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03.気になるのは兄だけです

 急ぎ結婚相手を探していた者同士ということもあり、婚約の話はトントン拍子で進んだ。


 両家の顔合わせも済み、結婚式の日取りも決まり、私がハルフォーフ家へ嫁ぐ準備は着々と進んで行った。


 それでなくても忙しいアルとはあまり顔を合わせる時間がないというのに、そのせいで余計に減ってしまった。


 私がこうしている間にもあの二人は同じ職場で仲を深めているのだろうか。

 義兄弟になるのだから、いいだろういいだろう、と私のアルによからぬことをしようとしたら、たとえ男同士であっても許さない……!!



 アル不足でストレスがピークに達した私はその日、気分転換にと、王宮へ出向いていくことにした。



 名を告げて中へ通してもらい、アルが休憩に入るのを待つ。その間に、訓練中だという騎士団の演習場に見学へ向かった。


 それにしても今日は暑い。天気がよく、とても日差しが強いので日傘をさして行くことにする。


「……」


 剣を交えて各々に模擬戦を行っている騎士たちを見つめ、私はアルもこんなふうに訓練するのかなぁ。と想像を巡らせる。


 王宮へはあまり来たことがなかったけれど、よく見ると私の他にも貴族のご令嬢が遠巻きから騎士たちの訓練を見ていることに気がついた。


 へぇ、騎士って結構人気があるのね。


 令嬢たちの中には、こうして王宮に通い、結婚相手の男性との出会いを求める者もいるとアルから聞いたことがあったけど、本当なんだ。

 そういえばギルベルトは夜会などの社交界にはあまり顔を出さないらしいから、彼みたいな男姓との接点を作るにはこうするしかないのかもしれないと、納得がいった。


 今度はぜひアルの訓練中に来ようと思う。


「……ん?」


 そんな中、私の向かう先で日傘を閉じ、困ったようにその傘をいじっているご令嬢がいることに気がついて声をかけてみた。


「こんにちは」

「……こんにちは、マリーナ様」

「どうかされたのですか?」

「……実は、先ほどの強風で傘が壊れてしまいまして……」

「あら」

「わたくし、今日は騎士をしている彼と会う約束をしていたのですけれど……この日差しの下に長くいるわけにもいかないし……困りましたわ」


 彼女は確か、同じ学園だった伯爵家の方だわ。

 あまり話したことはなかったけど、おとなしくて可愛らしい印象がある。

 彼女の白い肌に、この日差しは確かに強敵ね。


「残念ですが、今日は諦めて帰ります。お気遣いありがとうございました」

「ちょっと待って」


 とても悲しそうにそう言った彼女を引き止め、自分の傘を差し出す。


「……え?」

「よろしければ、私のものと交換しませんか?」

「ですが、それではマリーナ様が……!」

「私はすぐ帰るので平気です。それに、その傘の模様がとっても可愛くて、気に入ってしまいましたの! ぜひ私のものと交換していただけませんか?」


 にこりと笑って彼女の手を取り、傘の柄を握らせる。


「……本当によろしいのでしょうか?」

「もちろん! 直して大切に使わせていただきますね。この傘も気に入っていただけると嬉しいのだけど……でも傘のほうはあなたのような可愛らしい方に使ってもらえて喜んでいるわ」

「まぁ、マリーナ様ったら……」


 可愛らしい照れた笑みを浮かべると、彼女は丁寧に礼を述べて頭を下げた。


「本当にありがとうございます」

「いいえ。それでは、ごきげんよう」


 可愛い彼女を見送って、私は再び騎士たちの訓練に目を向ける。


 ……うーん。でもさすがに、少し暑いかも。


「何をしている」

「!」


 目の上に手を当て、日差しを遮りながらどうしようかなと考えていると、突然音もなく背後から声がかけられた。


「……ギル……! ベルト様」


 さすがはアルと張り合う実力の騎士……私の不意を突くとは、やるわね。


「おほほほほ、ごきげんよう」

「……別にギルでいい。それよりこんなところで何をしている」

「ええと……ちょっと、散歩に?」


 一応それっぽくお辞儀をしてみたけれど、この男の前では不要らしい。

 他に私たちの会話を聞いている者はいないし、面倒なので私も口調を崩す。


「……まさか、アルに会いに来たのか?」

「なぜそれを……!」

「本当に好きなんだな。あいつなら城内()で仕事をしているぞ。今日は手が空きそうもないな」

「え……っ!? それじゃあ、会えないんですか……?」

「そうだな、急ぎの用がないなら邪魔はするな」

「……っ」


 くっ……。確かに急ぎの用はないけれど……。本当にアルは手が空かないのだろうか?

