令和三年、一月二十五日の小厄災(リトルディザスター)
ノンフィクションと短編小説を書いたのは実は初めてです。
普段はファンタジー系の物語を書いているのですが、今回の方が実際にあったことを文字にするだけなのでスムーズに書くことができました。
あらすじでも書いていますが、台詞などは実際よりも多少面白く変えているので完全実話とは言い切れないのかもしれませんが、面白く変えることによって実際の出来事からズレが生じたりと言うことはありませんということを一応ご理解のほどよろしくお願いいたします。
あと、何度も確認したので誤字脱字は無いと思うのですがもし見つけましたらご報告していただけると助かります。
数ヶ月前、家のトイレの水が大しか流れなくなった。
小をした時であっても大で水を流さざるを得ないのだ。勿体なすぎる。
そして令和三年、一月二十五日になった。
少し前から風邪症状があり、仕事も休むだろうが一応朝の準備はしていた。
顔を洗ったり歯を磨いたりと。
歯磨きが終わった後鼻水が出そうだったので鼻をかんだ。
風邪症状は主に咳だったのだが少し鼻にも来ていると言うことかもしれない。
鼻をかんでいると、別なものが出てくる気配があった。
「あ……鼻血か……」
高校生くらいから鼻血が出やすくなっていたので血には慣れている。
今更取り乱したりはしない。
「今回は吐血しなければ良いなぁ」
そう思いながらティッシュを三枚程重ねて二つに折り、血が出た右鼻を押さえる。
つっぺにしないのには理由がある。
物凄い手前のところで出血が起こりやすくなっている為に鼻の穴に丸めたティッシュを突っ込んでも抜く際に穴の中を傷付けるだけで逆効果なのだ。
因みに先程吐血しなければ良いと言ったが、鼻と口は繋がっているので酷い時は血の塊が喉まで落ちて来て口から吐き出すと言うこともある。
何十枚使用しただろうか……数分後、血が止まった。
「ふぅ……やっと止まったか……」
風邪に鼻血……今日はついてないなと思いつつ、少し早歩きで家の中を移動する。
しかし――
ドォオオオンッ! と左脚の中指が何かに打つかった。
「イイイツァアアアアア! このクソッ! 邪魔だ畜生ッ!」
打つかったのは倒れるだけで腹筋が出来るマシンだった。
それに付いている足のカバーの様なものが外れており、丸いパイプの様な状態になっているところに打つけたらしい。
イライラしながらそのマシンを安全なところまで運ぶ。
「それにしても痛いな……中学生の頃転んでバスの下に足を思いっ切り打つけたことがあったがずっと痛みが消えず、バスを降りた時に靴にまで血が垂れているのを発見し、学校についてズボンを捲っていると血だらけだったことがある。その時痛みが治らない時は実は結構出血している可能性が有ると言うことを学んだ。今回もまさか……」
そう思いながら打つけた指を見てみる。
「おおぉ。結構血が……というかエグれてない?」
パイプに打つかったのだと思ったが、刺さったと言った方が正しいかも知れない。
なにもしなくても痛い。
取り敢えずいつもトイレに行く時間なのでトイレに行った。
座っている間傷を眺めていたがどんどん血が流れて来ているわけでは無い様だった。急いで止血する必要は無さそうだ。
トイレから出ると、風呂場のお湯で血を洗い流した。
勿論直接シャワーを当てると痛いだろうから足を濡らしてそこから流れたお湯で血も流した。
取り敢えず少なくともこのままにしておけば化膿したりするかもしれないと思い、応急処置として絆創膏を貼ることにした。
絆創膏を付けるにあたって改めて傷をしっかりみてみる。
「まずエグれているところがあって、その少し上に切り傷の様なものがあるな。ギリギリ同じ絆創膏に収まりそうにはない。そして更に上に血豆がある」
ということで絆創膏は三枚使うことにした。
因みに使う絆創膏は指を切ったりしたときに使うような一般的なサイズ。
こういう時、結構大きめのがあればよかったのだが生憎無い。
その後、電話をして仕事は休むことにした。
何もしなくても痛いのだ。この状態で外に出るなど考えたくも無い。
その上ここまで二回も出血した訳だが、恐ろしいことに、二度あることは三度あると言う言葉が日本語には存在する。冗談じゃ無い。一回目の鼻血よりも二回目の脚の方が重傷だ。このままのパターンで行くと、更に酷い怪我をする恐れがある。
