第四十三話 たのみ
ーこの小説はすべてフィクションです!実際に存する人や団体、地名、宗教などとは全然関係ありません。
「あぁー。ありがとう」
・・・・・・・・(シャルルー)・・・・・・・・
あの人が目を閉じたままやわらかい言葉を口から出す。いつからか、あの人とは先生と呼べるほどの関係まで発展した。あの日から六か月。たったの六か月に、いろいろなことがあって、いろいろなことが変わってきた。そのなか、確かに変わらなかった一つは、みんな一緒だったのだった。
僕は緊張していない。それより、緊張すればいけないんだ。もう戦にいく。そこからは理性的に、合理的に、もっとも冷静に、そしてなにより速く、すべてを決定しなければならない。もう慌てて試行錯誤を繰り返す暇はない。正気で、向き合えなければならないんだ。
「あのさ。最後に頼みがある」
やっと目を覚ました彼が僕にいきなり声をかけた。暖かい。なのに冷たい声。覚ました目にも、まったくくすんでいる。
「これ、もらってくれないか」
彼はカバンから白い紙をなん枚か出した。初めてここにきた時に、彼の唯一の財産であった金色の封筒の中に入れていたもの。気を付けて、僕はそれを左手で受け取った。そのやわらかい表面を両手で感じながら、彼に問い続けた。
「それ、なんの意味があるんですか?」
僕はすこし冷やかしっぽい声で言い出した。でも、ほんとうにその意味をわからなくて聞いてきたわけではない。言われなくても、ちょっとだけはわかっていた。
「一番上の小さい封筒は、君宛の手紙だから、読んでくれ」
彼は僕と視線を合わないまま、話し続けていた。彼の言葉を無視して、僕は彼から渡されたちょっと大きい封筒を探し出す。そして、ゆっくり封筒の開け口へ手を動かす。
僕がその封筒に手を近づける音が聞こえると、彼はいきなり慌てて、僕を向いて目を大きくしたり、小さくしたり、あたふたする。
「あー、えーえっと、今読めと言うことじゃなくてー、」
彼の言葉に僕は手を止めて、彼の声を聴く。
「えっとー、それがー、私行ったら読んでみよ……」
意外にかわいそうな面があったな。そう思いつつ、僕はそこから手を離れようとしていた。
「じゃ、じゃねー!」
でも、彼はすぐ言葉をどもって、あの彼方に逃げ出していく。僕はただ軽く笑いながら、彼の後ろ姿を見送った。
彼の姿が僕の視界から完全に消えた後、いよいよまた封筒に手を戻した。確かに、彼が言った僕の宛の小さな封筒も見つけた。
けど、なんか大きくて、高級そうなこの封筒。それが先に読みたかった。彼が僕に任せたものだから、読んでもいいんだろう。そう思って、だんだんとその封筒に手を近づける。
それにつけている赤い封蝋を遠慮がちに離す。ゆっくり気をつけて封筒をきれいに開けろうとしたのに、一瞬に手が外れる。あっという間に、封筒の開け口がばりっと破れてしまう。二切れに割れた封筒を呆然とした目で睨む。
「はあー」と深いため息を吐く。
心の底から僕を押さえていたなにかが口から外へ飛んでいく。いきなりそんな感じがした。おかげで、ちょっと軽くなった気持ちで、左手に握られている紙の一切れを手放す。ひらひらと紙のかけらが地面へ落ちていく。春の木から舞い踊る花々のように。
幸いに、封筒の中身は少しの少しも傷つかず、きれいに保存されていた。しっかり折れている手紙を開く。すると、ちょっとだけ隅々が黄色っぽく染まった白い紙の上、いくつの文字が震えながらも強くて硬い書き様で書かれている。
ーあいしているー
もっとも大きくて小さい文字で書かれたその言葉に、瞬間僕はびっくりして目を閉じた。また勇気を出して、目を開けてもう一度あの文字に向き合うと、どう見ても、先生の筆跡では見えなかった。
誇り高いお姫様の筆跡のようだ。美しくて暖かい。
なんだ、それ恋愛手紙じゃない? なんでそんなものを僕に預けた? 僕は当たり前に、なんか軍事的な書類や、条約書、あるいは秘密情報ようなものが含まれていると思ったのに。なんでそんなことを、私に預けたのか。
その文字からは、彼からには感じられなかった深い感情が包まれている。その真下に、目立つほど下手な書き方で同じ言葉が書かれている。
ーわたしも、あいしている。ー
その文字を見ていると、なぜか空笑が出てしまう。まるで、子供のように真面目ない文字だ。だが、その中には、僕なんかがあえて感じられない真剣な感情が含まれていた。
僕は続けて目を回してみる。色々な丸い文字がそちこちに散られている。たびたび鋭くなった文字も見えてくる。僕も知らない間に、暗い微笑みが僕の顔に浮かべられていた。
そのように手紙を見続けていると、右下の隅に、いくつの文字が目に入る。
ーいま、あいたい。ー
なんか、涙に濡れているらしい感触。他の文字に比べて、もっと最近に書かれたそうだ。その文字を見て、瞬間僕の頭に、ちょっとおかしい考えがよぎっていった。
ー彼は、死のうと思ってる?ー
なんだよ、これ。そう笑いながら、その手紙を元に戻す。さっきの僕をすれ違った考えは、もう思い出さない。
僕は、本の目的に戻って、あの小さい封筒を開けてみた。小さい封筒に小さい手紙。だけど、小さくない頼みと小さくない文字。それを一つずつ、ゆっくり読んでいく。
ーきみに、しんじる。そして、たのむ。このよにのこった、あのすべてを。ー
僕はその文字を理解していながらも、理解できなかった。
理解、したくなかった。
それでも、僕は頼まれた務めに全力を尽くすだけ。
・・・・・・・・(シャルルー)・・・・・・・・
ー足りない私の作品を読んでくださいましてまことにありがとうございます!もっといい作品を書けるように頑張ります!
ー連載は基本的に毎週日曜日に、一章ずつ投稿する予定です!




