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ラブメイズ(LoveMaze)   作者: 西野雪絵
第二章 前夜(Veille)
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第十一話 誓いの場所

ーこの小説はすべてフィクションです!実際に存する人や団体、地名、宗教などとは全然関係ありません。

「ふわふわ〜」


 彼女が変な声であくびを吐き出す。そうながらも、顔は完全キレイ、そのまま。ぼさぼさしているその金色の髪も、人のものとは思えないほど(いと)おしい。長く垂れているその髪は、女神(めがみ)の姿にくっつき、足取りに合わせてのんびりと揺られていく。私は遠いからその姿をぼうっと見据えているだけ。



 白色の薄いシャツが彼女の体を包んでいる。なんか他の人が着たら、くだらなさそうに見えるはずのもの。そんなみすぼらしい衣服すらも、彼女が着た高級なシルクのように明るく輝いていく。その下からは、真っ白い乳色の肌の光がちょっと(こぼ)れてきたので、もう視線を止めてまた彼女の顔へと戻そうとした。



「なにをしていらっしゃるんですか」


 ぼろぼろとしている目を彼女に向いて聞いてみる。彼女は私に振り向かず、私に後ろ姿を向いたまま話してくる。


「朝ご飯、食べたくない?」


 目を()って前をしっかり見てみると、真っ直ぐには白いテーブル。その彼方で彼女がフライパンを右手に握っている。あの固い黒色のフライパンを手にして、明るく微笑んでいる。そんな目で私を見てくる彼女。その手は、ちょっとでも間違ったら、すぐ私の頭の上に落ちてしまいそうだ。


「いいえ、めちゃくちゃ食べたいんです」


 その答えを聞いた彼女がキレイな笑顔を私に送って、体を回していく。その後ろ姿に長く垂れている金色の髪は、星々の川のように輝いていく。



 暖かい灰色の(けむり)が上に上がっていく。おいしそうなにおいが届いてくる。文字通り、平和の時間。

なにもしなくて、そんなに座っていてもいいなのか。そう思って、足を動けようとしても、その前に彼女が


「ただ座っていて。それが手伝うのだ」


 と言って阻んでくる。そのまま、私はただ彼女の後ろ姿を見据えていることになる。やわらかく動くその細い腕。その手使いもとても(かがや)かしい。本当に、彼女の言う通りだ。私は(だま)ってなにもしない方がむしろ手伝うのかも。



 なん分かが経って、彼女は二つの皿を両手に持ち上げ、テーブルの上に下りていく。その姿さえも完璧すぎたと思えるほど。広い皿の上には、明るい緑色のパスタ(めん)が美しく整っている。その色は、広い草原に映る太陽の(ぬく)もりのよう。



 まもなく、彼女が高級そうに見える小さな(びん)を持ってくる。その(びん)は薄い乳白色(ライトイエロー)で満たされてある。


「愛の粉だよ!」


 優しくそんなことを言いつつ、それを皿の上に美しく振りかける。その景色(けしき)は、まるで初雪が降り注ぐ広い草原のよう。


「へぇー。だれが見ても疑いなくだっだのチーズ粉じゃないですが?」


 なんの勇気が出したのか、うっかりそんな必要ないことを言ってしまう。そんな私を見て、彼女も一瞬奥歯(おくば)()む。


「はぁー」


 彼女が重くため息を吐いて、


「それじゃはっきり言っとく。帝国皇室(ていこくこうしつ)の名で買った高級なチーズ粉だ。愛ではなく、金がいっぱい入った粉だ。もういいか?」


 めっちゃムカついてる声を吐き出す。けれど、彼女は私と目が合うと、すぐに笑顔に変わっていく。やさしいその眼差しに、すべて溶けてしまう。


「そんなことを聞くと、お姫様の愛がすっかり伝わります!」


俗物的(ぞくぶつてき)なやつ」


 いきいきしてる私の言葉に、彼女は苦笑いを作りながらそんなことを言ってくる。だけど、私も、彼女も、強いて言われなくてもわかっているはず。私たちがただ金だけでつながっているそんな関係ではないことを。もしか、そんな関係だったら、初めから今の関係なんてできなかったんだろう。私の方が絶対的に貧しすぎる。