「今日は呪われている……このまま外出したら交通事故にでも遭うのでは無いのか」
そんな考えが抜けなかった。
因みに、「大型トラックだったら異世界に転生するチャンスだったな」と考えたのは秘密だ。
まあそれに加えて、COVID-19の影響で少しの風邪症状でも簡単に休むことが出来た。いや、休まされた。
言い方は良くないが好都合だったと考えている。
その後、何度か体温を計ったり眠ったりパソコンで色々やったりしていた。
残念なことに、体温が三十七度を超えることも何度かあった。
平熱は高くても三十六、八くらいなことが多い。しかし家の体温計はあまり当てにならず、計る度にバラバラだ。
十三時頃、そろそろ昼食を食べようと弁当を電子レンジで温め始める。
元々今日は休むつもりではなかった為、弁当があるのだ。
因みにこの弁当箱には「この容器は電子レンジで温められます」と書いてあった。
「本当にマイクロ波を通しても大丈夫なんだろうな?」
と疑いながら温める。
結果、爆発はしなかった。
良かった。弁当箱による出血は免れたぞ!
昼食を食べ終わってから暫くして、親や仕事先から病院へ行く様言われた。
少し咳と鼻水があるのと時々微熱が出るだけという大して心配する様なことでも無い。しかしCOVID-19である可能性が零点一パーセントでも有る以上、念の為行かなくてはならない。
面倒臭いが仕方ないと思いつつ、バスで良く行く耳鼻科へ向かう。
途中高校生くらいの喧しい連中が乗ってくる。
彼らは座っている私の横で何やら騒いでいる。
理解不能なギャル語を話しており、兎に角五月蝿いとしか言いようがない。
「お前ら……俺がCOVID-19 だったら死ぬかも知れないんだぞ? 死にたくなければどっか行け。しっしっ!」
などと言える筈もなく、目的地まで我慢した。
目的地に着くと。
「やっとあの糞餓鬼共から解放されるぜヒャッフォォオオ!」
と思いながら耳鼻科まで歩いて行った。
入り口に熱のある方はこのインターフォンを押して下さいと言った感じの貼り紙があったが。
「まあ大丈夫だろ」
と思いながら扉を開き、入って行く。
受付に保険証と診察券を渡すと、症状を聞かれた。
「咳と鼻水が少しと……計る時によって微熱があったり無かったり……」
「その症状はいつ頃からですか?」
「あー。いつからだったっけ? 三……いや、四日程前からだった気がします」
いつから風邪症状があったかは少し曖昧だった。
「念の為お熱計ってもらえますか?」
「分かりました」
と言って体温計を渡され、計る。
『ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ』
計り終わった様だ。
体温計を取って受付に渡す。
「三十七点四……ですか……」
顔には出さないが、恐らく受付の人はここで面倒に思った筈だ。
他の病院がどうかは分からないが、少なくともここの耳鼻科は熱のある人は予約をしなければならない。そして、入り口にあるインターフォンを押す必要があった。
しかし私がどちらもやっていなかったのだ。
取り敢えず待合室で座って待っていることになった。
その間、これとは別の小説をスマフォで書いたり、早く帰りたいと思いながら帰りのバス時刻を調べたりしていた。
勿論いつ終わるか分からないので調べてもあまり意味はない。
そして数分が経ち、受付の人が自分のところへやって来て、熱のある方は予約し、インターフォンを押す必要があったと改めて説明される。
「しかし幸い上の診察室は空いていますので、今から二階へ上がり、インフルエンザの検査、採血、そして……PCR検査を受けて頂きます」
「はい。分かりました(え? ちょちょちょちょ待ってなにそれ地獄かよ!)」
PCR検査は経験が無いが、インフルエンザの検査と採血なら経験がある。
どっちも嫌いだ。注射の方がまだマシかも知れない。
血を抜き取られると言うのが何というか、気持ち悪い。
しかし可愛い吸血鬼に吸血されたいとは良く思うのだ。
こうなったら採血に使う器具、名前は分からないが、あれを吸血鬼だと思うしか無さそうだ。
「エレベーターから出ると目の前に看護師が居ますので」
そう言われ、エレベーターで二階へ上がる。
このエレベーターはかなり奥行きがあった。
患者を寝かせたまま運ぶ為だろうか?
