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黄燕国首都、長尊の一角。
広大な敷地を誇る、贅を尽くした屋敷の庭に造られた楼閣で歓声があがった。
「左議元様。本日は誠におめでとう御座います。
左議元様のご活躍はまさに龍の如しでございますな」
「本日のご生誕記念の宴も、至極ご立派で!
この酒なぞ王族ですら滅多に口に入らぬと言われる一品ではございませんか」
酒気の渦巻く声で褒めそやす言葉は、絶えず流れる楽を打ち消すほどだ。
本日の主役である左議元は、今やこの黄燕国で右に出るものの無い程の勢力を誇る高官である。
美しい花に豪華な料理。綺麗な女の人たち。
あそこには牛肉の串焼きが山盛りだ。
あんなに立派なお肉なんていつから食べてないだろう。どんな味だっけ?
分からないけれどとにかく美味しいのは間違いがない。
ああっ、あそこには栗の甘露煮に菓子が…
思わず身を乗り出そうとしたところ拳が降ってきた。
(いったー!ちょっと何するのよ)
(ユン!幕からはみ出るな!)
押し殺した声で怒られる。料理につられ、ほんの少し開けた幕の隙間から出てしまうところだったようだ。
(あわわ。危ない危ない)
慌てて引っ込むが、幕の中は狭い。五人ものごつい男とともに詰められているとまったく息苦しい。
私たち露架芸団は、今日ここで舞を披露することになっている。
今は出番を待っているところだ。
またそっと幕の隙間から外を窺いつつ、周りを観察する。
広間を囲むように設えられた大きな長卓に座すのは、三十人ほどの人々。
その隙間を埋めるように華やかな芸妓たちが酌をしている。
一番奥の真ん中、豪奢な虎皮の座に着いているのが左議元だ。
いかにも偉そうな雰囲気で黒々と蓄えた髭をしごいている。
そして。
幕から伸びる緋毛氈の先、卓に囲まれた広い空間が私達の舞台。
今回の仕事は私にとって大きなチャンスだ。
長年の努力の賜物で、芸団の踊り子として人気が出てきた。
この宮廷高官たちの集まる場で成功して、誰かの目に留まれば、宮廷にお呼びがかかる可能性だってある。
宮廷専属芸団にだってなれるかもしれないのだ。
一際高い鈴の音が鳴り響いた。曲調が変わる。
出番はまもなく。
衣服を整えて、周りの男達に目線で合図を送る。
ここから、私の運命が変わる。