「とにかく、食べてみましょ。」


 そう言った彼女は、先にフォークは取らない。そっくり目をつぶって、そのまま右手を上げる。静かに指先を額から胸に、そして左肩から右肩に動かす。いつもの通りの食前(しょくぜん)(いの)り。彼女が篤実(とくじつ)な神様の信者といことを、もう一度悟らせてくる。神なんかは彼女以外にはありえないと思っている異端者(いたんしゃ)の私には、意味ない行動にしか見えない。



「あっ、あまりいきなりですが、昨日のあのお店ではなんでしませんでしたか?」


 いきなりそんなくだらないことが問いたくなってしまう。でも、彼女は淡々(たんたん)と問い返してくる。


「なにを?」

「先の……食前祈りというか……」


 あまり平然としている彼女の声で、むしろもっと緊張してしまう。


「あぁー。さっきのそれ?」


 彼女はやっとフォークを右手にして、パスタをいっぱい巻き上げながら答えてくる。ガブっとパスタの麺を大きく一口入れていく。ちょっと間をおいて、なにも残らないキレイな口を開けて、いよいよ答えてくる。



「そんな祈りをする人に引っ張れて、奴隷(どれい)になってしまうところだった人の前で、あまり適切じゃないんでしょ?」


 その意味深い彼女の言葉を聞くと、やっぱすごい人だな、と思い付いた。他人のことをそこまで考えているとは、全然思えなかった。



「だって、なんで私の前はするんですか」


 ちょっと重く押された雰囲気を生かし出すため、冗談の風を加えた声で言っていく。私の意図を完全に把握(はあく)したように、彼女は軽く声を変えて笑ってくる。


「神様に言ったんだ。ぜひ、あの子がしっかりするように!」


 そう言いつつ、いつの間にか彼女の皿は空っぽくなっていた。



 私がやっとフォークを手に入れると、彼女は両手に頬をかけて負担すぎる瞳で私を見てくる。フォークをあっちこっちに動かすたびに、彼女の瞳も私を追いかけてくる。赤色の薔薇のように致命的な眼差しで、ずっと私を追いかけてくる。


「なにか、問題かも……?」


 ついにフォークを下りて彼女に聞くと、返ってくる言葉は、「いや、なんでもない。」 ようなもの。でも、彼女は私から目を離れない。


「ただ君がかわいいから」


 桜色に変わっていく彼女の瞳。私をずっと見据えてくる。私が小さく(めん)をフォークに巻き上げて、口に入れ込むたびにも、彼女の瞳はこっちを見ている。


「もっと、必要なんですか?」


 真剣な声で彼女に私の皿を押して渡してみる。私はいったいなにをしているのか。でも、彼女は「いや、いや。そんなもんじゃない。」と言うだけ。いよいよ私が食事を終えるまで、彼女はずっとそこで私を見守っていた。



「おいしかった?」


 彼女の甘い声で聞いてくる。その瞳には星々が輝いている。その美しさに滑って、一瞬、言葉を失ってしまう。だけど、質問に答えなければならない。


「はい! めっちゃくちゃ!」


 私は強いて元気そうな声を上げる。本当にその通りだった。おいしすぎる。こんなのが皇室(こうしつ)資本(しほん)の力というものなのか。

私が腰を上げると、彼女が先に二つの皿をその手にしていく。恐ろしいほどのはやさで片付けを終わらせて、そのまま私に振り向いてくる。



 明るい白色のドレスを着た花嫁(はなよめ)のような彼女。その彼女は私に手を伸ばして、うきうきしてる声を届けてくる。


「私たち、結婚もしたから、お互いにお誓いしましょう!」


 私にそのキレイな瞳を合わせてくる。伸ばされた彼女の右手には小指だけが伸びている。


「いきなり、なんの誓いですか?」

「私たちの永遠の誓い!」


 声だけはうきうきしてるけど、まだまだ抽象的(ちゅうしょうてき)すぎている。なにを言いたいのか、なんとなくちょっとだけはわかるけど、全然わからない。


「誓いって……血の契約書(けいやくしょ)でも書くのですか?」


 冗談を半分混ざって問いかけてみる。同じ時に、私の右手も彼女の方へ伸ばされ、そのままさりげなく彼女と指切りされていく。


「そっか、本当に、血でも書いてみよっか?」


 悪戯(いたずら)っぽい微笑みで私に言ってくる。そんな中、しっかり繋いでいる二人の小指からなにかがビリビリと感じてくる。ちゃんと彼女と目を合わせようとすると、彼女はちょっと首を下げて目を瞑っていく。



