第二十二話 急変
ーこの小説はすべてフィクションです!実際に存する人や団体、地名、宗教などとは全然関係ありません。
大きな門が外から開いていく。
脱出の門だと思ったあの門は、一瞬に戦乱を開ける門と変わって私たちの前から離れていく。あの門の後ろから、よくわからない大きい叫び声が聞こえてくる。敵の、本隊が、よりによってこんな時に……
もう、正面に突破するしかないのか、と思うほど、私はすべてをあきらめた心だった。
その手を離そうとしても、彼女は手の骨が壊れるほど強く、私の手を握りしめている。私は完全に離してしまったのに、彼女はそれでもあきらめずに、ひらひら広げられている私のその左手を、まだ離さなかった。
そして、身を回していく。私たちは真っ黒な夜の迷路に、再び私を導く。私は、ただ彼女が導く通り、そのまま彼女を追いかけていく。その姿から感じてくるすべては、さながら夢のようにかすかになっていく。
彼女に引かれてその灰色の壁の中を走っていく。後ろからはずっと騒ぎ声が近づいてくる。まっすぐには彼女の息音が私を震えさせる。その騒ぎ声と、その息音が、私の中で紛れていく。
どんどん、意識を遠ざかっていく。はっきり目は開けていても、なにも見えない。しっかりしようとしても、精神はぼうっとなっていく。
顔を上にあげてみる。目の前に広がっている大空は、現実だとは思えないほど綺麗だった。そんな悲劇的な最後の日の大空だとは思えないほど。明るく真っ白い色で煌めく星々と、穏やかに微笑むまん丸いお月様。まるで、この世を脱して、宇宙の真ん中にいる気持ちだった。
その美しい景色をぼんやりとみている私。そんな私を、彼女はずっと離さないでいた。なぜだろうか。私は、離そうとしたのに。今までのすべてが一瞬に頭をよぎっていく。でも、幸せだった記憶は全部消えて、すべて、悪かったことだけが蘇ってくる。
やっぱ、私はこの世に生まれなかったらよかったのに。そうだったら、彼女も、私も、幸せだったのに。
私は、この世に生まれてから、ずっとなにかもらうばっかりだったな……
それなのに、こんな今にも……全然変わってねーな、お前……図々しくいまだ生きているんだな……
「だまれ、つまらんこと考えるな」
彼女が、私に顔は向けず、重くて荒い声で叫んでくる。私は、なにも言わなかったのに、まるで私の心がすべて透けて見えるように。私は、その言葉のおかげで、目を覚めた。そんなこと、今までなん回でもあったのに、また……
でも、今は彼女の言う通り、考えない方にした。それが、ちょっとだけでも彼女のためのことなら。
どれくらいを走ったのか、もうだれの人気もないところまでたどり着いた。両側に冷たい灰色の壁が並びに建っている。彼女はそこで一応足を止め、あの壁に倒れていく。そんな中にも彼女は私の手を堅く握りしめていた。
そのため、私も彼女と一緒にあの壁に背をもたせて倒れるしかなかった。
私たちは、しばらくすべてを忘れて、ただ大きな大空を一緒に見上げた。星々は輝いて、その中を流星の群れが過ぎていく。とても愛おしい景色に間違いなかった。今の事も、すべて忘れてしまえば。
「凄く綺麗な大空だな―」
彼女が口を開ける。その声がつないだ彼女の手から震えてくる。
彼女はただ大空を見て悲しい笑顔を見せていた。特に輝く今日の満月が、彼女の顔の右側を照らしている。
彼女の頬には悲しすぎて美しすぎる涙が、さながらあの大空から流れてくる銀河の如く、一粒一粒流れていく。
・・・・・・・・「あの大空も、本当に夢みたい。」・・・・・・・・
本当に、すべてが夢のようだった。
もしか、私、夢を見ているのではないか? もしかして、ここはただ悪夢の中ではないか?
もうすぐ……夢から覚められるのではないか……
ここで目を覚めると、いつものように彼が私の左側で寝ているのではないか……
しかし、なんどでも目を瞑って、また開けて見ても、ずっと同じ大空だ。あの時の夢で見た悲しすぎるほどの美しい大空。まるで、私たちに最後のプレゼントを見せているようだ。
夢とは確かに違った。この生々しい怖さが。この生々しい痛みが。
手を強くつないでいた右側に顔をそらしてみた。彼は相変わらず子供のようにかわいそうな瞳で私だけを見上げている。
最後のこの瞬間を、ざっと終わらせることはできない。必ずー、となにか覚悟がもう一度私の左胸に堅く刻まれた。
私はいつもそのようだった。失敗して挫折したあとに、やっと覚悟を作り、胸に刻む。
そしてまた失敗する。覚悟という壁はいつも易く壊れてしまう。それを、ずっと繰り返すだけ。
けれど、今はそんなことはできない。しっかりしないと、私と私の、命が危なくなれる。
ここで、もう退路なんかない。正面に向き合わなければいけない。この迷路の果てに。
彼を顔を見ると、なんか変な笑顔が涙に混ざれる。
怪しいけど、こんな状況になっても、互いと目を合わせるとなんか変に笑顔になる。
彼を見ると、なぜか幸せになる。こんな状況になっても。
「もっと一緒に居たい」
私は小さな真心を心の底から持ち出し始めた。その言葉は、彼に言った言葉でもあったが、どこかで私をみているはずのだれかに言う言葉でもあった。ちょっとだけでもいいから、もっと時間をくださいって。
彼はただ言葉もなく、ただ顔を軽く縦に振ってくれた。笑みはなんぜか止まらずに、もはや川が流れるように自然に流れていた涙も止まらなかった。彼は無心そうに私を見放してくれつつにも、つないだ私の手をやわらかく慰めてくれた。
この感触が私に届いてくる瞬間、私は一瞬思いついた。
―いまが私たちの最後の時間なんだろうか―
ー足りない私の作品を読んでくださいましてまことにありがとうございます!もっといい作品を書けるように頑張ります!
ー連載は基本的に毎週日曜日に、一章ずつ投稿する予定です!




