2話 転生
ボクが好きなゲームに、ゴブリンって敵がいる。
ゴブリンは緑色の体色をした人型で、妖精と悪魔が混ざり合ったような醜悪な見目をしている。
ゴブリンは基本的に、プレイヤーにゲームを覚えてもらうための能力値しか設定されていない。
つまり、ザコ敵だ。
そんなザコ敵にボクが生まれ変わってしまったなんて信じられ無いどころかまだ夢オチの可能性を感じて後輩くんの目覚めのキスを待っt
「うるさいぞ! そこのゴブリン!」
「ふあい……」
……ゴブリンの監督に怒られてしまった。
「だ、大丈夫……?」
隣で作業していた三本角君が心配してくれる。
ゴブリンは基本的に角が生えてないんだけど、何でか彼には三本の角が生えてるから三本角君。
「へーきへーき」
「む、無理はしないようにね……?」
「うむ。心配してくれてありがとね!」
彼は三本角が生えてるからと虐められていた。
そこを助けたら、懐かれてしまったのだ。
三本角はイケメンだから、悪い気はしないね!
……でも……それはあくまでゴブリン基準。
そもそもなんでボクがゴブリンに転生するんだよ!
そりゃあ、最初はゴブリンに転生したことに気付いてテンション上がってたよ?
ちょっと人間には飽き飽きしてたからね。
それに、ステータスもあったからな!
自分のHPとかレベルとか見られるやつだ。
ゲーム好きなボクには、馴染みのあるものだった。
ただ……ゴブリン貧弱過ぎるだろ!
なんとHPが6しかない。
単純計算で6回敵に殴られたらボクは死ぬんだ。
ふざけるなよ!
ザコ敵にもっと優しくしろよお!
……はぁはぁはぁ……疲れた。
そんなわけでボクは、ゴブリンの社会から逃げ出すこともできず、奴隷同然の仕事をやらされてるわけさ。
意外とゴブリンも組織的に動いていて、今のボクの管轄は他のゴブリンが着る洋服の作製。
他にも食事部門だったり武器部門があったりする。
部門の中でのトップオブザトップは狩猟部門だ。
皆の生命線だもんね。ボクも食わせてもらってる。
ケド、ゴブリンの狩猟とか大したことできなくない?
精々、兎とか鳥とか木の実だけっしょ!
なんて思っていたボクもいました。
なんでも、ボブゴブリンなるゴブリンの進化個体が徒党をなして狩りに出向くらしい。
時には馬鹿でかい怪鳥みたいな魔物を仕留めていた。
それを聞いたときボクも進化したい!と思った。
でも、進化するには魔物を倒さなきゃいけない。
魔物と対峙したとき、ボクは6回殴られたら死ぬぅ。
haha、八方塞がりってやつかい。
「おい」
と、監督ゴブリンに呼ばれた。
「な、なんですか?」
「お前の勤務態度が悪いと通報がきた」
なん……だと……。
ボクはこんなにも真面目にやってるのに!
どこのどいつだコノヤロー!
「……ざまぁみろ」
「正義のヒーロー気取ってるからだ」
……あいつら、三本角君を虐めてたヤツだ。
三本角君を助けた腹いせにってことかな……醜いのは顔だけにしろ!
と、
「実は俺もお前の勤務態度が気になっていた」
「ええ!?」
か、監督もかよ!?
「多分、お前は頭を使えるやつだ。洋服を作る仕事では無く、頭を使う仕事の方が向いている」
か、監督ゥ!
「なっ!」
「あ、アイツ……!」
三本角君を虐めて、ボクを通報しやがったゴブリンたちがあんぐりと口を開いている。
ふふん、元人間サマを舐めるよな!
「お前さえ良ければ明日から移動できるがどうする」
「待遇は変わりますか?」
「もちろん。今の給料の三倍は貰えるだろうな」
「行きます!」
ボクは全力で即答した。
お金イコール正義なのはゴブリンでも変わらん!
「え……い、行っちゃうの?」
あ。
三本角君のこと忘れてた。
「監督、彼も一緒に連れて行けませんか」
「ううむ……そうだな。お前の働きしだいだな」
つまり成果を挙げれば一緒に居られるってことだ。
何をさせられるかは分からんケド。
ボクは三本角に向き合って、
「直ぐに迎えに行くから、待てる?」
「う、うん……! ありがとう頑張って!」
目筋に涙を浮かべて三本角君はこくこくと頷いた。