そしてエレベーターを降りると目の前におばさんが居た。
看護師だ。
「本当に目の前に居るのか心配だったが確実に情報が行き渡っていてくれた様だな」
そんなことを考えていると、おばさん……おっと失礼。ベテランっぽい見た目の看護師が口を開く。
「今からPCR検査を行ないます」
「あ、はい(まずはPCR検査からという訳だな。噂に聞いたことがあるが唾液を出すらしい。ふふ、インフルエンザも採血も痛いが、唾液を出すだけなら楽勝だな)」
そう言って看護師は診察室へ行った。
検査に必要な道具でも取りに行ったのだろう。
唾液を出すだけなら楽勝……その筈だ。しかし、段々と恐怖心が出てくる。
看護師達はかなり大袈裟な対応をしている。
理由はCOVID-19 である可能性がゼロでは無いからと、世間体というのもあるのかも知れない。
分かってはいる。頭では分かっているのに恐怖心は増幅して行く一方だ。
――どれくらい待っただろう。
看護師が道具を持って戻ってきた。
スマフォの時計があったが体感時間は異様に長かった。
そして紙コップと大き目の試験管の様なものを手渡された。
「二CC以上無いと検査出来ませんので紙コップに唾液を出して頂き、溜まってきたら試験管に移す。この下のメモリで二CCなのでそこに溜まるまで続けて下さい。それと、最後にご飯を食べたのと歯を磨いたのはいつですか? 唾液に影響が出てしまいますからね」
と言った感じの説明を受け、直後看護師は何処かへ行った。
極力接触を避ける為だろうか? それとも忙しくて他にやらないと行けない仕事があるのは分からない。
「ふう……何か緊張してきた……だがやらなくてはならない。そうだこれが仕事と思えば良いのではないか?」
そんなアホらしいことを考えながらマスクを外し、紙コップを口に近付ける。
「おっとその前に一応親に連絡しておくか」
親はただの風邪だと思っているだろう。
勿論自分とこの耳鼻科の人たちもそう思っている。
しかし、家に帰って「PCR検査やらされたさ〜(笑)」と言えば流石に驚かれてしまう。
それはそれで面白そうではあるが一から説明するのも面倒なので先にLI●Eでもしておくべきだ。
マスクを付け直しスマフォをズボンのポケットから取り出し、PINロックを外してL●NEを起動。トークの欄から一番上の母親を開き、連絡内容をローマ字入力していく。
因みに中学生の頃から毎日PCを操作していたのでローマ字入力が一番得意だ。
なのでスマフォでもローマ字入力をしている。
デフォルトでローマ字入力が出来なかったのでスマフォ購入直後にローマ字入力のやり方を調べ、設定を弄った。
携帯入力は何回も押さないといけないので面倒臭そう。あと今の人はフリップだかフリック入力とか言うのをやっているらしいがローマ字の方が早いに決まっている。
という固定概念を持っている。
話が逸れてしまったが、親に「今からPCR検査する」と連絡しておいた。
因みに親とくらいしかLIN●はしない。
さてと、いよいよ唾液を出し始めるぞ。
しかしいざ唾液を出せとなると中々出ないものだ。
子供の頃、唾液が気になって飲んでも飲んでも次々と作られる唾液に意識が集中して困ったものだが、今となっては寧ろ出なくて困っている。皮肉だ……
そんなことを考えながらも、唾液は出し続けるしかない。
もしもCOVID-19 だった場合、私と接触した者を不幸のドン底に叩き落とせてしまうかも知れないのだから……
その可能性はほぼ無いにしろPCR検査を行うとはそう言うことだと思っている。
いや、そうであるべきだと思っている……
黙々と唾液を出し続ける。
「くそっ喉が乾く! 乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾く乾くぅうううう!」
想像を絶する程キツい……どれ程時間が経ったかは分からない。スマフォはポケットに入れたままで時計なども見当たらない。
しかしスマフォに逃げては行けない気がする。二CC溜めた暁には時間を確認することが出来る。それを褒美に頑張ろう!
