不未助、異世界転生する事実を知らされる
神国アヴァロンの国王である神様が普通に宗教を信じている人たちに聞かせられないような残酷なことを言っていたような気がしたが、私の記憶には全く残っていない。
私の記憶に一切残っていないということは、先ほど私の耳に入ってきた神様の宗教を信じている人たちに聞かせられないような問題発言はきっと空耳であり、彼はそんなこと言っていないだろう。
うん、そうに違いない。
『まあ、自己紹介に、軽い神の世界についての解説が終わったところで、ここからが本題だ。俺がお前のことをこの世界に連れてきたのはただ雑談をするためではない。お前に一つ頼まれて欲しいことがあってここに連れてきたんだ』
私が先ほど聞いた神様の問題発言をなんとか頭の中で無かったことにしようとしていると、神様が改まった態度で私をこの世界に連れてきた理由は何か私に頼みたい用件があるためだと教えてくれた。
私に頼みたいことか......
神様が一体私に何を頼みたいのか全く予想もつかないな......
わざわざ私のことを簡易的に新たな世界を作り出してこの世に留めさせるくらいのことだから、私にしか出来ない何か重要なことを頼むのだろうとは予想できるが、その内容が全く予想できない。
私も神様直々にお願いしてくれているので、彼からの頼みはなるべく聞きたいとは思っているのだが、そんな重要な頼みをこの無能な私がこなせるとは到底思えない。
そんなふうに私がネガティブ思考に陥っていることを全く気にせず、神様は話を続けた。
『俺からの頼みっていうのは異世界に転生し、転生した先の世界を俺の代わりに救ってもらうことだ』
私のことなど全く気にしていない神様は私への頼みごととは私が元いた世界とは違う世界である異世界に転生し、その転生した先の世界を神様の代わりに救うことだった。
マジか。
異世界があることにも驚いたが、異世界転生というものが実在していたことの方が驚いた。
最近世界中でブームとなっている異世界転生ものなる創作があるという話を聞き、その創作のことを調べてみると、我が国JAPANが中心に世界中に広まったということだったので、私も人気作品をあらかた読んでみたが、あれは面白かった。
異世界転生する際に神様からチートなるオーバーパワーの能力を得ることで、転生先の世界で無双するものから、あまり強くない能力を工夫をきかすことで戦っていったりするものまで、同じ異世界転生ものの中でも様々なジャンルに分かれていて大いに楽しめた。
あれは世界中で流行るのも納得だ。
まさか、65歳にもなって若者たちの間で流行っている異世界転生ものにハマるとは思ってもいなかったな。
それにしても私が現在置かれている状況は完全に今まで読んできた異世界転生ものの作品の主人公たちが一番最初に置かれていた状況とほぼ同じではないか。
これが異世界転生ものの主人公たちたちがあまり自分の状況に驚いたりしていない理由が分からなかったが、実際に自分が体験してみると、彼らの反応が薄かった理由がよく分かった。
彼らは私と同じ気持ちであるとするならば、自分が置かれている状況があまりにも非現実すぎる状況に理解が追いつかず、現在の状況を理解するのに必死になってしまい、驚くことを忘れてしまっているのだろう。
まあ、私は現在自分が置かれている状況を理解しているので、驚きすぎるあまり一瞬声が漏れそうになってしまったがな。
異世界転生だけでも驚くような状況なのに、ここに神様の代わりに転生先の世界を救うという使命までついてきた。
転生先の世界を救うか......
判断ミスでJAPANを崩壊させた私に世界を救うなんてことできるのだろうか......
一度自分の判断ミスで国を滅ぼした私が本当に世界を救えるのかと心配していると、神様が心配する私に色々と教えてくれた。
『そんなに心配しなくても大丈夫だ。お前には異世界転生特典と俺直々の頼みという点、そして、お前が異世界で対峙する敵である魔王率いる魔王軍の強さの観点から普通では考えられないほどの祝福と加護が付与される予定だ。もちろん、身体能力などの基礎スペックも破格のものになるだろう。いわゆるチート能力というやつだ』
神様によると、私は異世界転生による特典に神の国で最も栄えている国である神国アヴァロンの国王である神様からの直々の頼みであることに加え、私が異世界で対峙するであろう敵、魔王軍の強さを考慮し、異世界転生ものの主人公たちのようにチート能力を授けられるようだ。
それなら少しは安心できるかもしれないな......
そうして、先ほどまで不安で胸が押しつぶされそうになっていた私が世界を救うそれ相応の力が授けられることを知り、少し自信が出てきた時に真剣な声色で神様が再び話しかけてきた。
『チート能力が授けられるからと言って調子に乗るようなことはするなよ?相手はお前にチート能力を授けなければ勝てないほどの強さを持っている。正直お前に授ける予定の能力では少々物足りなさも感じるほどだ。それに、魔王軍についてるであろう神については俺でも完全に把握できていないし、どれほどの力を持っているのか未知数なところがある。もしかしたら、俺たちのように異世界から勇者を送り込まれている可能性もある。だから、転生したら絶対に妥協せずに能力を鍛え続けろ。様々な武術を学び、全ての魔術を熟知し、たくさんの戦闘経験を積み、基礎鍛錬も怠らずに毎日続けろ。そうでもしないと、魔王軍には勝てないぞ』
どうやら、現実は創作物の世界のように都合の良い世界ではないようだ。
なんだか、胃が痛くなってきた。