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第89話 イリアーヌとイケメン隊

オザックの迷宮に挑んだ俺たちを含め十組のパーティー。そのうち早くも2組が撤退した。そして、一階層の奥で俺たちは階層の主に挑む者たちに合流した。

 ようやく、一階層の端が見える所まで来た俺たちの前で、階層の主に挑んだらしいパーティーが重傷者を出して結界内から戻ってきた。


 まだ遠くてよく見えないが、判別すると、

<男 34歳 騎士LV20>

<男 30歳 戦士LV14>

<女 21歳 戦士LV12>

<女 20歳 冒険者LV11>

<男 19歳 スカウトLV9>

<男 22歳 僧侶LV11>

という男女混成の6人パーティーだった。


 かなり高レベルだ。階層の主は、それでもかなわないぐらい強かったのか?


 リーダー格のデモスという騎士と、LV12の女戦士、そして僧侶の3人が重傷のようで倒れている。治療役が倒れてるから他の奴も治せないってことか。おそらく僧侶は怪我を押して、“破魔”を唱えて結界内から戻り、力尽きたってことだろう。


「おい、大丈夫か!?」

 順番待ちをしていたパーティーの連中が駆け寄っている。


 この世界の迷宮は、「迷宮ワーム」と呼ばれる巨大な魔物が掘り進んだ跡だ。

 ワームは年に一度脱皮して殻を残しながら、徐々に地下深くへ掘り進んで迷宮を広げていく。

 その殻は魔法的な結界の働きをしていて、一度に一組のパーティーしか中に入ることができない。だから、早かったパーティーから順番に挑むってことにしてるんだろう。

 俺たちもその場に駆けよりながら、そんなことを考えてた。


 倒れた男女のまわりに僧形の6人の男たちが膝をついて、治療呪文を唱えている。さっきの連中は「自己責任だ」って言ってたけど、治療してやることもあるんだ。困った時はお互い様だしな。


 治療している男たちを判別してみると、レベルは10~15までの間で、ジョブは全員が「修道士」って出た。

「リナ、修道士ってどんなジョブなんだ?」


「基本的にロードと似てる。僧侶の上位ジョブで戦闘力も高いよ。ロードは騎士と同じく、騎士身分以上の貴族しかなれないけど、修道士は平民でもなれるの」


 なるほど。ジョブとしての騎士と身分制度の騎士は紛らわしいけど、言いたいことはわかった。身分でチェンジできるジョブが変わるってのも不公平だけど、「職業」って言い換えれば、そう意外でもないか。


 取り巻いてみている中にはイリアーヌもいた。

「イリアーヌさん、どういう状況だったの?」

「あー、シロー、キミたちも追いついたのね。2組目のデモスたちが階層主に挑んだんだけど、どうも面倒な奴だったみたいね」


 治療している修道士が、回復した騎士に話を聞いている。

 普通はライバルであるパーティーに、自分たちが戦った階層主の情報を教えたりはしないことも多いらしいが、今回は不文律を破って治療してもらったからな。


 どうやら、騎士や戦士たちの武器攻撃が全く効かない相手だったらしい。

 このパーティーはレベルはイリアーヌたちに匹敵するけど、魔法攻撃出来るメンバーがいないみたいだからな。

 それは、治療してる修道士たちも同じようだけど・・・。


「ボスコ、あんたたちはどうすんの?」

 イリアーヌが修道士の中で一番レベルの高い男に尋ねた。


「うむ、物理攻撃無効か、あるいは極端に防御力が高い甲羅持ちのようだ。我らでは通じぬ可能性が高いが、これも修行の一環、神の試練であろう」

「相変わらずよくわかんないわね、あたしには。じゃー、行くってことね?」


「うむ、最善を尽くし戻ってくる。あとはお主が挑めばよい」

「はーい、がんばってね」


 2組目のデモスらが無事歩けるようになって出口に向かうのと入れ違いで、新たなパーティーが急ぎ足でやって来る。

 あれは、俺たちのせいで「11番手」に繰り下がった連中じゃないかな。そうか、リタイヤしたパーティーが迷宮を出て、代わりに中に入れることになったのか。


「これから階層の主に挑むところか?」

 先頭に立つペゾスという、LV12の冒険者の男が話しかけてきた。

「ああ、1組目は撤退したから、今から2組目・・・」

 俺が答えると、ほっとしたようだ。


「結局、入口からここまで魔物が残ってなかったからな、この先に挑まないと来た甲斐がないぜ」

 そうか、残ってた魔物は俺たちが片付けちゃったからな・・・


 そのタイミングでちょうど、6人の修道士たちが2列に並び、破魔を唱えて結界に入っていった。

 あれ?誰がパーティー編成してるんだ、と思ってスキルを見ると、中に1人、パーティー編成スキルを持ってるのがいた。冒険者を経験している修道士ってのもいるってことだな。