今にして思えばこの時既に頭が可笑しかったのかも知れない。
別にスマフォ見ても良かったんじゃあ無いかな?
「うがあああああああああ! 水ぅうぅううう」
勿論本当に叫んだ訳ではなく心の中でだが、本当に叫びたい程水を飲みたかった。
血が足りなくなり吸血衝動に駆られている吸血鬼ってこんな感じなんだろうなと思う。
そして、何を血迷ったのか、途中血が飲みたいとすら思えてしまうことが何度かあった。
「あゝ。あの鉄の味堪らないんだよなぁ」
口が切れた時に飲める血が美味しいと感じる私はきっとキチガイなのだろう。
ふざけている訳ではない。
本当にやばい。
これだけ苦しい思いをしてまだ一CCくらいにしか満たない。
「嗚呼、何か気持ち悪くなって来た」
周りには誰も居ない。孤独だ。
一人孤独に延々と紙コップに唾を出し続ける……
「何なんだこれ……」
途中からもう自分が何をやっているのか良く分からなくなっていた。
ただ、覚えているのは二つ目のメモリに溜まるまで唾液を臭い紙コップに出し続け、試験管みたいなのに移し続けると言うこと。
只管、只管只管只管只管只管只管只管只管只管只管只管只管只管只管只管唾液を出しまくる。
「水が飲みたい」
しかし周りには誰も居ない。
何処かから人の声は聞こえる。しかしこの二階だけでも自分の居るこの場所は衝立で隔離されている。
いや、感染対策としてはこれで正しい。なのでこれで良いのだ。
寧ろこの病院がしっかりしていると言う証拠だろう。
大分紙コップに溜まってきた……
「そろそろ試験管みたいなやつに移すか……」
唾液なのでドロっとしていて移すのも何秒か掛かる。
しかし、何か危ない実験でもしているかの様だ。
いや、PCR検査は実験とも言えるのか?
「うおぉおおおおおおおおおお!」
勿論この叫びは心の中でだが、本当に叫びたい程嬉しかったのだ。
「やっと地獄から解放された! 脱水にならないか心配だったが何とか無事な様だな!」
そう、何と唾液が二CCを超えたのだ。
「キターーーーーーーーーー! ふぉぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
この病院内にテレパシー能力を持った者がいたら私はどう思われるのだろうか?
その後の記憶は正直曖昧なのだが、待っていると看護師が戻って来た。
どれくらい待ったのかは分からない。数分だったのかも知れないし、本当に長時間だった可能性もある。
確かなのは、緊張で時間感覚が壊れていたということ。
通常より大分時間が長く感じられていた筈だ。
唾液を出し終わった後ではあるが緊張は続いていた。寧ろただ待っているだけの方が辛かったかも知れない。
来た看護師に紙コップと唾液の入った試験管を渡す。
と、ここで忘れてはならないのが水だ。
気持ち悪い程喉が渇いている。
実際この程度の渇きで死ぬことはないが、気持ち的には今すぐ飲まなければ死にそうだ。
「すみません、水が飲みたいのですが……」
看護師に水を要求する。
表面上は冷静を保っているつもりだが内心は水のことしか考えられなかった。
「(水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水みっずぅうううううう! 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬウォワァアアアアアアアアアアアア!)」
こんなことしか考えられなかった。
我ながら良く表面上冷静を保てていたものだ。
「水ですか? 少々お待ちください」
と言って診察室の方へ言った。
そっちに水があるんだな!
