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13話 ホブゴブリン

 「嘘でしょ……」


 次の日、ボクたちは魔物の死体を発見した。

 その魔物とは、ボクたちがこの前勝てないからと避けていた蛇の魔物だった。


 蛇の魔物は粗悪な武器で外皮を削り取られ、頭を潰された状態で死んでいた。

 集団で武器を持った魔物が殺したと思われる。

 そんなのは、一匹しか思い当たらない。


 ホブゴブリンだ。

 追手がすぐ傍まで来ていることを意味していた。


 もしかしたら人間という可能性も捨てきれないが、楽観的過ぎるだろう。

 それに、確認すれば分かることだ。


 というわけで、森の探索をする。

 茂みに隠れながらバレないようにね。


 すると、


「うわあ……ホントにいるよ」


 2匹……かな。

 人間サイズの緑の化物が闊歩している。

 腰には剣や斧を身に付けていて、防具もボクらのような布の服じゃない。


「も、もう追いつかれたの」


 カンナギが青ざめた顔でそう言った。


「……でも、2人しか居ないみたい。

 これならボクたちで倒せたりしないかな」

「止めておこう。多分、2人で動いているだけだ」


 アトラス君の言葉にボクは頭を振る。


「追っ手は他にも居るはずだ。

 一瞬で声も出させずに倒せるならいいケド、今のボクらじゃ確実に長引いた末の決着になる。

 その間に仲間を呼ばれて3人諸共捕まるのがオチだ」

「そっか……」


 森をこのまま抜けるのも難しいだろう。

 ホブゴブリン達が先に行くのを待っててもいいが、結局は待ち伏せされて余計に不利になる。


 今のこの状況は思ってるより幸運だ。

 ボクたちだけが敵の位置を把握できている。


 これを生かさないテはあるまい。


「……うん。最初に言った通り、逃げよう」


 事前に話していたことなので、ボクの提案に2人はすんなりと頷いてくれた。


 今なら逃亡できる確率は高いはずだ。

 そのためにもステータスはできる限り上げた。


「逃げるときは3人バラバラでね」

「ええ、か、固まった方が安全じゃないの」


 と、アトラス君が不安そうな声を上げる。


「3人居たら見つかる可能性は高まる」

「そ、それじゃあ1人だけ捕まる可能性だってある」


 カンナギは3人一緒に逃亡したいようだった。


「そうだね。誰か1人が犠牲になるかも」

「だ、だったら……」

「カンナギ……逆になぜ犠牲が出ないと考えてるの?」

「……え」


 ホブゴブリンのステータスは平均60。

 そんなの化物が武器を持って徒党を組んでいる。


 それに対してボクたちはマトモな武器も無く。

 ステータスは圧倒的に劣り、カンナギのMPは未だに魔物を倒せるほど回復できていない。


「普通に考えて、全員が助かるなんて無理なんだ」

「なら、そう、エルフの救助を待とう。

 彼らは姿を消した私を探してくれている筈」

「駄目だ。脚を止めたら、必ず彼らに見つかるよ」

「でも、でも……」


 見た事のない駄々をこねるカンナギ。

 彼女は犠牲という部分に思う所があるみたいだ。

 たしかに最初からそう言っていたからね。


 なら、言い方を変えよう。


「これは全員が生きられるかもしれない手段だ」

「……!」

「今この時は()()()()()()()()


