第九話 迷路の道
ーこの小説はすべてフィクションです!実際に存する人や団体、地名、宗教などとは全然関係ありません。
「いや〜! 晴れてる~! いい天気~!」
扉の外へ出た私たちを迎えてくる清い大空。暖かい日差し。それらが彼女をこんなにウキウキと走りさせている。彼女は外に出ても、私と共になら、相変わらずそんなににこにことしている。
久しぶりに感じるその暖かい天気。街の人々もたびたび出て行って、やわらかい空気を感じていく。冷たい灰色にすべて塗られている街の壁。そんな中にもたびたび明るい黄色や軽い緑に彩ったところも見えている。光のないような灰色の壁だけと、それもそれなりの光で迷路の中を照らしていた。それを今さら、やっと気づいている。
そんな光の道をジグザグに進みつつ、彼女の右手が伸び、私の左手をつなぐ。汗に濡れ、汚れた私の手とは違って、彼女の手はすべすべでやわらかく私を包んでくる。そのやわらかい笑顔もこっちに向いている。
斜めに降り注ぐ彼女の視線に、私はただ幸せそうな微笑みを送る。なにかを望んだりして、または義務感なんかのために送ったことではない。そんなのなんか考える前から、ずっとそうしていたんだ。
なん歩かを歩いて、迷路の外郭の商店街にたどり着く。先より人々の姿が多い。とは言え、この狭い道を通せないほどではなかった。私たちの姿も、特に目立てる訳でもなかったが、特に隠されるわけでもなかった。
まわりを見ると、深い青色で塗られた看板には『アイリス』と書かれて、その隣には白い桜色を背景として『ヒガシのバラ』と書かれてある。その景色を、私はただ見つめている。その一方、彼女は積極的にあっちこっちに入ったりしている。
「わ〜それ見て、すげぇキレー!」
まわりが桜色が混ざられた金色で包まれてある鏡。それを見ながら、彼女はそう叫んでいる。まわりの視線なんかは全然気にしていない。そんな彼女を見て平然としたまま通りすぎる人々は、彼女の正体を知っているのか。そんな疑問が頭を過ぎっていく。たぶん、知らないんだろうと思って、彼女へ近づく。
「綺麗なんて、なにが綺麗とおっしゃるんですか。主語を明らかにしてください」
もう断念したような口振りでそんなことを言っていく。私も彼女がちょっと安くなったのか、自然に彼女の右肩に手をかけてしまう。それをやっと気づいたのは、彼女と目があった時。
彼女は驚きながら、ぼんと瞳をこっちに向けている。焦点は濁っていて、まわりにはなぜか桜が咲く。少女漫画などで出てくるように。ついに幻が見えてくるようだ。
そんなにぼうっとした彼女の姿はすぐに明るい微笑みに変わっていく。そんなのすべてが一秒もならない間にいそいそと目の前をすぎていた。
「ちょっと、慣れたかな?」
なんとなくその細い手で、軽く横髪をかき上げていく。まもなく、その長くてつやつやしている金色の髪が、ぼろい白色のワンピースの上に垂れられていく。
「まぁー、それで、私の質問には答えてくれないのかなー?」
まだまだ慣れない口調を無理しつつ吐き出す。ちょっと赤くなった顔は、彼女を向けず、ただ虚しい虚空を見つめている。
「それは君がもうしっかり知っているじゃん!」
ずっとこっちを向いている。見なくてもなんとなくわかる。
「では、自ら自身が綺麗だと言ったこと?」
徐々に、ゆっくり彼女の姿へ顔を戻しながら、そんなつまらないことを聞いてみる。聞かなくてもいいことを、聞く必要がないことを、あえて聞いていく。
「よく知っているのに、なんでまた聞くの?」
右手を私に伸ばしつつ、明るい声でそんなことを言ってくる。その笑顔と向き合えば、すぐわかってしまう。なんで彼女がそんなことを自ら堂々と言えるのかを。なにを着ても、なんの髪型をしても、どんな言葉を口にしても、その存在だけで輝いている。彼女、その自体が、彼女が美しくて羨ましい理由であった。
「じゃ、いこか?」