「何でも良いから早くくれぇええええ!」
それから少しして、水が来た。
少し……と言ってもその時間感覚は信用出来ない。
水を入れてくるだけなら数秒から一分程で出来るだろうが、数分に感じた気がする。
だがこの際時間感覚など最早どうでも良いのだ。
水が来たのだからな!
「うぉおおおおおおおおお! 水水水水水水水来ッタァアアアアアアアア!」
勿論心の中で叫んだ。
「フォァアアアアアアアアアアアアア! ごくごくごくごく」
真顔で水を一気飲みする。
「ありがとうございました」
心からそう言った。
人間は相手の機嫌を取る為、心にも思ってないくせに「アリガトウ」とか言っちゃう残念で終わってる可哀想な生物な訳だけど、今のは本当の感謝だった。
そして、心の中では安心していた。
「ようやく水を飲むことができた。少なくとも脱水で死ぬことは無くなった訳だな」
その後トイレに行き、手洗い場の鏡を見ながら思う。
「別に心配要らないと思うが……問題はこれからだ。出来るだけ早く結果を教えてくれよ」
……と、ここでCOVID-19に構ってばかりで忘れていることがあるのに気づく。
「……インフルエンザの検査と採血があるんだった」
心の余裕が一気に減り、再び緊張が走る。
「嫌だァアアアア! インフルエンザは鼻痛いし採血は何かヤだ。さっきも言ったが吸血して良いのは美少女吸血鬼だけだって言ってるだろ!」
だが誰も私の叫び、悲しみを聞いてはくれない。
心の中で叫んでいるだけに過ぎないのだから。
数分待ち、診察室に呼ばれた。
二つの検査は廊下ではなく室内でするのかと思いながら入室して行く。
中には既に厳重にビニールの様な物を着込んだ先生が居た。
恐らくいつも診てくれる先生なのだろうが、厳重すぎて同一人物であると直ぐに認識出来なかった。
しかし認識出来ないくらい厳重と言うことは逆にそれだけCOVID-19が危険であると認識していると言うこと。ヤバい患者扱いされているのは正直微妙な気持ちではあるものの、冷静に考えれば慎重で良いことの筈。
やはり信用に値する。
他を知らないので比べようが無いが、今回この耳鼻科を選択したのは正しかったと思う。
何処か旅行へ行ったかなどを聞かれた。
勿論何処にも行っていない。
あとは今学生か社会人か聞かれた。
一応社会人だと答える。
この辺りは正直どうでも良い。
それは先生も分かっている筈だ。
COVID-19である可能性などほぼないところに念の為検査をしただけなのだから。
しかしこの時の自分は地獄のPCR検査で思考がネガティブになっていた。可能性の低い悪い方ばかり考えてしまう。
だから先生の一言で一気に安心した。
「まあ……大丈夫だと思うけど一応検査してもらったからね。それまではなるべく家族とも隔離して……」
こんな感じの会話だったと思う。
と言うのも、この文章を書いている時点で既にこの出来ごとから六ヶ月以上が過ぎているのである。
――そして、このまま診察は終わった。
「あれ? インフルエンザの検査と採血は?」
その二つはやらずに済んだ。
先生が忘れているのかと思ったが、そこまでやる必要は無いと考えたらしい。
診察が終わった後は会計だが、PCR検査をした廊下で待たされる。
とこの辺りで親から連絡が来た。
帰りは車で迎えに来てくれるらしい。
COVID-19疑惑のある息子をバスに乗せる訳にはいかないからだろう。
しかしバス代が浮いたのは嬉しい誤算だ。
そこからは大分長く感じた。
実はとっくに着いていて会計もしてくれていたのだ。
持って来た一万円札も浮いた。
暫く待って、目の前のエレベーターが開き、親が登場した。
そしてそのまま車へ向かったのだが、その間こんなことを考えていた。
「今日は色々あったな……震災に遭ったことはあるけど今日の様に不幸が何重にも重なった厄日なんて早々無いぞ……まるで漫画の主人公だ……そうだ、今日の出来事を小説にしよう。漫画は描けないが小説なら……」
ここでこの日のことを小説にすることを決めた。
車へ着くと、薬局には親が行ってくれた。
発熱のある息子を人と会わせない為である。
暫くして親が戻って来たが薬は持っていなかった。
どうやら薬局の人が車まで持って来てくれるらしい。
そして、少し待っていると本当に薬局の人が来た。
待っている間職場にPCR検査したなどと連絡を入れたのだが特に面白くも無かったので詳しくは書かない。
来てくれた薬局の人に対して、待っているだけでとても楽だと思うと同時に態々ここまで来させて申し訳ないと言う感情も混ざって来る。
後はそのまま車で家へ帰った。
今日の厄災はこれで終わりと思っていた。
だがまだ一つ残っていた!
