第三十一話 封筒
ーこの小説はすべてフィクションです!実際に存する人や団体、地名、宗教などとは全然関係ありません。
覚悟だけは決めたが、でもただそれだけだった。
どこへ向かったらいいのかまだ迷っている。実は、ここがどこなのかもよくわからないままだから。ただ、あの城の北から、ずっと詰め走ってきた。そんなことしか覚えない。
私の記憶が正解ならば、ここは城の北のどこかだろう。いったいどこまで走ってきたのかはわからないけど、ずっと前だけ向いて走ってきたのは確かに覚えているから。
そうなら、今からどこへ行けばいいのか。なんとなく、南へ走れば、またその迷路の城と会う可能性が高い。それはあまりよくないな。東には奴らの本拠地である、あの赤い国がある。敵の本拠地の方になんの準備もしなくて進むのも当然、無理なのだ。特に、今のような状況では。
ここよりもう北に上がっていくのも意味なし。目的地の南の国とも正反対側だし、そこではなんでもできない。つまらない冬の国々だけがかわいらしく集まっているだけ。
そんなに迷い続けた果て、私は右側に目をそらす。選択肢は西の方しかなかった。
西ならば、黒い旗を使う新興国がある、と聞いたことがある。実は、あの国の国王も見た覚えがあるらしい。初目は、あの迷路の城に引っ越した日に、二目は、彼女に引っ張られてあの国との会議なんかに参席した覚えがある。二つとも、遠いから見ただけだが、あの王の容姿は特に悪くなさそうだった、とかすかに覚えている。
元々は私たちの国とはあんまり仲が悪かった国だが、あの王の治りに入ってから、順々に仲良くなったらしい。少なくとも、彼女が私の前であの国について悪いことを言ったことはなかった。他の国については、たびたび陰口を叩いたこともよくあったけど。はぁー、なんとなく、また懐かしくなっちゃった。
そこなら、行ってもいいんだろう、と思って、西に体を向かうことにした。
体を起こそうとすると、左手から白い紙が弱い風にひらひらと揺れていく。私は右手を伸ばし、彼女の手紙を取り直した。もしかしたら、あの手紙を落としてしまうところだった。やっと、取り戻したあの手紙をゆっくり見流しながら
彼女の手紙の後ろになにか違う感じの紙々が私の目に映る。形はつまらないあの条約書などと似ているらしい。だが、他の書類とは違って、それも彼女の筆跡で書いてあるらしい。
そのため、私はこれまでは読んでみようとしていた。
皇位継承認定書、って書いてある。ちょっと、子供の悪戯っぽい気がするけど、確かに彼女の印章もおされている。その一つ一つの曲線も、すべてその穏やかが感じてくる。なに一つも乱れはなく、まるで、悠々と流れていく一筋の雨足のように。そんな美しい曲線が紙の上を踊っている。
それがなにを意味するのか、私はよくわからなかったが、なんとなくわかった。今は、ただの意味のない紙切れにすぎないが、それ以上に、特別な意味がある。少なくとも私にはそうだ。
そこに皇位継承者として書いてある名前は、私のものだった。彼女に、それほど認められたのだ。
私は……ただのバカ者にすぎないのに……
彼女は、私を信じてくれたのだ。私を、本当に愛してくれたのだ。こんなに不器用な私を……
「もしかしたらの話だけど、私が皇帝になれなくなっちゃったら、君がなりなさい。」
一瞬、あの夜の言葉が思い出した。そこまで、考えていたのか。とは言え、もしかして、これも罪なのか。私なんかにはどうしても重すぎる名、「皇帝」。この重さを背負わなきゃならないのか。それすらも、私の務めなのか。
いや、これは最後の最後の手段だ。彼女が私に頼んだのは、ただのそんなもんじゃない。ただ、それも一つの手段にすぎない。目標を達成するための、いろいろな手段の中でただ一つ。
だが、とにかく、こんな状況でそんなものは全然使えないものだ。ただこれだけで皇位を認められるわけがない。皇位を取る者は、力があるものになるのに違いない。
でも、それよりも、私はそんなことを望んだこともなかった。ただ、彼女が皇位へ昇ると、ただ、二人きりの時間を送りたかっただけだった。今さら、私なんかが皇位に昇ったとしても、意味ないことだ。そして、もしかしてこの紙切れが効力があるとしても、私は、これを使う資格なんてない。
私は、ただ壊してやるだけ。
私たち二人を壊した奴らを。
ー足りない私の作品を読んでくださいましてまことにありがとうございます!もっといい作品を書けるように頑張ります!
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