 もしかして、私をアルに近づけないために嘘をついているんじゃ……?

 このままではこの男に負けた気がする……!


「それよりも、こっちへ来い」

「え……、ちょっと、なんですか……!」


 悔しがる私に溜め息をついたかと思うと、ギルは私の手首を掴んで歩き出した。


 女性の手首をいきなり掴むなんて……!

 しかもなんか乱暴!


 本当に、アルとは比べ物にならない男ね。そう思いながらついていくと、やがて城の影になったところで立ち止まり、彼は私を壁越しに立たせて怖い顔をした。

 ……元からこんな顔だったかもしれないけど。


「なぜ傘を譲った?」

「……見ていたのですね」

「あの令嬢は友人か?」

「いえ、そういうわけではないのですが。これから恋人と会う約束をしていらしたので、傘が壊れていてはかわいそうだと……」


 壁を背にして、目の前に立たれるとその迫力に少し圧倒される。私よりも頭一個半は背が高い。アルと同じくらいだろうか……それ以上かも……。

 それにこの間うちに来たときよりも、〝騎士様オーラ〟が出ている気がする。アルも王宮(ここ)ではそうなのだろうか。……見たい。


 しかしこうやって見ると、なるほどこれが闇夜の騎士と言われる男かと、つい納得してしまった。

 彼は確かにアルとは違うタイプの美男子だ。身体も鍛えられているようで、がっしりしている。……もしかしたらアルよりも筋肉がついてる? 比較したいけど、まさか脱いでみてくださいとは言えないわよね。


「あなたはいいのか?」

「私はデートの約束もありませんから」

「……」


 それに、アルは昔から少しくらい日に焼けてしまっても健康的で可愛らしいと言ってくれていた。

 だから少し焼けるくらいなら気にしない。


「女性とは、日焼けをとても気にするものだと思っていたのだがな……」

「全ての女性がそうだとは限らないですよ」

「そのようだな。だが馬車まで送っていこう。俺の影に入れば少しはマシだろう」


 そう言って、ギルは再び私の手首を掴んで歩き出した。

 自分よりも背が高く、体格のいい男の日陰を歩く私は、掴まれている手首の熱に胸が跳ねた。


「……」

「そう離れると影から出てしまうぞ」


 わざと距離を取れば更にぐいっと引き寄せられ、身体が触れるかと思うほど近づいて鼓動が速くなる。


 こんな乱暴な掴み方をされて、何をときめいているんだ、私は……!


 ああ、きっと(アル)以外の男性に免疫がないせいね。でも優しいアルとは大違い。


「少しくらい日に焼けても大丈夫ですので、手を離してください」

「……婚約者なのだから、別にいいだろう」

「…………」


 言い方はとても冷たいのに、彼なりの優しさが伝わってきた。

 きっと彼も、女性への扱いに慣れていないのだと思う。そもそも、私のことをそういう対象で見ていないのだから、なんとも思わないのかも。

 一人でドキドキするなんて、馬鹿みたいね。


 悔しい……。


 このままこの男の思い通りになってたまるものか!


 そう思った私は、強引に手首を掴まれていた手を振りほどいた。


「……」

「あなたはそれでも公爵家出身の騎士ですか? 女性の扱い方をまるでわかっていませんね!」


 強気でそう言い、思い切って彼の手を握る。


「いいですか、エスコートとは、こうするのです!」

「…………」


 私のほうから強引に手のひらを重ねたから、エスコートとは言えないかもしれない。

 けれど形だけは、様になったはず。


「さぁ、早く馬車まで連れていってください。もうすぐそこです……!」


 自分でやっておきながら、顔が熱くなる。

 それは今日の日差しのせいにして、彼がそれに気づいてしまわぬよう前方を指さした。

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