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9話 逃亡開始

「ん……起きた?」


 ………………眠い。

 身体がまだ起きるなって言ってる。

 ボクは1度目を開けてからもう一度閉じた。


「ぐぅ」

「私じゃないんだから2度寝しないでよぉ」

「あと5分……」

「もう」

 

 その声の主は呆れたように嘆息して、


「ホブゴブリンが来ちゃうよ」

「…………はっ!?」


 ボクは電源を入れたように飛び起きた。


 そ、そうだ!

 ボクたち追われてるんだった。


「やっと起きた」

 

 相変わらず無表情なエルフがそう言った。

 まだ追っ手に追いつかれてはいないみたいだケド。


「ここは? ボクはどれくらい寝てた?」

「森の洞窟。1時間も経ってないから安心して」


 ほっ。

 ちょっぴり安心した。


「それに洞窟を崩落させたから暫くは安全だと思う」

「ナイス判断。助かるよ」

「えへへ」


 エルフが口角だけを上げてはにかむ。

 か、カワイイー! 金を払わせてくれ頼む!


「良かった。起きたんだね」


 と、三本角君が洞窟の外から帰ってきた。

 チッ……良いところだったのに邪魔しやがってよ。


「お、怒ってる……?」

「ボクは普段からこんなんだぞ」


 ならいいけど……と三本角君は腰を下ろした。

 どうやら偵察や食料の調達に行っていたらしい。

 ごめんね。


 それからボクたちは自己紹介することにした。

 これからどうするか考える前に互いを知るべきだ。

 ふと、


「その……2人には名前は無いの?」


 エルフの言葉にボクと三本角君は口を噤む。


 ゴブリンには名付けの習慣は無かった。

 ボクは未だにゴブリンだし三本角君は三本角君。

 言われてみれば、不便極まりないな。


「ちなみに私はカンナギ。そう呼んで欲しい」

「了解。ま、仮名だから適当に付けちゃおう。三本角君は……そうだな……アトラス君でいっか」


 アトラスオオカブトから取りました。


「す、すごく良い名前だね! ありがとう!」


 三本角君もといアトラス君は感涙しそうな勢いだ。

 ……由来は墓まで持っていくとしよう。


「なら君の名前は……太陽! 太陽でどうかな」

「た、太陽ぅ? 流石に恥ずかしいから却下で!」

「そっか……似合うと思ったんだけどな」


 アトラス君はボクを何だと思ってるんだ。


「じゃあ、ソリスはどう?

 私たちの言葉で太陽を表すのだけど」


 と、カンナギが提案してきた。

 パッと名案だとばかりに顔を明るくさせて、


「そ、それイイね! ソリスでどうかな!?」


 あ、圧が凄い。

 どんだけボクを太陽にしたいんだよお……。


「ま、まあそれなら……」


 ボクは渋々頷くのだった。


 という感じで名前付けは終了した。

 ボクがソリスで、三本角君がアトラスだ。

 ボクは努めて真面目な表情で2人の前に座る。


「んじゃ、自己紹介も終わったことだし。

 そろそろこれからの事を考えるとしようか」


 ボクの言葉に2人は軽く頷きを返した。


「現状、ボクたちは逃亡犯だ。

 エルフを盗んだ大罪人として扱われている」


 まあ、それは覚悟していたことだ。

 アトラス君も大した反応を見せることは無い。


「カンナギが洞窟の出入り口を崩落させてくれたお陰で追っ手はすぐには来ない。

 けど、悠長に構えている暇もないんだ」


 この世界には魔法がある。

 前世での基準はあまり当てにならないだろう。

 まあ、


「カンナギが戦ってくれるなら話は別だケド……」


 あの魔法は素人目で見ても異常な威力だった。

 ホブゴブリンが何体来たって倒せそう。


「ごめんね。

 あの魔法で魔法力が無くなっちゃったの」


 と、カンナギは眉を下げてそう言った。

 魔法力………MPか!

