第六話 同居
ーこの小説はすべてフィクションです!実際に存する人や団体、地名、宗教などとは全然関係ありません。
あの日から一週も過ぎなかった頃、彼女がいつもの通りに訪ねてきた。軽く扉を叩く音が聞こえる。もう早朝に目を覚ますことも当たり前になっている。その音が聞こえる前に、体が自動的に起きていた。そのお陰で、すぐ扉を開け、彼女の前に整っている様子で立つことができるようになった。
「…」
彼女が開けられた扉の前で黙々と立っている。もう朝の軽い挨拶は身慣れている。でも、彼女を包んでいる背景が普段とはちょっと違っていた。
彼女の後ろに、なんか高級の旅行カバンがいっぱい重なってある。彼女はそれに軽く身を持たせかけて、腕を組んでいる。今日はやわらかいシルクの黒いワンピース。ちょっと白色の肌が透けて見える気もする。
「今日から私はここに住むことになったぞ。 了解したか。」
彼女は迷いもなく、荒い口振りでそんなことを言い出す。「お前には選択肢なんかない」と言っているように断固としている口振りだ。
「お前の許可なんてはいらん。入るぞ!」
彼女がすぐ楽しそうな声を出てくる。これから新婚生活なのか、と思ってしまう。とは言え、まだまだ正式に結婚式も行わなかったし、そしてなんで私の家なのか。
彼女の別荘の方かはるかにいいはずなのに。この家も、彼女からもらったので、そんなに狭くはないけど。それなのに、いきなりそのように私の家に住むと決まったとは夢にも思えなかった。
なんか楽しみという感情よりは色々な恐れや悩みだけが胸の奥で大きく膨らんでいる。聞きたいことはたくさん生まれたが、それを彼女の微笑みがすべて鎮めてくれた。その魔性の微笑みが、私が考えることを止めている。
今、私の頭に思いつくのは、彼女のことしかない。これから彼女と新しい生活が始まる。それだけを考えようとしていた。もう複雑なことなんかは考えたくない。ただ彼女と幸せになりたい、と。
彼女のやわらかいシルク・ワンピースが私の左肩をすれすれに通り過ぎていく。そんな彼女の姿は 「あの荷物は全部お前が内に運べ。」、と無言の圧迫を押し込んでいた。もう二人の隙間にそんな言葉などは交わさなくても全部届けるようだ。それを、彼女もよく知っている。
私は運命に従って、空いているある部屋に彼女の荷物を一つずつ運び始めた。元々、権力がない者がこんなことをすべきものだ。そう思いつつ、私は私がすべきものに励んでいる。
彼女はすぐ居室のソファーに飛び込んで、そのまま身を任せている。目を閉じて小さな笑みを浮かべていく。皇族と言われる名にふさわしくない安らかな状態で、まるで天上の世界の真っ白い雲の上に転がっているよう。見るだけでも、その穏やかな気持ちが伝える。彼女はそのまま気を失って、幼い頃の童話で見た『眠れる森のお姫様』のように眠り込んでいく。
ほとんど荷物を運んだ頃、彼女が目を覚めたりまた瞑ったりしつつ、私を見つめてきた。なにも言わないで、ただかすかな微笑みを浮かべている。たびたび彼女と目が合うと、なん秒かをじっと互いを見つめることになる。そうすると、なんか恥ずかしくなってしまって、慌てた目を落ちていくこともできた。
彼女は顔を落として小さな息を吐く。そしてまた吸い込む。彼女の横顔には日差しに隠された影が垂れる。その陰の下には彼女の明るい瞳がぴかぴかと輝く。
「すべて運びました。狭い所ですが、ぜひ、ごゆっくり。」
私もその言葉を出して、一瞬、あっとした。今さらやっと慌てる私を見て、彼女は穏やかに微笑む。暖かくからかう声を出してくる。
「はいー。ゆぅ〜っ、くぅ〜、りぃ〜、泊まります!」
そんな言葉を口にして、彼女は瞳に涙まで宿しながら、明るく笑ってきた。その暖かい姿のせいで、私も知らない間に大きい微笑みを顔に浮かべていた。
彼女はちょっと時間を置いて、ソファーから起きてくる。そのまま、私の方に向かってくる。
「ふいっー!」
ゆっくり歩いてきていた彼女が、いきなり変な声を出て、足を飛ばさせて私の胸に抱かれてくる。一瞬重心を失ってしまうところだった。「重い」、と言いたくなったが、そんな心をやっと押さえる。
「これで新婚生活始まりだね?」
明るく瞳を輝かせて私を見上げている。答えをよく選ばないと、今すぐでも私の首を落としてしまう勢いだ。負担すぎる。
「は…はい……。 ですが、なんでここですか?」
一瞬、また言葉を間違えたと思ったが、聞きたいことは聞きたいから聞いてみる。彼女は機嫌悪い気配もなく、左頬を私にくっつけながら、答えてくる。
「だって、女の部屋には秘密のものがたくさんあるから。」
私生活保護というわけなのか。まぁ、それ以外にも色々あるんだろう。一般人の私としては見ればいけない国の重大な書類とか、一級秘密情報とか。その理屈が理解できないわけではない。
「でも、君はあたしに隠している秘密なんてあればダメでしょ?」
「…」
「どうせ、君は隠すものもないと信じてるし、もしかあったとしても、そういうわけにはいけないんだから、ここがサイテキ!」
一言さえも間違っていない。からかうような口調だったが、誠に初めから終わりまで、一言も間違っていることは見つからない。私が彼女に秘密を隠しているのもない。隠そうとしてもすぐにばれてしまう。そして、隠してもいけない。彼女の前だけには、正直に向き合わなければならない。
「だって、今からどう呼べばいいかな?」
彼女は引き越しして心がうきうきしている子供のように声をあげていた。
「ぜひ、普通に呼んでください。他人に嫌われますよ。」
「君はもう、あたしだけに好かれたらいいんじゃん?」
まぁー、それは確かにそうだけど。
「そんな単純な意味の『嫌われる』じゃないと、よくご存じているんじゃないですか。」
単なる嫌われると意味じゃない。複雑な礼儀などの戦いに巻き込んでしまうのだ。
「そうじゃないけど。 なにを言ってるのか全然わからない。」
「はぁー。」
深いため息を吐いてしまう。そんな私を、つんつんとした眼差しで私を刺してくる。
「今ため息ついたの? 皇族の恐れも知らず、調子に乗り上がっているのか!」
彼女は餌食を見つけたように飛びついてくる。私とくっついているまま、前で怒り顔を作っている。それまでもかわいいので、私は微笑みを浮かべざるを得ない。
「今すぐ君を処分させることも無理なくできるから。」
彼女もまだ微笑んでいる。冗談なのか本当に実行する気で言ってるのか、全然わからない。なによりも、彼女が言った事がすべて実行できるということが、もっと判断力を落としている。いずれにしても、私が言うべきの言葉はすでに決まっている。
「すみません。」
その言葉にはどれくらいの意味が含まれているのか。それを口にしている私すらもまったくわかっていない。
「では、『君』と、ずっと呼ぶわ。それっていいんでしょ?」
彼女がその言葉を届いて、私を包んでいたその両腕を緩めていく。
ー君、私がずっと守っていくから。ー
ー足りない私の作品を読んでくださいましてまことにありがとうございます!もっといい作品を書けるように頑張ります!
ー連載は基本的に毎週日曜日に、一章ずつ投稿する予定です!