それはトイレのことである。
冒頭にトイレの水が大しか流れなくなったと書いたが、いよいよ大すら流れなくなってしまったのだ!
「待て待て、調子悪かったから近い内に駄目になるとは思っていたが何故よりにもよって今日なのだ!」
因みにうちのトイレはリモコンで水を流すタイプなのだがリモコンが調子悪い時は停電になった時用に直接レバーで流すことが出来て、そっちを使っていた。
しかしそのレバーに問題がある様なのだ。
我々には直すことが出来ない。
仕方ないので親が業者を呼んだ。
始めは家を建てた時にお世話になったところに電話してみたが今日中には無理だそうだ。
「冗談じゃない! このままずっとトイレに行けなければ家族全員お寝ショ確定じゃあないか!」
実は家が二世帯住宅でトイレがもう一つあるので最悪直せなくても別に良いのだが、その後親がよく分からない水道会社かなんかに電話をかけた。
そのかけた会社は今日中に直しに来てくれると言う。
しかしここまで不運が続いたのだ。「そいつ詐欺師じゃね?」と疑ってしまう。
と言うかCOVID-19 の疑いが僅かでもある人の居る家に来させて良かったのだろうか?
「もしも陽性だった場合奴が詐欺師だった方が好都合だな」
何故そんなイカれた考えになるのかと言うと、詐欺師は生きる価値のない☆ゴミ☆だからである。
「まあそのゴミにウイルスばら撒かれたらたまったものじゃないけど」
結局直しに来てくれた人はただの良い人だった。
疑ってしまって申し訳ない。
丁度この間テレビで偽業者に騙された被害者が取材されていて、今それが問題になっているなどと言う内容を観た後だったので警戒しすぎていたのかも知れない。
トイレも直り、翌日検査の結果も出た。
当然陰性だ。
これ以降厄災が続くことは無かった。
結局何だったのだろうか?
呪われた一日だったとしか考えられない。
「決めたぞ。今日と言う災厄の物語の題名」
【令和三年、一月二十五日の小厄災】
そしてこの物語を書き始める――
まず、鼻血は慣れているので割とどうでも良かった。仕事少し遅れるかも……程度。
しかしそこからでしたね。二つ目の足の怪我は大分痛かったです。あんな怪我久し振りでしたからね。しかも家の中でとか改めて思い出してみても信じられない(笑)外でもあんな怪我しない。
そして風邪……足の怪我のせいでこれは本当にどうでも良かった。
寧ろ休む口実になって好都合。まああのまま外出して異世界転生しても良かったんだけどねw
しかしPCR検査しているうちにどうでも良かった風が結構心配になってくるんですよ。
環境に影響されたってことなのかな?
一番ヤバかったのは喉の渇きですね。PCR検査キツかったです。
最後のトイレはもうオマケ厄災って感じでした。
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