5話 ご褒美
あれから一週間が経過した。
ボクは未だに帳簿をつける仕事をしていた。
先輩からのいびりにも慣れたもんで、最近は華麗に回避しまくっている。
そのせいで先輩からのヘイトが溜まってきてるケド。
まっ大丈夫だろう……多分な!
そんなある日。
一匹の兵士ゴブリンが訪ねてきた。
「どうされましたか?」
「最近、帳簿班の成果がめざましいじゃないか。
それで褒美を授与するという話が挙がっていてな」
褒美!?
その単語を聞いた途端、
「はーい! それ私たちの成果です!」
「やっと頑張りが認められたっていうかー」
速攻で兵士に擦り寄っていく先輩たち。
こ、こいつらあ……!
プライドは無いのかよ!
「おお、お前たちが例のゴブリンか?」
例の?と、この場にいる全員が首を傾げた。
「特殊な計算方法が帳簿に乗っていた。
ゴブリンメイジによると数……げき?だったか、なる知識を使っているそうだ」
「あー、それもアタシたちです!」
「二人で必死に考えたんですよねー。
んで、残りの二人にやり方を教えました」
おうおう、面の皮が厚すぎるだろ。
「……そうなのか?」
と、兵士ゴブリンにボクは訊ねられて、
「………」「………」
………先輩にくっそ睨まれた。
真実を話したらボコすからな、の眼である。
……フンだ。
そんなの知るもんか!
お前らに譲歩してやる慈悲はボクにはなーい!
「あの」
口を開いたのはボクじゃなかった。
「彼女らは何もやってません。
この子が全ての帳簿を片付けていました」
隈だらけのゴブリンさん!
「はあ!? 何言ってんの!?」
「嘘つくのは良くないと思いまーす」
先輩ゴブリンが抗議の言葉を騒ぎ立てた。
「兵士さん! 本当のこと言ってるのは、アタシたちの方ですからね!」
「そうそう。そこんとこ間違えないように!」
うーん……逆に見習いくらいの鋼メンタル。
「別にどちらが真実でも構わないが……。
このままでは言い争いが起きるだけだろう」
兵士ゴブリンは面倒そうに息をついて、
「実際に帳簿を付けてるところを見せてくれ。
帳簿班の成果が飛躍的に上がったことは事実。
言ってることが本当なら、見れば分かるはずだ」
げ、と先輩ゴブリンたちの表情が歪みまくった。
「どうした? できないのか?」
「……い、いえ! もちろんできますから!」
「そ、そうそう。そんなの楽勝に決まってる!」
兵士ゴブリンはボクの方に視線を寄越す。
「お前もそれでいいか?」
モチのロン!
「大丈夫です!」
突如始まった帳簿づけレース。
勝った方は、正直者の称号とご褒美が貰える。
その結果は……。
「まあ、何となく想像はついていたさ」
兵士ゴブリンが苦笑交じりに呟く。
その隣で、先輩ゴブリンたちは項垂れていた。
「な、なんなのよ……クソッ」
「速すぎるだろ……意味分かんない」
ふはは! ボクの大勝利だあ!
帳簿づけレースは圧倒的大差でボクの勝利だった。
元々、そこまで早くなかったが、最近はボクに押し付けてばかりだったので余計だったっぽい。
「コイツが帳簿班に加入してから、成果が跳ね上がったことを我々は確認している。逆にどうしてお前たちが褒美を貰えると思っていたんだ……」
え。
えぇぇぇ?
最初から分かってたんかい。
なら結局、レースは茶番じゃないか!
「手間を取らせて悪かったな。
こういう輩には口で言っても聞かないんだ。
なぜ褒美が貰えるのか明確にした方が手っ取り早い」
そう言って兵士ゴブリンはボクに謝ってきた。
「理解はしましたケド、褒美はどうなるんですか」
「褒美を与えるのはお前だけだ。内容としては、経験の儀式と現物支給があるくらいだな」
経験の儀式ってなんだよ。
褒美だから悪いことではないはずだケド……。
……ま、不貞腐れても意味ないか。
最終的に、結果が変わることは無かったんだしね。
「あ、そうだ」
ふと、
「他の人にも褒美って分けられますか?」
ボクは隈だらけの先輩を横目で見ながら訊ねた。
今回の流れを作ったのは彼女である。
良い事をした人には相応の報酬がいると思うんだ。
「お前がいいなら構わない。経験の儀式は無理だが、現物の方なら大丈夫だ」
「じゃあ半分は彼女に渡してください」
すると彼女は眉を顰めてから、
「ちょ、ちょっと勝手に………いえ………ありがとう」
何かを思い、微笑をたたえてそう言った。
ありがた迷惑なんて知るかぁ!
ボクは意外とワガママなヤツなんだよ!