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4話 エルフ

 ゴブリン文字を覚えてから数日。

 ボクは順調に帳簿付の仕事を進めていた。

 ただ、順調なのは帳簿の仕事だけで……人間関係の方は寧ろ悪化しているような気がした。


「アンタ、これもやりなさい」

「これって先輩の分じゃないですかあ」

「文字教えてやったでしょ。恩義は無いの?」


 ぐぬう……。


「ほら、さっさとやる」

「アンタの成長の為だから頑張ってね〜」


 そう言って二人はどさどさとボクのテーブルの上に、自分たちの分の帳簿を投げ捨てた。


 甘い話には裏があるってことかい……。

 彼女たちがボクに文字を教えたのは、言うことを聞く奴隷を作りたかったからみたいだ。


 そうなると、初日に無視をしていた訳も分かる。

 文字の分からない新人に一日悩ませることで、より深く恩義を感じさせるためだろう。

 

 彼女たちも同じ目にあったんだろうけどさあ。

 同じことを繰り返してどうするだよ!

 ふぁっきゅー!


「そうだ。帳簿、私の分提出して来てよ」

「さっき行ってきたばっかなんですケド……」

「もう1回行ってきな。若いんだから平気でしょ」


 うがぁぁぁ! ムカつく!

 ……でも、反抗する訳にもいかない……。

 流石に、現段階で居場所を無くすのは浅慮だ。


「……じゃあ、行ってきます」


 ボクは帳簿を持って部屋を出た。



 ゴブリンの住処は洞窟の中にある。

 巨大な蟻の巣みたいな構造をしているみたいだ。


 最初は迷ってたけど、今は慣れて楽勝だね!

 さっきも簡単に目的地に行けたもん〜。

 ……なんて、調子ぶっこいてたら、


「迷っちゃったぁぁ……!」


 ココ、ドコ!?


「お、落ち着けボク。大丈夫だ」


 ……よし。

 まずは周囲の確認からだな。

 何か目印になるものは……と探している最中に、


「……牢屋?」


 木材で作られた簡素な牢屋を見付けた。

 扉の部分には、南京錠で鍵が掛けられている。


「なんで牢屋……?」


 犯罪を犯したゴブリンをぶち込むのかな。

 それとも凶暴な魔物を閉じ込めておいたり……!?


 と、少し興味が湧いてボクは牢屋を覗き込んだ。

 そして、


「…………!」


 ボクはそこに()()を見た。


 厳密に言うと、ボクは精霊を見たことがないので、あくまで例えということになる。

 けど、その儚げな女性は、見るもの全ての視線を釘付けにするほどの美貌を備えていた。

 白銀の髪に神が創った精巧な人形の如き顔立ち。


「お、おかしいな……」


 醜悪なゴブリンばかり見ているからかな。

 女であるはずのボクも何だかドキドキしてきた。


「おい! そこのお前何をしてる!」


 びくーん!


「ひっ! 何もしてません!」

「怪しいヤツだな……」

「違います!」


 彼は牢屋をお守りをするゴブリンだった。

 帳簿を見せて迷子になっていることを話したら、道を案内してくれるとのこと。

 良いゴブリンも中にはいるものだね!


 折角なのでボクは牢屋の女性について聞いてみた。


「牢屋の女の子って誰なんですか?」

「アイツは狩猟部門のヤツらが誘拐してきた、エルフの少女だよ。王様に献上する用のな」


 エルフ!森の美男美女!

 通りでアレだけ目を引くわけだ。


 ……ケド、献上って。あんなことやそんなことを、あの女の子がゴブリンの王様にされるのか。

 うげぇぇぇ……ちょっと想像しちゃって吐き気が。


 ……第三者のボクでさえこんな有様だ。

 張本人である彼女は、どんな思いをしてるのだろう。

 うー、モヤッとする。



「ただいま戻りましたー」

「遅くなーい? もしてかしてサボってた?」


 と、開口一番そんな嫌味を言われてしまった。


「いやー、道に迷っちゃって」

「アハハ、バッカじゃないの?」

「2回目は間違うってどんだけ馬鹿なの?」


 2人の先輩ゴブリンが口元を歪めて爆笑する。

 シンプルにうぜぇ。


「……ねぇ、大丈夫なの?」


 と、隈だらけの先輩が声を掛けてきた。

 他人の分までやっていて、自分のノルマが終わるのか、という言葉が言外に含まれている。


「平気ですよ。安心してください」


 ボクは自分の成果表を彼女に渡した。

 完成した帳簿と引き換えに貰える証明書だ。


「成果表を見せても……え……!?」


 彼女はわなわなと成果表を持つ手を震わせて、


「も、もうノルマが終わってるの?」


 ボクはこくりと頷いた。


 ゴブリンは算数を知らないのだ。

 計算のときも指を使って数えているしね。

 そんな環境に前世で学んだヤツが飛び込んで来たら、他の人の数倍早く仕事を終えられるのは当然。


「凄いのね……アナタ。少し見直したわ」


 ふふん、元人間の力恐れ入ったか!

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