短いその言葉を受け取って、また彼女に引かれていく。ずっとそのまま、取りつかれていたんだ。
人々の中を突き抜けて、またなにか賑やかな街にたどり着く。温もりのある煙があっちこっちから出ている。やや辛そうなにおいが私の鼻を刺してくる。いきなりこんなところなんて、なんか向こう見ずに行ってるな、と思ってる。
彼女は本当に私のことしか気にしないでいる。周りに迷惑をかけるのかないのかは全然気にしないで、私の前で明るく声をかけてくる。そのたびに、適当な言葉でごまかしていく。
私なんかに、なにも答える言葉はなかった。彼女の幸せそうな表情に思考が止められたため、なんか素敵な言葉を作られなかった。
「へぇ〜! これ、また入ってきたのかい?」
私のそばで私と話し合いながら微笑んでいた彼女が、いきなり右のお店に目をそらす。あのお店でなにかを焼いている店長のような人は苦手な口振りで答えていく。なんの拒否感のなく二人は古馴染みのように自然と話し合っている。
「お知り合いなんですか」
もの静かにそばに近づけてそんなことを聞いてみる。あの人は私がなにを言い出したのか全然わかっていないようだ。やっと気づいたが、少なくともこの辺りの人には見えない。
「ああ。私、家出するたびにこっちに来たから。」
そんなことをずっと聞くと、なんか彼女はすごく不良な子だったような気がする。私が初めて見た彼女はそんなに気強いには見えなかったのに。その間に、変わってしまったのか。その原因が、私なのか。
「こっちは、あの海の彼方の彼方にある国からきた人。私が連れてきた……と言えるかな?」
なのでそんなに素直なのか。あの人は私たちの会話に割り込まず、ただ目の前の焼き物を焼いている。特に注文を受けされなくても、自動に調理している。それほど仲が良いようだ。ちょっと妬ましいと言う気もする。
私が彼女といろいろ話し合っていると、すぐ料理が出てくる。黒い鉄板の上に、明るい黄色の鶏卵がよく焼けられて広がっている。その下に、熱い焼き色がついたそばがちらりと見えてくる。やっぱり目早いなのか、二つの黒い鉄板を私たちの前に出してくる。
「それ、食べてみる? 私の一番好きな食べ物。」
すでに正解は決まったのに、そんなことを聞いてくる。
「答えは決まったんじゃないですか。」
と言ってみると、彼女はすでに食い終えていた。ぼうっとして彼女をみる私を見て、彼女は 「なに?」 と言ってるような表情を作っている。続けて、「ゆっくり食べて。」と言って、彼女はあの人とのんびり話し合っていく。
静かにそれを食べながら聞いてみると、なぜかわからない言葉をしゃべている気がする。たぶん、あの人の母国語で話し合ってるんだろう。彼女にそんな能力まであるとは思えなかった。まわりの国の国語をしゃべるのはよく見たが、海の彼方の彼方の国の言語までしゃべられるとは。
それと同時に、「いま、私だけ抜きにして秘密話でもしているのか」、という思いもついてしまう。なんかにやにやとしている二人の笑顔を見ると、やっぱちょっと妬ましい。
皿を空にして、彼女の横顔をずっと見つめている。その視線をやっと気づいて、彼女がこっちを向いてくる。そして、目を瞑りながら明るく微笑んで、
「あっ、ごめん。」
と言ってくる。その微笑みを見れば、どうしようがない。なにも言えなく、ただ私も微笑んでごまかしてしまう。なんかあったか、なんで私は微笑んでいるのか、私はだれなのかまで全部忘られてしまう。彼女の微笑みには、そんな力がある。
「アカリ、ハジメテミタ。」
瞳をぽかんとしているあの人が、口をもじもじしながら言ってくる。なんの感情も見えないその硬い眼差しは、なんとなくやわらかく変わってゆく。
私も、彼女も、その人も、なんとなく笑っていた。
ー足りない私の作品を読んでくださいましてまことにありがとうございます!もっといい作品を書けるように頑張ります!
ー連載は基本的に毎週日曜日に、一章ずつ投稿する予定です!