「私は、君をために、一生を(ささ)げることを、神様の名をかけて、いま、このように誓います。」


 短く切られた暖かい感じの言葉。目をやわらかく開けた彼女の瞳が、すぐ私に向いてくる。


「お前もさっさとやれ。」


 ちょっと前とは他の人だと思えるほど変わりすぎた態度。そんな彼女の目で追いつめられて、私もゆっくり目を閉じる。首を下げて、なにを言えばいいのか、ちょっとだけ考えてみる。


「私は…、一生懸命…、彼女のことを…、愛します!」


 でも、考えて置いた言葉は、すぐ忘れて口にはせず、そんなつまらないことだけが言葉に出ていく。瞬間、彼女が「ぷっ」、と笑ってしまう。その声に、私は顔も上げられなくなって、目も開けられなくなる。


「ちゃんとやり直してみよ。」


 まだ笑っているような声で言ってくる彼女。なんとなく、指切りした指先に力が入れていく。

呼吸を整えて、もう一度口を開けてみる。


「私は……、いま、私の前にいる……、彼女を……、永遠に愛します!」


 今度には「ぷふふっ」と、もっと長く笑い声が続ける。でも構わなく、私はなにかを言い続けようとしていた。


「だから、ずっと、そばに……いても、よろしいんでしょか……?」


 急に疑問形に変わってしまった言葉に、彼女は笑うことをたえられなくなる。


「いいよ。続けてみ。」


 短い返事をもらって、私はもう迷わず口を開ける。


「愛します! だから、死ぬまで、死んだ後にも! ずっとそばにいます!」


 そう叫んで顔を上げてみると、彼女がやわらかく微笑んでいる。その瞳と目が合うと、なんとなく頬が熱く沸いていく。


「それは、死ぬ時、あたしも連れて行くと言うこと?」

「い…いいえ! 絶対そんなもんじゃなくて!」


 久しぶりに慌てていく私を見て、彼女は 「かわいいな。」 と言って私を髪を撫でてくれる。


「では、私も。永遠(とわ)に君のそばにいる。」


 最後の言葉は、私と目を合わせながら言ってくれた。その言葉で、私は顔全体が赤くなって、彼女は明るく笑えるようになる。



「今日は各々の家に戻って。明日、見せたいものがあるから。」


 真っ白い色で囲まれた別荘の廊下に(ひび)悲報(ひほう)。慣れない同居生活だったけど、突然そんなことを言われると、なんか惜しい気持ちがする。


「だって、今、ずっと互いのそばにいるんだって誓ったばかりじゃないんですか。」


 ちょっと甘える子供っぽい声がうっかり出てしまう。でも、彼女はなんか面白いことでも考えているように微笑み続けている。


「君の家とここほどの距離なら、「そば」だと言ってもいい。」


 奇跡(きせき)論理(ろんり)。でも、「そば」という基準は明確なものではないから、全然間違っている言葉でもない。


「へぇー、それは一体だれの基準ですか。」


 そんなことを聞いてみても、返してくる言葉は…


「皇帝になる身が真っ先にそう決めた。文句があるなら、処分してやるぞ。」


 肝を冷やす殺し文句。彼女が普通の人だったら、それも冗談で過ごせたのかも知らないが、彼女の地位と、すぐに見えるその恐ろしい笑顔を見ると、本当に実行してしまう気がしてしまう。


「ご…ごめんなさい…。」


 私が言えることはそれだけだった。



「では、また明日ね!」


 そんな複雑(ふくざつ)なことを考えていると、すぐ別荘(べっそう)の外に通る扉の前にたどり着く。

惜しい表情で彼女の目を見る私。それを見た彼女は、いきなり軽くその唇を私の頬につけてくる。甘い味の短いキス。

そのまま家に戻るのが、こんなに辛かったのか、初めて知った。

ー足りない私の作品を読んでくださいましてまことにありがとうございます!もっといい作品を書けるように頑張ります!

ー連載は基本的に毎週日曜日に、一章ずつ投稿する予定です!

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