 あの威力だったら大量のMP消費にも頷ける。


「あ、謝らないでよ。

 魔法があったからボクたち助かったんだ」


 むしろボクらが御礼を言うべき側なのだ。

 だから、御礼を……とういうわけではないが、


「まずは、カンナギを元居た場所に送り届けよう」

「……え?」


 疑問の声を上げたのはカンナギだった。


「ど、どうして?」

「ホブゴブリンに追い付かれたら勝ち目ないから」

「そうじゃなくて」


 んん?

 ボクはアトラス君と顔を見合わせる。

 アトラス君もイマイチ分かっていなかった。


「私を、見捨てないの?」


 カンナギは無表情のままそう言った。

 心なしか口調が弱々しくなっている気がする。


「えーと……ボクたち別れた方がいいのなら」


 もしかして、余計なお世話だったかな?

 確かに独りで帰った方が安全なのかもしれん。


「ち、違う」


 違うみたいだ。

 じゃあ、どういうことだろ。


「んー……ごめん。理由が分からないや」

「だって、ホブゴブリンに追われる理由は私。

 私を見捨ててしまえば安全が手に入るのに……」


 と、カンナギは俯いてしまった。


 あー……そういうことか。

 そりゃあ、ゴブリンなんて信用ならないよね。


 でも、


「ゴブリンが何言ってんのって感じだけどさ。

 一度助けた相手を都合が悪くなったからポイなんて、そんな合理的なことしたくないんだ。

 ボクって、結構ワガママなんだよね」


 ボクはできるだけカンナギの眼を見て言った。


「くすっ」


 コラ!笑うなアトラスオオカブト!


「……そっちのアトラス君は?」

「ぼ、僕? 

 僕はソリスの力になりたいだけだから……。

 彼女が決めたことに対しての異論は無いかな」


 アトラス君はそう言って頭を振った。


「……………」


 カンナギは暫く黙っていた。

 やがて、


「ごめん。君らのこと疑ってたみたい」


 彼女は、そう言った。


「だらしのないエルフだけど。

 君らの仲間に入れてもらってもいいかな」

「もちろん! 頭なんか下げる必要ナシだよ!」


 あ、でもつむじもカワイイ……。


「ありがとう。

 それで2人に提案したいことがあるんだ」


 顔を上げてカンナギが口を開く。


「「提案?」」

「私の住むエルフの里に2人も匿ってもらおう」


 そ、そんなことできるのかな。

 確かに、できたらそれが一番な選択だ。


「私は君らに生きていて欲しい。

 君らが私を助けてくれたのと同じ気持ち」

「そら願っても無い話だケド……大丈夫なの?」


 エルフは排他的なイメージがある。

 所詮は物語とかゲームの知識だけれどね。


「私が説得する。多分、平気だと思う」

「んー……まあ、そう言ってくれるなら。

 アトラス君はエルフの里に行く方針でいい?」


 うん、とアトラス君は同意してくれた。


「あと、もうひとつ」

「まだあるんかい」


 急にカンナギも話すようになった!

 少しは心を許してくれたってことかな。


「3人で生きて里に行こう。

 他を助けるために犠牲になるとかは禁止」


 ……時と場合によるなあ。


「分かった」


 ま、表ではこう言っておこう。

 いざとなったら言い訳すれば、ヨシ!


 と、


「……ソリス。嘘は駄目だよ」


 カンナギが半眼でそう言った。


「へ!?」


 な、なぜバレた!?


「う、嘘なんて付いてないケド!?」

「言ってなかったけど、私は【真偽鑑定】のスキルを持ってる。私に嘘は通用しないと思ってね」


 はあ!?

 なんだよそのズルいスキル!

 ボクなんて1つもスキル持ってないんだからな!


「アトラスは?」

「う、うん。約束は守るよ」

「嘘つき」


 アトラス!貴様もか!

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