 冒険者→僧侶→修道士か、それとも冒険者でLV22まで伸ばしてスキルポイントを10ためて直接ジョブチェンジしたのか、どっちも気の長い話だ。


 イリアーヌによると、この3組目のグループは神殿を守る僧兵のパーティーで、王都の冒険者たちの間ではよく知られているそうだ。

 修行の一環で冒険者として難度の高いクエストにも挑んでいるとのことで、それで負傷者を助けたりもすると。で、全員修道士ってことは攻撃魔法はないから、多分通用しないけど、修行だから肉弾戦でやれるところまでやって帰ってくる、ってことだそうだ。


 色んな人たちがいるんだな。修行だから、全員が同じジョブだと不利だとか、そういうことは考えないんだろう。


 5分ほど待つと、肩で息をしながら満身創痍といった体で6人が戻ってきた。


「魔甲蟹であった。物理無効だな」

 と、あっさり次のイリアーヌに教える。

「ありがと。ほんとによくやるわねー、あんたたち」


 同感だ。いくら殴っても斬りつけても効かない相手に、攻撃だけは一方的に受けながら戦い続けるって、俺には無理だ。

 修道士たちは互いに“大いなる癒やし”をかけあって、それが済むと結界の前で座禅みたいなのを組んで、“瞑想”を始めた。


「我らは階層主への挑戦権を放棄するゆえ、順番の後ろに回る。貴殿らが一番後ろか?」

 リーダーのボスコというLV15修道士が、新たに最後尾にいたペゾスたちに聞いて、その後ろに回った。

 タフだなー。


「じゃ、あたしらの番ね。ベンツェ、ガスパル、アーコーシュ、フェレプ、アラダール、いいかしら?」

「「「ミレディのために!」」」

 わー、イケメンたちが一斉にポーズ決めてコールしたよ。これスーパー戦隊もの?


<ベンツェ   27歳 戦士  LV18>

<ガスパル   26歳 僧侶  LV16>

<アーコーシュ 22歳 冒険者 LV17>

<フェレプ   21歳 スカウトLV16>

<アラダール  17歳 戦士  LV16>


 あらためて見ると、5人それぞれキャラが立ってて、女子的には野性的なのから知性派やかわいい系まで、よりどりみどりって感じか。

 く、悔しくなんかないもんね。


 ガスパルというインテリ風の容貌の僧侶が破魔を唱え、イケメンズに守られたイリアーヌが結界の向こうへ消えた。


 しかし、“物理攻撃無効”なんて相手だと、攻撃が通るのはイリアーヌの魔法だけってことだよな。男たちは盾にはなるだろうけど、相手を倒せるかはイリアーヌしだいだ。ケガとかしないといいけど。


 俺の心配をよそに、計7組のパーティーが見つめる結界は、わずか3分ほどで激しく振動し始めた。

 なるほど、結界が破られるのを外で見てるとこういう感じなのか。


 とか見てると、イリアーヌたちの次に並んでたパーティーが、白くぼんやりした光が晴れ始めた途端にその中に突入した。それほどレベルが高くなかった連中だ。

 でもそれって、危険じゃないのか?


 完全に結界が晴れた途端、激しく眼前の地面が陥没し始めた。

 そう、こうなるんだよ。

 多分、5組目のパーティーは階層突破の経験がなかったんだろう。地震と崩落を避けるのを最優先しなくちゃいけないのに、先を急ぎすぎだ。崩れ落ちる地面に巻き込まれたらしく姿が見えない。

 入れ替わるように、崩れかけた地面からイリアーヌたちが駆け戻ってくるところだった。


「誰っ?いまのは!」

 イリアーヌが焦ってる。

「あ、シロー!キミたちじゃなかったか・・・そうよね、迷宮討伐完遂してるんだもん、知ってるか」

 ひょっとして心配してくれたのか。


「イリアーヌさんたちの次に並んでた連中が、結界解ける瞬間に飛び込んでって・・・」

「ゲルサリウか、あのバカ、だから迷宮はまだ早いって忠告したのに・・・」


 崩落がようやく止まった。

 俺の地図スキルには、土砂が崩れ落ちた下に、かろうじて4つ、白いかすかな光が見える。

「なんとか助けられる奴だけでも掘り出そう」

「そうね」


 他にもイリアーヌのところのイケメン冒険者やスカウトなど、スキルで把握した者たちがいて、各チームが力をあわせて捜索する。場所がわかるとイリアーヌやリナなど地や風の魔法を使えるものたちが掘り起こして、ボスコたちが治療していく。

