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人間とは、こんなに落差のある表情のできる物なのだなと、妙に感心してしまった。
最初に会った時は渋い顔。
名乗れば、光でも発しそうな笑顔。
かと思えば今は、落とし穴に落ちた上にたらいまで降ってきた、というような顔をしている。
「大丈夫か?」
目に見えて落ち込んだユンは、その場に蹲み込んでしまった。
「この役目にお前が相応しいか、暫く様子を見させてもらうからそのつもりで」
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そうして別れてから、この露架飯店に頻繁に足を運んでいる。
芸団の者達は他の仕事もあり、入れ替わり立ち替わり顔を見せるが、最初にあったチュンミという少女と老爺、ユンは住み込んで店を切り盛りしている。
「どうぞ」
ガツ、という音と共に目の前に湯呑が差し出された。中の茶が半分近く溢れている。
「あら御免なさい。私ったら何故か腕に力が入ってしまって」
ユンが右手で作った握り拳を左手でさすりながら微笑んだ。
「やれやれ、がさつな店員がいたものだ」
湯呑を持ち上げ、残った茶をすする。
茶を出したユンは、溢した茶を自ら拭いている。
わざわざ拭くならやらなければ良いものを。
「私これから芸団のお仕事だと言いましたよね? 今日は大事なお客様の仕事だから付いて来ないでくださいよ!」
「なに、邪魔をするわけではないのだから良いだろう。俺のお陰で仕事も増えたのだし」
「参議様のお仕事は少っしも!捗っていないようですが」
「俺が仕事を蔑ろにしているとでも?」
「だってしょっちゅう私のことつけ回しているし。この間なんかちゃっかり宴に参加して綺麗なお姉さんにお酌してもらっちゃって!」
ああ、そういう事か。
「なんだ、たったひと月ほど共にいただけで、俺に惚れたか? 駄目だ。俺には重要な任務があるからな。
お前はこの湯呑みとでも睦み合っていろ」
空になった湯呑を差し出すとユンは素直に受け取り、そのまま持ち上げて頬擦りした。
「ああ、湯呑さん。どこぞのうだつの上がらない参議様よりよほど素敵だわ。さあ、私と厨房に参りましょう。どこぞの勘違い男は放っておいて」
そういうとどかどかと足音高く裏にひっこんでいった。
このように、ユンは素直じゃない性格だった。
ひと月、この露架飯店に通い、芸団の仕事にもついて行って感じたが、最初こそ丁寧な態度だったのがすぐに粗雑になった。
舞は見事で何度見ても同一人物とは思えないほど。
そしてーーー
最初の予想通り、大変使い勝手の良い駒になりそうだった。
左議元の屋敷を漁っていたところから、もうすでに誰かの手先として使われているのではと考え、今日まで様子を見てきた。
俺がユンの様子を見ると宣言し警戒させ、その実裏でジドに調査させたが全く怪しい点はなかった。
誰か貴族の屋敷や、盗賊の根城に通うこともない。
では左議元の武器庫で何を探していたのか。
意を決して、ユンの後を追った。