 ボクはそう言って締め括った。


「誰が捕まっても恨みっこ無しだぜ」



 ◇◇◇



 その後、ボクたちは3人バラバラに別れた。


 さて、どうやってホブゴブリンを引き付けよう。


 カンナギの言っていたことと矛盾することになるが、そもそも犠牲無くしてこの逃亡は成立しない。


 普通の人間が虎に追いかけられたら諦める。

 もし諦めない選択肢を取るには、何かを犠牲にしなければ成し得ないだろう。

 例えば手足、食糧、隣にいる友人。


 それがボクになっただけだ。


 殺すと決めたからには必ず殺す。

 助けたからには生き永らえさせる。


「……よし」


 ボクは手元のスリングを握り締める。


 狙いはツーマンセルで動くホブゴブリン。

 同時に殺すのは今のボクには不可能なので、どちらかを迅速に殺して次に移る。


 殺せなくとも負傷させれば御の字だ。

 ともかく彼等の脚を止めさえすれば充分。


 最高はホブゴブリンを負傷させ、尚且つボクも生き残って2人と後に合流する。

 最悪は逃げる時間すら稼げないで捕まる。


「気合い入れてこう」


 ボクは頬を音がしない程度に叩く。

 茂みの向こうにはホブゴブリンがいるからね。


 そして、スリングに弾をセット。


 弾はホーンラビットの額に生えていた角だ。

 先端が尖っていて鉄のように硬い。

 数は少ないが、確実にダメージは与えられる。


「………ふう」


 準備はできた。

 ボクは早速行動を開始する。


 集中してホブゴブリンを見つめた。

 仲間と話しているようで注意は分散している。


 今だ。


「………!」


 ボクはスリングを振りかぶって、投げた。

 角が射出される直前、風の魔法でブースト。


 これはエルフが弓矢で攻撃するときと同じらしく、カンナギから褒められた。

 本当は回転も加えたいが難しくできなかった。


 ビュンッ!


 かなりの勢いで角は飛んで行く。


「ぐおッ!?」


 ホブゴブリンが苦悶の声を上げて膝から崩れ落ちた。

 首筋には一本の角が突き刺さっている。


 貫通まではいかなかったか……。

 それに立ち止まるほどの傷では無い。

 でも、少なからずダメージは与えられたはずだ。


「お、おい大丈夫か!?」

「クッソ……! なんだ今の攻撃!?」

「なんだよこの角……ホーンラビットのものか?」


 イイ感じイイ感じ。


「どこから攻撃してきたんだ……こんなときに!」

「いいから、すぐに応援を呼んで来い!

 俺たちが追いかけている奴らかもしれん」

「わ、分かった!」


 傷を負っていない方のホブゴブリンが、慌てて他のホブゴブリンの元へと駆けて行った。


 残ったヤツは周囲を警戒している。

 次に攻撃をしたら、場所が割れてしまうだろう。


 ボクは息を殺して茂みの中に溶け込んだ。

 気配の消し方は暗殺者のときに既に学んでいる。


「……どこにいやがる……!」


 息を荒くしてホブゴブリンが悪態をつく。


 無駄だよ。

 ボクはこれ以上の攻撃をしない。


 そもそも目的が殺しではないからね。

 彼らが周辺の探索に時間を使ってくれれば、カンナギとアトラス君が逃げる時間を稼げる。


 だから、この状況はボクにとってかなり都合がいい。


 後はホブゴブリンの興味が削がれない程度に、影から攻撃を繰り返していれば充分だ。

 じきにバレて捕まるだろうが、そのときに2人は遠くへ離れていることができているだろう。


「こっちだ! 早く来てくれ!」


 と、数匹のホブゴブリンの足音が聞こえた。


 どうやら釣れてくれたらしい。

 彼等はここら一帯の散策を開始した。


 暫くは留まってくれるだろう。

 別のホブゴブリンを探しに行くことにする。


「…………」


 ボクは息を殺し足音一つ立てずその場を離れた。


 想像以上に上手くいっている。

 もしかしたら、逃げられるかもしれない。


 興奮で息が荒くなるのを深呼吸で無理に抑える。

 まるで、暗殺者に成り立ての新人のような気分だ。


 ここまで命を擦り減らして暗殺、というか隠密行動をする感覚はかなり久しい。

 それによって、今まで思いもしなかった感情が胸の奥底に湧き出るのを感じた。


 ああ、生きている、と。


 前世では暗殺者として慣れ過ぎて麻痺していた。

 今考えたら当然だ。

 幼い頃から暗殺者として生きてきたんだもの。

 暗殺や隠密行動等の、()()()()()()()()()()()()()()()のは仕方ないことだ。


 と、


「てめえッ!」


 うわあ!? ……ビックリした……。

 どうやらボクに言われた罵声じゃないみたいだ。


 しかし、声はホブゴブリンのもので間違いない。

 仲間が何かヘマをしてしまったのだろうか……。


「よくも俺の前に顔を出せたなッ!」


 そこまで怒られるって何事だよ。

 ……あ、もしかして2人を取り逃がしたのかな。


 たしかに、それなら激怒する理由も頷ける。

 きっとそうだ。


 まあ、ボクには関係無いからね。

 茂みから攻撃させてもらいますよっと。


 ボクは声の主が見える場所に移動して、


「…………は?」

「うわあああっっ!!!!」

「この恩知らずがッ! 誰に攻撃してんだ!」


 な、なんでアトラス君がいるんだよ……。

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