 なんとか助け出せた4人は、自力で歩けるぐらいまで回復した。


 残る2人は、カーミラの嗅覚でなんとか見つけ出すことはできたけれど、既に遺体だった。この世界でも、俺が知る限り死者を生き返らせることはできないんだ。


 この日最初の犠牲者たちに、みんな肩を落としていたとき、崩落した先に見える洞窟から大量の魔物の気配がした。

 カーミラが、ウーッとうなる。

「オークのにおい!」


 二階層はどうやらオークの巣窟らしい。


 正直、救出活動や治療でみんなかなり消耗している。とは言え、健在なパーティーが7つ、それなりに腕の立つ奴が多そうだ。


「みんな、ここは協力して戦うってことでいいわね?」

「賛成だ。きょうはこいつらを全力で駆逐したところで封印ってことでどうだ?」

「異議なし!」

 各パーティーから声が上がる。


「悪いが俺たちは下がらせてもらう。みなの武運を」

 5組目のパーティーを率いていたゲルサリウという男が申し訳なさそうに告げる。二人犠牲者を出し、治療を受けたとは言え残るメンバーもけが人だ。4人で二つの遺体を抱え、出口に向かう。


 それを見届ける間もなく、レベルの高いパーティーが洞窟正面に展開したので、俺たちは一番隅の洞窟の陰にあたるところに陣取る。

「カーミラ、隠身を使うときは他のパーティーの流れ弾を受けない位置でな?」

 俺たちはパーティー編成で互いの場所がわかるが、他のパーティーから矢や魔法をくらう危険があるからな。

 こくっと人狼娘がうなずいた途端、オークの群れが押し寄せてきた。


 二張しかない弓はノルテと僧侶モードのリナに持たせ、俺が持つセラミック大盾の陰から狙わせる。このメンバーなら攻撃の火力は他のパーティーに任せられるから、レベルの低い俺たちは防御主体でいい、そして僧侶リナに経験値を稼がせたいってのもある。


 俺は大盾と共にセラミックの槍を中空に創り出し、指揮官っぽいオークリーダーを探してはその頭上に落とす、って戦術に徹した。

 こっちに突っ込んでくるオークは、味方の射線から外れたところまで引きつけてカーミラに襲わせる。


 戦いは10分ぐらい続いたろうか?たぶん、7、80匹のオークを相手にしたと思う。俺たちが倒したのはそのうち10匹ぐらいに過ぎないが、7分の1の役目は果たしたと思う。


 とりあえず第一波を撃退し、あとは洞窟の奥の方にまだ多くの気配はあるものの、向こうも警戒して様子をうかがっている感じだ。


「どうする?」

 この中で一番レベルの高そうなLV24の騎士、たしか俺たちの前の組のリーダーでレジャって名前だ、そいつがイリアーヌとボスコに尋ねた。

「あたしはMPがもうきついわ」

「我々もきょうは十分だと思う。何事も過ぎたるはよくなかろう」


 他のパーティーにも異論はないようだ。最後に参戦した11組目のペゾスたちも、それなりに戦果があったようだし、けが人も出ているらしく、反対しなかった。


「誰か封印できるものは?」

 レジャが聞くと、イリアーヌはこっちを見ながら答えた。

「がんばれば出来るけど、できれば誰かお願い」


「俺がやろう」

 まだMPに余裕がありそうなペゾスのパーティーの魔法使いが、そう言って結界を張り、その日の迷宮戦は打ち止めになった。


 僧侶ジョブを持つ者たちが、散らばるオークの遺骸を魔石に変えていく。なんとなく自分たちが倒した数だけ、ってのが不文律のようだ。


 そして、階層の主を倒したパーティーが主の残す宝箱と魔石を得る、っていうのも冒険者間のルールらしい。

 イリアーヌのイケメン軍団のスカウトが宝箱を見つけて罠を解除し、なかから砂金と何か盾みたいなものを回収していた。

 防御力の高い敵だったようだから盾なのかな?


 迷宮から出ると、まず詰め所に退場の報告をする。入った人数と出た人数が違ってたら遭難者がいるってことだからな。それから隣りの売店で魔石を売る。

 きょう入手した魔石は小さいのがほとんどだが、オニウサギや魔猪、オークと計30個ほどあったから、高値の買い取り設定のおかげで全部で銀貨90枚、小金貨換算で4枚半にもなった。結構な稼ぎだ。


 イリアーヌたちは砂金とかに加え階層の主を倒した報奨金とかも出るそうで、「今夜は酒盛りだわ」と上機嫌だった。おねーさん、かなりイケるくちらしい・・・


 初日から階層が制圧された反面、目の前で犠牲者も出たけど、だからこそ冒険者たちは割り切りが早い。明日は自分かも知れないからこそ今を楽しむ、って空気がある。

 どこに泊まってるのか聞くと、彼女たちはここから2、3kmの王都郊外の街に住まいを借りているそうで、そこまでは帰還魔法で飛ぶらしい。


「旅籠は満員らしいわよ、それにこの村はちょっと田舎過ぎるからね」

 確かにイケメンズもイリアーヌもおしゃれだし、少し大きな街の方が居心地がいいんだろう。


「じゃあ、また明日ね」

 そう言うと呪文を唱え、一瞬で6人は消えた。

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