に現れる。
「おっと!」
タカシは間一髪でそれを回避する。時間を止めて投擲されたナイフは深々と後ろの壁に突き刺さる。
「かーちょー、もっと優しく穏やかにしないとモテないっすよ」
「結構です」
今度は二方向から同時にナイフが飛来する。タカシは難なくそれを分厚いファイルで受け止める。
「あーあー、また備品に傷付けちゃって。ただでさえ予算少ないんだから勘弁してほしいっす」
「素直にお前が受けていれば備品は傷付かなかったんだがな」
「あはは、課長冗談キツイっす」
今日もESP捜査課には笑いが耐えない。といっても、それは主に一人の笑い声であるが。
カエデは思っていた。こんなに楽しそうな部署ならばきっとやっていけると。
今日もESP捜査課は平和だった。
もしかすると続きます




